Side ククール


 久しぶりに思い出したな。あんな子供の頃の事。
 俺は昔から親父が嫌いだった。
 金遣いは荒いわ、日替わりで女をはべらかしているわ、子供心に不潔だと感じてたよ。
 女に関しては今の俺には人のこと言えた義理じゃねぇがな。
 修道院に来て兄貴の話を聞いて、ますます親父が嫌いになった。
 自分で言うのもなんだが、親父が兄貴と兄貴の母親にした仕打ちのおかげで、いたいけだった俺はここまでひねくれたわけだしな。



 だけど親父のしてくれた事でただ一つ楽しい思い出がある。
 俺には昔、とっても可愛い婚約者がいた。
 もっとも親父が死んだ直後に断られてんだろうけどよ。
 ドニの盟主だった親父の跡取りであった俺には色々な名家のお嬢様との縁談話が物心付く前からあったらしいのだが、その中から親父の選んでくれたリーザス村のゼシカちゃん。
 ドニの町からリーザス村まではかなり遠いから俺も数回しか会った事はない。でも子供ながらにすげー好きだったんだ。
 まだ小さかったゼシカちゃんはククールって名前が呼べなくていつもクーちゃんって呼んでたんだよな。
 男の子にも負けないくらいわんぱくだったのに本当はすごい優しいゼシカちゃん。
 「優しいお父さんとおにいちゃんが居て良いな」って言った俺にあの子は「じゃあ貸してあげる」ってにこにこして言ったんだ。



 そんなゼシカちゃんが一度だけ泣いたのを見た事がある。
 ゼシカちゃんのお兄ちゃんの婚約者さんも来ていて、ゼシカちゃんは大好きなお兄ちゃんを取られるって泣いてたんだ。
 そんなゼシカちゃんに俺は「僕はゼシカちゃんだけを守ってあげるよ」って言ったんだったな。
 今でこそ、すれちまった俺は女の子の口説き文句として「君だけを守る」なんてよく言ってるけど、あのときのゼシカちゃんに言ったことは嘘も見栄も取引も何もなかったんだ。



 しばらく忘れてたのになんで今更こんな事思いだしたんだろうな。
 ゼシカちゃん綺麗になったんだろうな。俺の淡い初恋の女の子。今の俺からは想像も付かないくらい初だったよなあの頃の俺。
 出来る事なら一目ゼシカちゃんに会ってみたい。
 ゼシカちゃんがあの頃の俺を覚えてるかどうかはわからねぇけどな。
 いや、覚えてたらあまりの俺の変わりように、驚くだろうから覚えてないほうが良いよな。



 チッ!懐かしい気分に浸ってるってのにマルチェロの奴何の用だ。めんどくさいからドニにでも行っていっぱいやってくるかな。





Side ゼシカ


 ドニの酒場で会ったククールって奴、ホントむかつくわ。
 いかさましてるは、せっかく助けてやったのに私の身体をじろじろ眺めたかと思えば歯の浮くようなセリフを吐いて行く。
 なにが「君だけを守る騎士になる」よ。気持ち悪いにもほどがあるわ。
 だけど同じようなセリフを昔聞いた覚えがある。
 昔の私の婚約者だったクーちゃんって男の子。
 あまりに幼い頃の事で名前も顔もほとんど覚えていないけど、時々訪ねて来てくれるクーちゃんはとっても優しくて大好きな友達だった。
 どんな成り行きだったかも覚えてないけどクーちゃんは私だけを守ってくれるって約束してくれたのよね。



 いつの頃からかクーちゃんは会いに来てくれなくなったけど、とっても暖かい思い出。
 今にして思えばクーちゃんが来なくなって、しばらく経った頃にラグサットって奴が私の婚約者だって母さんが言ってたからその時にたぶん大人の事情って奴でクーちゃんとの婚約はなくなったんだろうな。
 この前会ったラグサットって言う奴は男のクセにはっきりしないやな奴だったから、母さんの趣味の悪さに嘆いたけど、考えればクーちゃんは良い子だったんだろうな。



 って、私なんでククールみたいな嫌な奴に言われた言葉聞いて、優しいクーちゃんのこと思い出してんだろ。
 文にすれば同じ内容とは言え、クーちゃんの思い出と、女になら誰にでも言いそうなククールの言葉が同じな分けないのにね。





Side ククール



 偶然ってのもすごいもんだよな。
 まさかあのゼシカちゃんと共に旅をすることになろうとは。
 笑っちまうくらいだ。
 まあもっともゼシカは俺の事なんか、これっぽっちも覚えてないみたいだがな。
 それにしても、あの気の強さはなんとかならんもんかね。
 昔から確かに気は強かったけどあそこまでじゃなかっただろ。
 要注意な女に成長したもんだな。
 胸はでかいし、美人だし、身体に関しては申し分ないけどよ。



 そのうち気が向いたら昔の話でもしてやろう。
 もっとも俺は相当嫌われちまったみたいだから、俺の話なんかまともに聞いてくれなさそうだがな。
 だけどそれでいい。
 あれから10年以上たつが、色々あったんだ。俺が捻くれちまうような事が。



 俺はもうあの頃のクーちゃんには戻れやしないんだから。








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 はいはいはい。なにやらよくわからん話が出来上がりましたぞ(笑)
 いやね、主姫の子供の頃のエピソードとか考えているうちにククゼシだったらどうなるんだろ?ってそこからこの話はスタートを切りました。
 ゼシカはお嬢様なわけで、ククールも元々はおぼっちゃまじゃないですか。
 となると、小さな頃のククゼシのエピソードとなると無理やりですが、こういう風にするしかなかった。
 いやま〜、無理やり小さい頃のククゼシをあわせなきゃならない理由はまるでないんですけどね(^^ゞ

 最初のSide ククールはゼシカたちにドニである日の朝見た夢と言うことにしておいてください。







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