「よう。ゼシカ。」
 トラペッタからリーザス村に帰り平静を保ちながらククールはゼシカに声をかけた。
 「ククール。あんたどこに行ってたのよ。」



 花嫁強奪事件以来なぜかリーザス村で暮らしていたククールが約1週間もの間、何も言わずに村を空けていたことがゼシカには不安だった。
 ククールはいつかまた旅に出ると思っていたのだ。しかし無言でいなくなったククールに毎夜枕を涙でぬらした。
 それほどまでに寂しくて心配していたと言うにもかかわらず普通に声をかけられた事にゼシカの怒りは頂点に達した。
 表情も言葉もキツイわりには、なぜかぽろぽろと涙が出て止まらなかった。
 それにはさすがにククールも焦った。
 「ちょ。ゼシカ。どうしたんだ?俺が泣かせたみたいじゃねぇか」
 「泣かせたみたいじゃなくて、あんたが泣かせたんでしょうが!このバカリスマ」
 長身のククールの胸をポンポンと叩きながらゼシカは本格的に泣き出してしまった。



 ククールはなにがなんだか分らなかったが、とにかく自分の胸の中で泣くゼシカの背中をさすりながら気がすむまで泣かせてやっていた。
 「あんたはもう私の所に帰ってこないんじゃないかと思ってた。」ポツリとゼシカがつぶやく。
 それに「えっ」と間の抜けたような返事をするククールにゼシカは言葉を続ける。
 「あんたが、どこでも嫌味男を捜してることくらい知ってるわ。だからいつか村を出て行く事くらい分ってる。でもでも・・・黙って出てくことないじゃない。」
 最後のほうは一度落ち着いた涙をまた溢れさせながら怒鳴っていた。
 「えっと。ちょいストップだゼシカ」
 ゼシカが泣いている理由が自分にあることが分ったククールは、申し訳なく思う反面嬉しかった。
 自分がゼシカを想うのと同じくらいゼシカが自分の事を想ってくれてるのではないか?そう思った。
 「たしかに俺は兄貴を探して旅してたよ。たぶんまた旅に出る。でもゼシカに黙って出て行く事はしない。」
 「絶対に?」涙で潤んだ瞳でまだ不安げにゼシカは尋ねた。
 「ああ。絶対だ」力強く頷くククールに安心したのかゼシカは急に冷静になり、ククールの胸の中に収まっていた事が恥ずかしくなる。
 「なら良いけど、放して」恥ずかしさからドタバタ暴れだすゼシカ。
 そんなゼシカがククールは愛しくてたまらないという表情で見つめていたが、それでもゼシカの言うとおりに腕の中から開放してやった。





 「ゼシカ。これ」ぶっきらぼうに告げるククール。
 「うわ〜、綺麗なひまわりね。私にくれるの?」感嘆した声を出しながらも受け取っていいのかどうか迷っているゼシカ。
 「あぁ。もうすぐホワイトデーだからな。それとこれも」ククールは大きなひまわりをゼシカの手に持たせてやりながら綺麗に包装された小さな包みを差し出す。
 「これを買いに行ってたんだ。まさかゼシカがそんなに心配してくれてるなんて思ってなかった。悪かったな。」
 そんなククールからの言葉を聞いたゼシカは先ほどの心配が自分の完全な杞憂であった事を思い知らされいたたまれなかったと同時に、自分のためにと買ってくれたプレゼントを差し出され嬉しくて仕方がなかった。
 「・・・・・ありがとう。あけてもいい?」



 「かわいいネックレスね。ありがとう。」ゼシカは本当に嬉しそうに目を輝かしている。
 「ゼシカはもしかしたらあんまりそういうのに興味がないのかもと思ってたからそう言ってくれて良かったぜ」
 ククールは心底安心したのであろう。ふうと一息ついて言う。
 「これからずっとこれしていて良いかな?」ゼシカは遠慮気味に尋ねた。
 「いや。それは構わねぇけど」さしものククールもまるで顔から熱が出ているかのように照れまくって答える。
 いつも言葉達者な2人とは思えぬほど互いに照れて無言になってしまった。



 そんな状態に耐えられず先に沈黙を破ったのはククールだった。
 「実はな。それ姫様とゲルダさんと色違いなんだ」
 ククールは種明かしでもしてその場を取り繕おうと考えたようだ。
 「は?」何を言われてるのか分らなくなったゼシカは素っ頓狂な声を出す。
 「いやなに。俺らしくないのは承知の上だが、実はエイトに相談しに行ったんだよ。そしたらなぜかヤンガスも来ててな。結局3人で買い物に行ったってわけ」
 両手を広げ肩をすぼませながら大げさに話すククールに、男3人での買い物の様子が脳裏に浮かんできてゼシカは可笑しくてたまらなかった。
 それでもひとしきり大笑いした後「そっか」と短くつぶやいた。
 「エイトもヤンガスも元気だった?幸せなんだろうな」
 「エイトは完全にのろけ状態だな。ヤンガスもまんざらじゃねぇ」ククールも2人の様子を楽しげに語る。




 ククールにつられ楽しげな笑顔であったゼシカがふと真面目な顔になって口を開く。
 「ねぇククール。私は姫様みたいにおしとやかに傍にいてあげられないし、ゲルダさんみたいに力強く励ましてもあげられない。でもずっとあなたの傍にいさせてほしい。」
 「・・・・・ゼシカ?」突然の言葉にククールは驚いた。
 「いや。あのダメなら仕方がないんだけど。ずっとククールと一緒にいたいの。あなたがお兄さんを探しに旅に出るときには連れて行ってほしい」
 俯いてスカートをキュッと握り締め搾り出すように語るゼシカがククールには愛しくて仕方がなかった。
 「ダメなはずないだろう。一緒に来てほしい」
 ククールは震える声で短くそう言うとゼシカの肩を抱き寄せる。
 しばらく見詰め合っていた二人であったが、どちらからともなく目をつぶり熱い熱い口付けを交わした。





 ―――私はもうククールがいないとダメなの。ククールじゃなきゃダメなの。もう黙って私の傍を離れないで―――









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 書いてる私が一番恥ずかしいんですけど(^^ゞ
 正直、ゼシカやククール以上に恥ずかしいです。私自身が(笑)
 いや、参った参った(笑)
 私の中でのククールって実は精神的にすごいもろい印象です。
 かっこつけてるけど素直じゃない。それがゼシカにとって心配で仕方がないみたいな(^^ゞ

 ちなみに季節柄この話を先に書いてますが、ここにたどり着くまでの私なりの設定と言うか話は色々考えとります。
 ちょっとした看病ネタと、あのゴルドの兄弟イベントのときの話とか。。。どちらもありがちだと突っ込まれそうですが(^^ゞ
 とりあえずホワイトデーの話が書き終わったらそっちも書きますが、私なりにはもう正式に付き合う前の話が固まってるのでそれが前提で今回も書いています。
 これを読んでくださった方にはそのククゼシの気綱が強まる話を読んで頂けないまま、2人を完璧にくっつけて申し訳ないような気もします。

 とりあえず私が恥ずかしいので、ここらで話し終了です(^^ゞ

 

 





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