「エイト、本当はサザンビークに行きたくないのでしょう?」
 サザンビークに向かう船の上でおずおずとミーティアが尋ねた。
 その言葉にエイトはしばしどう答えていいものか悩み無言であったがあきらめたように口を開く。
 「ミーティアにはかなわないね。ごめん」
 「なぜエイトが謝るのです?ミーティアだってサザンビークに行きたくないし、エイトをサザンビークに行かせたくもありません」
 申し訳なく思い謝ったエイトであったが、ミーティアにキッパリと言い切られ驚きとどまってしまった。
 そんなエイトの様子を見て、すこししどろもどろになりながらもミーティアは説明を始める。



 「お父様の言うとおりうまく行くのかミーティアには不安でたまりません。だってサザンビークの国民が黙ってあなたを帰すとは思えないの。」
 そこで言葉を切って小さなため息を付いた後続ける。
 「あなたがサザンビークに残らなくてはならなくなってしまったらと思うと不安で・・・せっかくミーティアはエイトの傍に居られるようになったのに・・・
 エイトにとっては確信を付かれたような言葉だった。エイトの不安の原因もそこにあったのだ。
 以前の旅の途中でサザンビークによったときにも父エルトリオの名を国民から散々聞かされた。
 そのときにはまだ自分の父だということには思いもよらなかったのだが、国民に今だ思われているエルトリオ。
 自分はその息子である。現国王の息子であるチャゴスの評判がすこぶる悪い以上エルトリオの息子である自分がサザンビークを訪れれば期待されるであろう。
 そのこと自体はグラビウスやエイト自身が説明すればトロデ王の言うとおり何事もなく終わるかもしれない。
 しかしチャゴスの気持ちはどうであろう。
 いくら元をただせば自分のまいた種とは言え、いきなり現れたエイトを快く思わないだろうことは誰が見ても明らかだ。
 正直な話チャゴスは賢いとは言いがたい。しかしなにか突拍子もない悪知恵が働く事に関しては天才的な事は前の旅の最中エイトは気付いていた。
 何事もなければそれに越した事はない。だが悪い予感がしてたまらない。



 「大丈夫だよ。ミーティア、どんな事があろうと俺はミーティアと一緒にトロデーンに戻るから」










 その頃サザンビークではエイトとミーティアを迎える準備に余念がなかった。
 中でもグラビウス王と大臣の張り切りようはすさまじいものがあった。
 グラビウス王はもとより自分は王となる人物ではないと思っている。
 何度、兄がいてくれればと思ったことか。。。
 兄の子であるエイトがサザンビークを次ぐ気がない事は分っているし、自分の息子であるチャゴスに王位を告がせねば色々とめんどくさい問題が起こるのもわかっている。
 それでも、今だグラビウスが頼りにし、国民も尊敬している兄の子としばらくユックリ話してみたいと思っていた。
 古くからサザンビークに仕えている大臣も王の気持ちを良く分っているようで、「エイト殿に失礼がないように」というのが口癖のようになっていたのである。



 ただグラビウス王も大臣も心配な事が一つあったのだ。
 それは何を隠そうこの国の王子チャゴスだ。
 エイトとミーティアがサザンビークに来る事が決まってからと言うもの、なにやら行動がおかしいのだ。
 いくらグラビウス王が息子に甘いといっても、息子がさほど賢くないということも国民からの支持を得ていない事も心得ている。
 そのチャゴスがエイトに何か失礼なことでもしようものなら、このサザンビークに未来はない。
 チャゴスの従者になにかおかしな事があればすぐに報告するように言ってはあるが、グラビウスは不安であった。
 チャゴスが何もしなければエイトは必ずチャゴスを立ててくれるだろう。
 問題はそのチャゴスが何もしなければ。。。と言うというところである。
 父親としての感であるがチャゴスがなにかよからぬ事を考えているような気がしてならなかった。







 「ぐふふ。。。ミーティア姫が来るのだ。」
 チャゴスは嬉しそうに無気味に笑う。
 チャゴスは昔から典型的なワガママで自分のものは自分の物、他人の物も自分の物と思っている節がある。
 そんな性格ゆえに一度手に入れたはずのミーティア姫がエイトに奪われれるのがたまらなく悔しかった。
 全く関係のない人物に言わせればチャゴスの自業自得なのではあるが、本人はそうは思っていないところがなんともおめでたい。
 傍に居た従者は見かねて「この度のご訪問はエイト殿がメインでございます」と付け足すとチャゴスはとたんに嫌そうな顔になる。
 「あんな下賎のものがミーティア姫のお供だとは僕は許さん」
 従者はチャゴス王子に許してもらう必要はないと心の中で叫びながらも、まさか口に出すわけにもいかず無言で一礼する。
 そんな従者の心のうちは当然分っていないチャゴスは「いい事思いついたぞ」とまた機嫌がよくなっていた。
 「おい!僕は出かけてくる。父上には言うなよ」
 いつもながら悪知恵と逃げ足は天才的なチャゴスは、呆れてものも言えないでいる従者を振り切って外に出て行った。
 もちろん、チャゴスの部屋にはまたやられたと悲痛な表情を浮かべる従者が一人残る事となった。
 我に返った従者は長年、チャゴスに付き合っているだけに王子があのような顔をするときにはろくなことが起こらないと察したが、なにせ逃げ足の速いチャゴス王子を捕まえる事は出来なかった。





 「おい。商人。僕だチャゴスだ。いるのか?」
 サザンビーク城の裏手にあるみすぼらしい小屋にチャゴスはいた。
 王家の試練時に大きなアルゴンハートを持ってきた商人をチャゴスは気に入り父グラビウス王にも内緒でサザンビークに住まわせていた。
 このみすぼらしい小屋がチャゴスが商人に与えた部屋だった。
 みすぼらしいながらもパルミド出身の商人にとっては天国のような住まいであったがために、長い間ここを拠点として動き回っている。

 「これはこれはチャゴス王子。今日はどのようなご用件で?」
 商人のほうは、チャゴス相手なら多少の盗品でも高く売れるうえ住居まであてがられているのだ。
 良く言えばお得意様、悪く言えば良いかも状態であるがために愛想良く迎える。

 「うむ。実はな、ぎゃふんと言わせたい相手がいる。なにか良い物はないか?」
 チャゴスの言うぎゃふんと言わせたい相手がエイトであることを察しながら商人は頷く。
 チャゴスなら扱いやすいという邪念を抱いている商人にとってもエイトは邪魔者以外の何物でもない。
 自分の手を汚さぬ範囲で始末を付けておきたい色々と思案する。

 「ならば少々値は張りますが、こちらなどいかがでしょう?」
 商人はいやらしい目つきであったが、チャゴスにとってはすぐに目ぼしいものを出してくる商人に上機嫌で言う。
 「金などいくらでもある。どんなものなのだ?早く説明しろ」



 「はいはい。これはですね。。少々危険が伴いますが」
 そこでいったん言葉を切り商人はチャゴスを伺う。
 チャゴスがワクワクしたように早くしろとせかす顔つきであったのを確認し続きを説明し始めた。





 説明を聞き終えたチャゴスはいかにも楽しそうに城の外に出て行った。








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 自分で書いてて言うのもなんですが、チャゴスを書いてると気分が悪くなります(^^ゞ
 チャゴス王子を嫌いじゃないと思っている方すいません。。。
 ま〜でもこの話はチャゴスがいないと始まらない(笑)

 商人は「少々危険が伴う」と言っておりますが、実は次回で「少々」どころじゃないほどの危険が〜!!!(笑)






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