ダン!
 サヴェッラ大聖堂の宿屋に大きな音が響く。
 昼間、久しぶりに会ったサザンビークのチャゴス王子に怒りを隠しもしないククールは宿屋で荒れていた。
 「ククール。気持ちは良く分るけど物にあたるのは良くないよ。」
 いつもより表情は固いものの自分ををいさめるエイトにククールは怒りの矛先を変えたようだった。
 「おまえな。穏やかなのは時と場合によるだろうよ。平民風情などと言われて黙ってられるかってんだ。」
 むかつく、むかつくと何度もうわ言のように繰り返し、テーブルを自らの拳で小刻みに叩くククール。



 ククールはおだやかと形容はしたがエイトとて、そんなククールの気持ちは良く分っている。いや、ククール以上だ。
 王家の試練に付き合ったときに一行は散々な目にあった。その時からかなりの月日が経ち、結婚も近づいた事もありワガママなチャゴス王子も成長している事をエイトは祈っていた。
 しかしながらそんなエイトの願いはあっさり無碍にされ、昼間に会ったチャゴスは成長どころか益々ワガママで自分勝手になったような気がする。
 そんなチャゴスに大事なミーティアを奪われる事が耐えられなかった。
 ミーティアが幸せならば自分の気持ちは一生封印できると思っていた。しかしあんなチャゴスでミーティアを幸せにして上げられるのだろうか。
 ミーティアにあんな寂しそうな表情をさせるチャゴスが憎くて憎くて仕方がない。
 式をめちゃくちゃにしてやりたい、そんな気持ちすら沸いて来てしまう。



 「なぁエイト。近衛隊長ってのは姫の命を守るだけじゃなくて、姫の幸せも守ってやらなきゃいけないんじゃねぇか?」
 感情をぶつけると言う行為が苦手なエイトであるが表情に出ていたらしく、それに気付いたククールは先ほどより少し落ち着いて提案をする。
 「・・・・・オレはトロデーンの近衛隊長だよ。今更揉め事を起こしたら陛下やトロデーンに迷惑かけるんだ」
 エイトは今にも泣き出しそうな固い表情のまま俯いて絞り出すような声で答えた。
 「おまえがトロデーンの人間だから動けないと言うなら、俺がやってやる。ゼシカやヤンガスも喜んでやるだろうよ。」
 珍しくククールが熱く語る。しかしそこで一息ついて、ポンポンとエイトの頭を軽く叩いた後、言葉を続けた。
 「だけどな、お前は確かにトロデーンの近衛隊長だけど、サザンビーク王家の血を引いてる事も忘れちゃいけねぇぜ。グラビウス王にお前の親の形見を見せれば考え直してくれるんじゃねぇか?」
 忘れていたのか、それどころじゃなかったのか、あからさまに驚いた表情でエイトはククールを凝視する。
 しばらくお互いに沈黙していたのだが、先に口を開いたのはエイトのほうだった。
 「ククールありがとう。行って来る。」短く一言残して、扉に向かったエイトの背に「ダメだったら最終手段に出てやるから、胸張って行って来い。」というククールからの怖ろしい後押しがあった。

 「やっとその気になったのね」
 「アッシはどれだけこの日を待ち望んだ事か」
 しっかりとエイトとククールのやり取りを扉の外で聞いていたゼシカとヤンガスも満足そうだった。





 「そなたが兄の子とな?」
 ククールからの激励を受けて全てを話し終えたエイトに当然のごとく驚きの質問をグラビウス王はした。
 「いや、答えずともよい。肉親しか知らぬ話も知っているのだからな。そなたに始めてあったときは兄が帰ってきた錯覚に陥ったのだ。そなたの今の話はまぎれもない事実であることは容易に察しが付く。」
 グラビウス王はエイトにと言うよりはまるで自分に言い聞かせるように言葉をかみ締める。

 「で、何が望みなのだ?今更サザンビークに王位継承者が二人もいると要らぬ争いが起こる。すまぬが耐えてくれぬか?」
 あんな王子でも自らの子がかわいいのであろう。まるで有無を言わせぬ物言いである。
 「私はサザンビーク王家の血を引きしものだと認めてほしいわけではございません。ましてや王位がほしいわけでもありません。私の祖国はトロデーン以外何物でもありませんので。しかしながら・・・・・」
 身長の高いグラビウス王に物怖じもせずきっと目を見てエイトは言葉を捜していた。
 「しかしながら、ミーティアだけはサザンビークにはお渡しできません。彼女をトロデーンに返してください。それだけが私の願いです。」



 グラビウス王は気付いていた。
 昼間会ったミーティア姫にチャゴスが慣れぬ褒め言葉を使っているとき、ミーティア姫が救いを求めるようにエイトを見ていた事。そんなミーティア姫の本音も。
 それでも国の民のためにはそう簡単に納得できるはずもなかった。
 「今の話は聞かなかったことにしてくれ。」
 自分の尊敬する兄の子であるエイトを不憫に思いながらも口から出てきた言葉は、兄の子を突き放す内容だった。自分の言った言葉に耐え切れずエイトに背を向ける。
 「わかりました。今の話はお忘れ下さい。失礼いたします。」
 当然落胆はしているであろうが静かに、そして礼を崩さずにエイトは去って行った。





 エイトが去った後、グラビウス王は身動き一つせずに考え込んでいた。

 父上、兄上私はどうすればよいのでしょうか?
 兄上が愛する女性のためにサザンビークを捨てて出て行ってしまられたときには、恨みもいたしました。
 父上も初めのうちこそお怒りになられていましたが、心の底では兄上を許してらっしゃったのでしょう。
 父上は晩年、私に話してくださったのです。
 父上はトロデーンの姫と恋に落ちながら、国と国との争いという醜い揉め事のために引き離されたと。。。愛する女性と引き離される辛さは自分が一番分っていたのだと。。。
 兄上の事を許してやってほしいと言いながら父上は亡くなられた。
 元々民に優しく接する兄上の事を私は尊敬しておりました。父上に頼まれるまでもなく兄上が幸せであろう事を祈っていたのです。
 なのに、こんな結末が待っていようとは。
 父上が愛した女性の国に、兄上の子がいたことはただの偶然なのでしょうか?





 「みんなまだ起きてたんだ。」
 エイトはグラビウス王の下を後にしてからも、まっすぐに宿に帰る気もおきず色々と寄道をしてをして来てしまった。
 すでに夜半を過ぎ他の部屋からは気持ちよさそうな寝息も聞こえる。
 「兄貴の一大事に寝れるわけないでがす。どれだけ心配した事か」
 ヤンガスの言葉にククールもゼシカも無言で頷いている。
 固く翳すら見えていたエイトの表情でグラビウス王との話し合いがうまくいかなかったことは、3人には分った。
 どう切り出していいのかと戸惑っている3人だったのだが、全員が本気で心配してくれてたと知りエイトは、ふ〜とため息をついて肩から力を抜いた。
 「悪いけど心配させたついでに、明日もう少し手伝ってくれないかな?ミーティアはチャゴスにはあげない」

 先ほどまでの悩みはどこへやらといった様子で、言い切ったエイトにヤンガスもゼシカもククールもパッと表情が明るくなる。
 「どんな事でもお手伝いさせていただくでがす」
 まだ何も行動を起こしていないうちからヤンガスは涙声になってしまっている。元来涙もろいヤンガスの人情味溢れるそんな姿にエイトは笑っていた。
 「ミーティアってか。呼び捨てかよ」
 ククールに言われて、エイトは人前でミーティアを呼び捨てにしてしまっていた事に気付いて真っ赤になる。
 いや、とかその、などと色々と言い訳を並べるエイトであったが百選練磨なククールにかかれば、そんな言い訳はまったく役に立たないものであった。



 「なぁ?」エイトが風呂に入ったのを確認してククールはヤンガスとゼシカに尋ねる。
 「王様が俺たち呼んだのって、どんな理由だと思う?」
 「たぶん、あんたと考えてること一緒よ」ゼシカが笑う。
 「おっさんは、アッシたちが式をぶっ壊す気でいることくらい察してるでがすよね」いつもは鈍いヤンガスも今回ばかりは確信を持って答える。
 「王様は俺たちの事、藁にもすがるような思いなんだろうな。絶対に成功させてやろうぜ。」
 ククールはいつもの調子を取り戻したかのように楽しそうに笑う。





 ―――ミーティアごめん。ミーティアが必死で耐えているのにオレが耐えられなくなってしまったようだよ―――






++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 まず最初にごめんなさい<m(__)m>6話で完結できませんでした(^^ゞ
 いいだけ長くなってきているので、削って6話で完結させようと試みたんですけど、どれも削れないと言う事に気付きました。。。
 でもさすがに次回で完結です!!!もう少しお付き合い下さい。

 さて今回の話、読み直して気付きましたがミーティアが出てこない(笑)
 最終話ではたっぷり登場していただくので、今回はご勘弁を〜!!!

 ところでグラビウス王の心情とかはもちろん私の妄想です。
 ですが、前日の夜は反対していたのに当日はあっさり認めたところを見るとなにか夜色々考えたんじゃないかと思っています。
 と言う事で私なりに考えた結果です。しかしグラビウス王ってこんな言葉遣いするのかな?とか思ってたりすることも事実。









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Photo by.空色地図

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