「あー、だりー」
 長い間寝ていたからなのか、高熱を出していた影響か身体が思うように動かず全身がだるくて仕方がないとククールは眉をひそめる。





 考えてみれば1週間もの間ベットの中で過ごした事になる。
 ゴルドで傷ついたマルチェロと別れてからと言うもの、ふと気が付くとあいつの死顔ばかり想像して恐怖にかられていた。
 困った事に夢にまで出てきて、例えようもないほどの恐怖で夜中に目を覚ます日々が続いていたのだ。
 そんな寝不足も手伝って今回は風邪で倒れるという事態を招いてしまった。
 自他共に認める不真面目人間ではあるが、それでも仲間と共に一刻を争う最中に体調管理も出来なかった自分がククールは嫌になる。



 しかし不思議と恐怖は消えていた。
 あいつ、兄マルチェロの事は血を分けた自分が信じてやるしかない。そう思えるようになっていた。
 高熱で朦朧とした意識の中、兄の事を考え恐怖を感じるたびに柔らかい手が自分の顔や手を包んでいてくれたような気がしていた。
 昔、この世に神などいないと言うククールにオディロ院長は「いつか必ず神に会える」と言っていたのを思い出す。
 その当時はその意味が全く分らなかったけれど、この世に本当に神がいるならば、あの優しい手が神なのではないかとククールは感じていた。







 「あんた起きてて大丈夫なの?」
 ゼシカは部屋に入ってくるなり、身体を起こしているククールに問いかける。
 「あー、うん」などとあいまいな答えを返すククールに「まだ熱あるでしょう?」と咎めるような口調で再び質問しながらゼシカは手をククールの額に伸ばす。

 「な?」
 ククールは焦ったように素っ頓狂な声を出してしまう。
 「何よ?熱を測るだけよ。別に何かイタズラしよってわけじゃないわよ。」
 熱でますます頭がおかしくなったのではないかとゼシカは呆れる。



 しかしククールのほうはそれどころじゃなかった。
 もちろん今まで女に身体を触られた事がないわけではない。
 だが今は無性に恥ずかしく、どういうわけか胸の鼓動が止まらない。
 女に関する事は全て自分がリードし百戦錬磨であるはずなのに、たかが額に触られるだけで、しかも相手に下心が全くないこの状況で動揺していることにククールは驚きと戸惑いが隠せない。

 「だから何驚いてんのよ?とにかく熱を測らせなさい。」
 ゼシカは呆けているククールに苛立ちを感じたのかキツイ口調で言い放ち、有無を言わせずククールの額に手をあてて、その温度に顔をしかめる。
 「まだ少し熱いわ。薬飲んで横になってなさい。」
 相変わらず言葉はきついものの口調は心配そうであった。



 まだ呆けていたククールはふと「ゼシカだったのか・・・」とポツリとつぶやいた。
 「は?」今度はゼシカが素っ頓狂な声を出す番だった。
 しばらく眉間にしわを寄せ考え込んでいたゼシカは「本格的にボケたの?」などと聞いている。
 「いや、そういう意味じゃなくて」
 苦笑いしながらククールは口ごもった。
 「じゃあ、どういう意味よ?」
 尋ねるゼシカは怒りやあきれを通り越して心配気味だ。
 「う〜〜ん?ゼシカは神様だったんだなぁと思っただけ」
 抽象的過ぎるククールの意味不明な言葉にゼシカは声を上げることすら忘れポカンとしている。

 それを見てククールは苦笑いを浮かべながら説明し始めた。
 「今、あんたに触られて気付いたんだ。俺が苦しくて怖くて仕方がなかった時にずっと包んでくれていた手はゼシカだったんだなぁってさ。」
 大きな瞳をさらに大きく見開いて驚くゼシカに、ククールは言葉を続けた。
 「あったかくて神様かと思ってたんだ。神なんて信じてない俺が言うのも変な話なんだけどな。」
 「な、なに言ってんのよ。だって、それはあんたがピーピー泣いてるから・・・」
 おどおどとそう言うとゼシカは恥ずかしさからか顔を赤くして、そっぽを向いてしまう。

 「・・・俺泣いてたのか?」
 まるで心外と言わんばかりのククールの言葉にゼシカは脱力したのか振り返り「覚えてないの?」と尋ねた。
 「あぁ全然」
 ククールは本当に覚えていなかった。
 熱で頭が朦朧としていたとは言え情けない話である。

 「でもあんたの手は覚えてんだよ。」
 真剣に言ったかと思えば、そこで言葉を切り、いつもの遊び人のような顔つきに変わり言葉を繋げた。
 「俺の事心配だった?やっぱり俺に惚れてんのか?マイハニー」

 「な、な、なんで私があんたなんかに惚れなきゃなんないのよ。馬鹿なこと言ってないでさっさと横になりなさいよ」
 一瞬の沈黙の後、ゼシカは顔を真っ赤にさせて怒鳴る。
 相変わらず連れないねぇ。などと両手を広げて大げさに呆れるククールにゼシカは「もうあんたなんか知らない」と捨てセリフを吐き部屋を出て行こうと入り口に向かう。



 そんなゼシカの背にククールから声がかかった。
 「あんたのおかげでもう怖くない。サンキューな。」
 勢いよく閉められたドアの向こうから「どういたしまして」と照れたような怒ったような声がククールの耳に届いた。







 ヤバイ。本格的にヤバイ。俺、マジでゼシカに惚れちまったかもしれない。
 あいつはエイトが好きなのに・・・








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 「悲痛」の後日談です。
 この話は書くつもりがなかったんですが、「悲痛」があまりにも悲痛すぎて甘さみたいなものが全くなかった。
 「ゼシカの一方通行みたいでゼシカが可愛そうだった」と言った内容の感想を結構いただいて、この話はリベンジ(?)として再挑戦させていただきました(苦笑)
 行き当たりばったりのリベンジで、ほとんど構想も練っていないので、さほど長い文章でもないんですが。。。
 今回は完璧にククール→ゼシカに出来たかな〜?とある程度満足しています。

 以前にもちらっと言いましたが私の中ではゼシ→主で、色々あってククゼシになると思っています。
 なので、今回ラストに入れたククールの心のセリフ「あいつはエイトが好きな」はそういうことです。
 もっとも、この時点まで来るとゼシカはもうククールに惚れだしていると思いますけどね。。。
 というか、「悲痛」のほうを読んでくださればゼシカ本人が意識しているかどうかは別としてゼシカはククールに惚れていると私が考えていると分っていただけるかと。。。

 で、私の小説のアップ順は一応主姫のほうで時系列にならべて書いています。
 つまり、ククゼシよりも主姫のほうが更新早いためククゼシは全くといっていいほど時系列順にアップされていません(^^ゞ
 と言う事で、この後書きで申し訳ないんですがククールとゼシカ登場の小説を時系列順に並べてそのページにリンク張っておきます。
 お時間がある方は、既にアップしたものと照らしあらせて見てくださると嬉しいです。(所々矛盾があるのですが・・・)

 「思い出」→「過去そして未来へ」→「8のお題(カリスマ)」→「悲痛」→「神の手」(今開いてるページ)→「数ヶ月のとき3」→「神への誓い」→「お返しククゼシ編





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