「入るわよ。って寝てるの?」
 氷水と水差しを持ったゼシカはベッドの住人が眠りについている事を確認し、ベット脇の椅子に腰掛けた。
 いつもは憎まれ口か口説き文句しか言わぬ口も今は苦しげな吐息をもらすだけである。





 ここ数ヶ月は心身ともにハードだった。
 豪雪地帯のオークニスでは目の前で世話になった恩人を殺され、休むまもなく猛暑の砂漠地方に回った。未開の地レティシアでは異世界などと言う物まで体験し、煉獄棟に監禁された間は夜も安心して眠れる状態ではなく、そして聖地ゴルドの崩壊だ。
 仲間全てがハードであったが特にククールにとっては精神的にきつかったのだろう。
 大人ぶってる割には精神的にもろく、クールぶってる割には意外にも情にもろい。
 オークニスでメディが殺されたときには、口では散々ふさげたことを言ってはいたが、いつにもまして酒をあおっていた姿は痛々しい以上の何物でもなかった。
 煉獄棟に監禁されたのはククールの半分血を分けた兄の仕打ちによると言う所にも仲間に対する申し訳なさがあったのだろうとゼシカは思う。
 ゴルドでマルチェロと対峙したときには「あいつ死ぬのかな」などと不安そうな瞳で弱音を吐いた。
 ククールがどんなに憎まれようと嫌われようとマルチェロを見ていた事は仲間内では皆分っていたことだけに、あの時は誰も何も言えなかった。
 暗黒神は復活してしまったが、傷つきながらもマルチェロの命が残った事にククールが一瞬安堵の表情を浮かべた事は痛々しくて見てもいられなかった。
 気が緩んだのかハードスケジュールで無理がたたったのか、暗黒神を倒すためオーブを探し各地を回っている途中、ついにククールは倒れた。



 様子がおかしいのは分っていた。少し休もうとエイトやゼシカが提案してもククールは倒れるまで頑として聞き入れなかった。
 以前は「疲れたから病欠」などとふざけていた人間がいざ本当に調子が良くないときには頑固だった。
 仲間の迷惑になりたくなかったのか、それとも早く暗黒神を倒し兄を探しに行きたかったのかは本人しか分らぬ事であったが、たぶん両者だ。
 ゼシカはククールを不憫だと思う。
 寂しさや、不安や恐怖、苦しさといった負の感情を全てふざけた遊び人のような仮面をかぶってごまかすしか生きる手段がなかった人間なのだろう。
 唯一の血の繋がった肉親に忌み嫌われて育ったククール。しかもククールにはどう考えても罪はない。
 幼くして母と共に家を追い出されたマルチェロにも同情はするがククールを恨むのは筋違いと言う話だ。
 しかし、それをククールに話しても寂しそうに「あいつにとっては仕方がないんだ」と笑う。
 そこまでして兄を求め生きているククールは痛々しいほど幼かった。







 「・・・熱い」
 ククールの額に熱を冷ますために置いているタオルはすぐにぬるくなっていく。
 氷水でタオルを冷やしながら、そっとククールの額に手を当ててみるもののまだまだそこは燃えるように熱かった。
 医者の所見では風邪との事だが、相当にこじらせたらしく、しばらくは絶対安静と言う話であった。
 オーブ探しはエイトとヤンガスにまかせゼシカはククールの様子を見るためにここに残っている。

 「・・・・・ゼシ・・カ?」
 「ごめん。起こしちゃった?」
 朦朧としているようなククールの問いかけにゼシカは心底すまなそうに詫びた。
 「いや。今、冷たくて気持ちが良かっただけ」
 「そう。なんかほしいものある?」そっとゼシカは尋ねる。
 「兄貴」
 いつもは不必要なくらいかっこつけているククールも今はさすがにそんな余裕はなくゼシカの質問にめずらしく素直な本音が出た。
 「俺は兄貴がほしいんだ。」



 ほしいものあるか?とは自分から尋ねたこととは言え、まさか兄貴と答えるとはゼシカは思っていなかった。
 普段、本音を簡単には見せないククールだけに驚いた。たぶん本人にとっても初めて語る心の奥底の事実なのだろう。
 心の中のものを全て吐露してしまったほうが気が晴れるかもしれない。思い切り泣かせてやったほうが良いのかもしれない。
 「今は私が付いてるから、何でも言いなさいよ。言いたい事は何でも言いなさい。ククールはどうしてそんなにお兄さんがほしいの?」
 ゼシカは元来のお節介も手伝って気付けばこう言っていた。



 「兄貴はね、本当は優しいんだ。俺が生まれてきたから・・・俺と会っちまったからあんなになってしまっただけなんだ。だからあいつを恨まないでやって」
 今、ククールの瞳が潤んでいるのは高熱から来る潤みだけではないのだろう。
 ククールが普通の兄弟にあこがれている事はもちろんゼシカは知っていた。しかし、本人相当辛いはずのこの状況下でまで兄をかばうほど求めていたとは。。。
 「誰もあなたのお兄さんを恨んでなんかいないわ。だけどククールも何にも悪くない」
 ゼシカはそう言って、まるで小さな子供をあやすかのようにククールのやわらかく、いつもは一つにまとめている長い髪を撫でながら言葉を続ける。
 「ククールもお兄さんもなんにも悪くないから。お兄さんを恨んでなんかいないから。そりゃ多少嫌味がひどいけど・・・」
 最後にひとつ付け加えたゼシカのいつもの調子にククールも落ち着いてきたのか静かに笑う。

 物欲しげに手を出すククールの意図が人肌恋しいのだろうと悟ったゼシカは迷うことなく手を握ってやった。
 「あんたは一人で何でも抱え込みすぎなのよ。まぁこれに関してはエイトもだけど」
 ゼシカは一つため息をつき、少し考えて言葉を紡いでいく。
 「仲間がいるでしょう。私がいるでしょう。休もうってエイトや私が言ったときに素直に聞いてくれればここまで具合悪くならなかったのよ。気がはやるのは分るけどもう少し皆を頼りなさいね」
 言葉はキツイながらも瞳は優しかった。



 「・・・一人になるのが怖かったんだ。一人になるとあいつの最悪の事態ばかり考えて・・・夢にまで見て・・・怖くて眠れなくて・・・何か忙しくしてたほうが気が楽だったんだ。・・・あいつが死んだところしか思いつかなくて・・・怖くて怖くて・・・」
 かっこ悪いとか我慢するということを忘れてしまったかのようにククールは瞳から静かに涙をこぼしながらぽつりぽつりとつぶやいた。
 「ククールもういいから。わかったから。私が一緒にいるから・・・だからゆっくり休みなさい。」
 迷える子羊のように震えながら語るククールをゼシカはそう言って止める。とても聞いていられなかったのだ。
 本当のククールは脆く幼い事は分っていた事とは言えここまで脆かったのか・・・
 ここまで崩れる前になんとかしてあげられなかったかと思うとゼシカは胸が痛んで仕方がなかったと同時に愛おしさまでこみ上げてくるのが不思議だった。
 ククールの手を握り締めたまま、もう片方の手で優しく頬をなで包み込むように守ってやろうとゼシカは心に決めた。

 「・・・ゼシカ。あんたやっぱり最高の女だ。」
 静かにそう言うのとほぼ同時にすうすうと眠りに落ちたククールは少し楽になったように穏やかな顔を呈していた。








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 すいません。。。ちと私ククールとマルチェロにはまってます(^^ゞ
 一応これククゼシ小説なんですが。。。あきらかにククール→マルチェロですよね。。。いやって言うかゼシカ→ククールか!?
 ま〜この際どうでもいいとして(^^ゞ
 とにもかくにもククールって本当に精神的にもろいと思うんですよ。
 その精神的なもろさを隠すためにふざけて本音を語らないんだと思うんです。
 ちらちら見え隠れする本音をゼシカがうまく支えてやってほしいな〜!って思ってるんです。
 っていうか、こんなククールみたいな脆さをたまに見せられたら惚れない女はいないだろう!と思うのは私だけかな(苦笑)

 一言断じて言いますが、ククールとマルチェロがホ○カップルに発展する事はありませんので!
 正直色々検索サイトさまとか見ているとクク主とか主ククとかマルククとかククマルとか竜主とか。。。
 ノーマルカプ以上にホ○カプ多くないですか!?と突っ込みを入れたくなるくらいの多さなんで、もしこれを読んで私に期待されても困りますので(^^ゞ
 もちろん、そのような女性向けカプを否定するつもりはないですが私には書けませんので(苦笑)

 家族愛ぶらぼ〜♪





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