「本当に良かったの?もう二度と会わないだなんて・・・」
 マルチェロを初め、見送ってくれた海辺の教会の人たちが見えなくなった頃、ゼシカが遠慮気味につぶやいた。
 ククールは先日、長い間仲たがいしていた兄マルチェロと分かり合った。
 しかし、ククールは二度とマルチェロに会わぬと言ってきかない。マルチェロもそれを受け入れてしまっていた。
 せっかく分かり合えたのにと明らかに不満そうなゼシカを横目で見やりながら、ククールはふっと鼻で笑った。



 「いいんだよ。元々兄貴とは二度と会わないつもりだったんだから。たまたま兄貴が許してくれただけだしな。今更、仲良し兄弟やれったって俺にも兄貴にも無理ってもんだぜ。」
 声には出さぬもののまだ納得できないと言う顔でいるゼシカにククールは飛びっきりの笑顔を向ける。
 「俺にはゼシカがいればそれだけでいいんだよ。リーザスに帰ろう。」











 「お帰りなさい。ゼシカ。そしてククールさん。」
 リーザス村にたどり着いた二人をゼシカの母アローザは笑顔で迎える。
 「ククールさん、あなたは見事に目的を達したのですね。ゼシカの嬉しそうな顔を見れば分かります。」
 そんなに表情に出ていたかしら?などとぶつぶつ言っている娘は無視してアローザはククールに頭を下げる。
 「ククールさん、勝手を承知でお願いがあります。もう一度ゼシカの婚約者になって、このアルバート家を継いでいただけないかしら?」
 苦笑いを浮かべながら、しばらくの沈黙の後ククールはつぶやく。
 「俺がどこの誰だか、お義母さんには、ばればれだったってことか」
 「あなたのその綺麗な銀色の髪と青い瞳を忘れられるわけないではないですか」
 そう言って満面の笑みを浮かべるアローザに、ククールもつられ珍しく声を上げて笑い出した。

 「ちょっと待って。それどういうこと?」
 アローザとククールのやり取りを聞いて、一人何もわかっていなかったゼシカは素っ頓狂な声を出した。
 「あなたの初代の婚約者はドニの領主のご子息でした。それがククールさんでしょう。あなたは全く覚えていないのね。クーちゃんなどと呼んであんなになついていたと言うのに」
 呆れ顔で説明するアローザの言葉を再び苦笑いを浮かべたククールは引き継ぐ。
 「常套手段のように女口説くために使ってた言葉。一番最初に言ったのはゼシカだったんだぜ。君だけを守るってやつ。あの時のは穢れも知らずに本気だった。」



 「あの優しいクーちゃんがククールだって言うの!?」
 たっぷり数十秒の間をおいたのち、ゼシカの絶叫が屋敷中に響きわたったのは言うまでもない。







 ゼシカとククールの帰還祝い兼婚約パーティーをアローザの命により当日のうちに行った夜、ゼシカはテラスで一人ぼんやりしていた。
 それに気づき、ゼシカの元にやってきたククールにゼシカは静かに問う。
 「ねぇ、なんで言ってくれなかったの?」
 主語が抜けているゼシカの問いかけであったが、ククールには何を指すのかは明確であった。
 「覚えてないならわざわざ言う必要も無いと思ってただけだ」



 「運命ってやつだったのかな?」
 不思議そうにつぶやいたゼシカは、ククールが笑っているのを確認すると、ゆっくりと静かに語りだした。
 「私ね。エイトとミーティア姫を見ていて、運命って憧れたの。もちろん、あの二人は運命なんて言葉だけで語りつくせるような結びつきじゃないとは思うわ。苦労もしてるのは分かってるけど。でも、本当に思いあってたりすると何度も何度もめぐり合うことが出来たりするのかな?って思ってた。」
 いつもの気の強さはすっかりなりを潜め、ずいぶんと乙女チックなことを言うゼシカにククールは言葉を失った。
 「私らしくないのは承知の上よ。でもククールと出会えたことが運命だと言うなら、すごく嬉しい。」
 そんなゼシカにククールは少し考えた後言葉を選びながら口を開いた。
 「確かにそうかもしれない。だけど俺は運命なんてのは信じねぇ。神様に自分の将来を決められたくねぇから。」
 あんたらしい考えね。などと微笑むゼシカにククールは付け足すように再び口を開いた。
 「けどよ、この無数の星たちに願いをかけるのも悪くは無いよな。」
 不思議そうな表情をしたゼシカをククールは鼻で笑ったものの、その笑いは嫌味やあざ笑うようなものは一切感じられない。
 「夜空に浮かぶ星たちには一つ一つに意思があって、その中には願えばかなえてくれる星もある、と昔おふくろに読んでもらった本に書いてあったんだ。おとぎ話なんだろうけどよ。ゼシカといるとそういうおとぎ話も悪くねぇって気になってくる。」
 初めて聞いたおとぎ話にゼシカは目をきらきらさせている。
 女ってのはそういうロマンチックな話が大好きで、ゼシカとて例外でなかったことをククールは知って微笑ましい気分になった。
 「ねぇ。どの星が願いをかなえてくれる星かは分からないけど、夜空にお願いごとしてもいい?これからもずっとククールと一緒にいられますようにって」














 「マルチェロ!サーベルト!また片付けもしないで!!!」
 かなりの怒りを含んだゼシカの声がアルバート家の屋敷に響き渡る。
 「まぁまぁ。子供ってのは少しくらいわんぱくのほうがかわいげがあるってもんだぜ」
 ソファーでくつろいでいたククールがそんなゼシカをたしなめる。
 「そうよ。ゼシカ。ククールさんの言うとおりです。子供は少しわがままなくらいのほうがかわいいわよ。」
 と、ククールに同意したアローザは言う。

 ククールとゼシカが結婚して今年で早10年が過ぎ去ろうとしていた。
 結婚後、まもなく生まれた双子の息子にククールとゼシカはケンカすることもなく、二人の兄の名をつけた。
 優しくて聞き分けが良かった兄に似るわけでもなく、厳格で自分にも他人にも厳しかった兄にも似ず、双子はわんぱくに育ち母であるゼシカは毎日子供達を怒鳴りつける日々を送る。
 元々あまり細かいことにこだわらないククールや、自分には厳しかったと言うのに孫達にはすっかり甘くなってしまったアローザに一人カリカリしているゼシカは閉口する。

 しかし、ゼシカは幸せだった。
 あの日、婚約パーティーの日の夜、星に頼んだ願い事は10年経った今も叶い続けているし、少々わんぱくながらも素直に育った息子達に囲まれているのだ。幸せでないわけあるまい。

 ククールはもともとの器量のよさも手伝って、あっと言う間にリーザスの人気者の当主となっていた。
 暗黒神を倒した実力者夫婦は外部からの攻撃などを受けるわけもなく、平穏無事な毎日だ。
 幼き日たった一人で路頭に迷ったククールにとっては今の生活、少し怒りっぽくても美人の優しい妻と、かわいい子供、理解のある義母とともにいる生活は楽しくて仕方がないのだ。





 「パパ〜。ぼく、ウィニアに会いたい」
 いつの間にか戻ってきていた双子が父親に擦り寄ってお願い事をする。
 「あなたたち、キチンとウィニア姫ってお呼びしなさいって何度言ったら分かるの」
 台所からゼシカの怒りの声が聞こえる。
 この10年ゼシカは愛する夫とかわいい子供達に自分の手作りの料理を食べさせたいと毎日、使用人と共に台所に立っていた。
 「だって・・・ウィニアは良いって言ったもん」
 ぶつぶつと言い訳する双子たちにククールは苦笑いを浮かべる。

 ウィニア。
 トロデーン国王エイトとその后ミーティアの一粒種。エイトの亡き母の名をもらいすくすくと育っている麗しの姫だ。
 あの旅の最中、さんざんわがままを言いまくったトロデ王はエイトとミーティアの結婚式後すぐに隠居し、エイトに全ての実権を譲っていた。
 元々リーダーシップに優れ心優しいエイトはすぐに国王としての信頼も得て、ミーティア王女とやがて生まれたウィニア姫共々トロデーン城はじめ近隣の町や村の人気者だった。

 先日、ウィニア姫の誕生日を祝うパーティーにククールとゼシカは初めてマルチェロとサーベルトを連れて行き、双子はあっと言う間に姫と仲良くなったらしい。
 それからと言うもの、この双子は事あるごとに「ウィニアに会いたい」と父親にせがんでいる。
 「よし。じゃ、キチンとママの言うことを聞いて良い子にしてたらトロデーンに連れて行ってやるぞ」
 双子は父親のそんなセリフにお行儀よく「はい」と答えゼシカの元に向かう。
 「ママ。ぼくたち、ママのお手伝いするね」
 「その前に、お部屋の片づけをきちんとしなさい」ゼシカの苦笑いまじりの声が聞こえる。








 ―――幸せだ本当に。こんな幸せ俺には勿体無いくらいだぜ―――











 ―――完―――















++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 終わった〜!!!ククゼシ最終章だったもの(^^ゞ
 「ククゼシまだ見たい」と言って下さった方が予想以上に多かったため、ククゼシがこれで最後と言うのは取りやめますが・・・
 とは言っても、私の中ではあと数本・・・やがて迎えるであろう8万ヒットかドラクエ8発売1周年のころに「8祭り」開催予定ですのでそのころですので・・・まだ先ですが。。。
 あ!もっとも今回ので私のククゼシはある程度燃え尽きてますので、そう長いものにはならないと思いますのであまり期待しないでください(願)

 うんでもって、この完結編・・・
 第一に説明しなければならないのは「ゼシカの初代婚約者がククール」ってことですよね・・・
 当サイトオリジナルですのであしからず・・・(^^ゞ
 大分前に書いたククゼシの「想い出」での設定というか続きと言うかです・・・
 想い出は単独の話で、思い付きだったのでまさか続きみたいに使うとは当時は思ってなかったのですが、今回の話に入れてみても面白いかな〜?って・・・
 気まぐれですいません・・・

 そして、七夕企画が出来なかったためにせめて題名だけでも七夕らしくとはじめた「星に願いを」ですが、最後に来てようやく星に願いをかけるシーンをかけたことは満足です。
 いや・・・ま〜こじつけと突っ込まれたら何もいえませんけど(^^ゞ

 で、・・・
 ククゼシの子供の名前・・・マルチェロとサーベルト。。。主姫の子供の名前ウィニア・・・
 めちゃくちゃ、安直でごめんなさい・・・
 私って名前を決めるのがめちゃくちゃ苦手なのでこんな感じになったんですけど、それでもこんな設定もありかな?なんて皆さんが思ってくれることを期待しています(笑)





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Photo by.空色地図

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