「え?ダークヘラが、この次動ネブラの王女だって?」



 やっとたどり着いた次界は荒れ放題であった。そこに住み着いていた先住民達の「次界である」と言う言葉がなければ、とても次界だとは信じられないほどだった。
 素晴らしい世界であると信じて疑っていなかった神帝たちにとって、その現状は驚くと同時に、これ以上ないほどのショックを感じていた。ここまで来るための道のりでの苦労、失った命に想いをはせながら、声に出してしまうと虚しさが募るような気がして、黙って俯いてしまっていた。
 それでも、襲い来る悪魔たちの攻撃を退ければ、美しい世界を築くことができると、その一点の希望を胸に戦っている最中に先住民のお守りに出会った。
 そして、そのお守りから、この次動ネブラにたどり着いてから、主力として襲ってきていた悪魔ヘッドであるダークヘラの正体を告げられたのだった。

 彼らの話によると、ダークヘラことヘラ王女の治めていた次動ネブラはとても美しい場所で、王女はさらに遊園地など楽しい施設を作ろうとしていたそうだ。
 それを突如侵攻してきたワンダーマリアたちによって破壊され、それに反旗を唱えたヘラ王女は捕らえらて魔洗礼を施したらしい。

 ダークヘラは強大な力を持っており、神帝たちは彼女の攻撃に苦労していたものの正体を知った上で思い返すと、なんとなく合点の行く所があった。
 攻撃中に頭を押さえ苦しんでいたり、攻撃の手を緩め呆然と立ち尽くしていたり、あげく涙を流していたこともあった。
 それはおそらくヘラ王女の博愛に満ちた強い聖心によるものだったのではなかろうか。



 「でもよ、なんだってワンダーマリアはヘラ王女を殺さなかったんだ?」
 神帝男ジャックの、ふと、つぶやいた疑問に、その場の面々は互いに顔を見合わせ、それぞれ不思議そうな表情を浮かべた。
 それもそのはずで、首謀者であるワンダーマリアとダークヘラ以外にも、最近はデカネロンやダビデブなど強力な悪魔ヘッドも出現している。一般の悪魔たちもそれぞれ力が上がってきているように感じる。天聖界や次界までの旅の途中に現れていた悪魔たちに比べて数段に力が上なのは明らかなのだ。
 そのような中、完全に悪魔化できず聖心が残っているのが敵である神帝たちにすら見て取れるダークヘラを前線に立たせるのは、どこから見ても危険な気がする。
 いつ天使としての心を取り戻し悪魔軍の機密事項を天使たちに漏らすかもわからないのだから。



 「・・・・・天使たちの仲間割れかな?元々王女だったのなら、天使にとっては攻撃しずらいでしょう?」
 しばらくの沈黙の後、ヤマト爆神がぼそりとつぶやいた。しかし、その言葉の端々が疑問形になっており本人の自信のなさが現れている。
 「そうはいうけどよ、おいらたちは ‘たまたま‘ ダークヘラの正体を知っただけだろ。」
 ‘たまたま‘の部分を強調して返答する男ジャックにヤマトはもちろん、他の者もグーの音も出せない。
 ヤマトの言うように天使の仲間割れを狙っているのなら、ダークヘラの正体をなんらかな形で神帝たちへ伝えるはずだ。‘たまたま‘の確率にかけるほどワンダーマリアは馬鹿ではない。天聖界からある意味では、とても長い付き合いをしている彼女の性格は神帝たちには分かっていた。



 「ここで悩んでたって仕方がありませんの!」

 頭を抱え込んでいる神帝隊に、今まで静かに話を聞いていたストライクエンジェルは業を煮やして一喝した。
 彼女は、この次動ネブラでの悪魔軍の攻撃の最中に、アローエンジェルからさらにパワーアップしていた。もともと、この神帝隊一行の中では理力は低かったが、今までは神帝隊が彼女をかばいながらも戦闘をしてきていた。しかし、ここ最近は悪魔軍の攻撃が盛んで、それもままならないゆえのパワーアップなのだろう。パワーアップそのものは喜ばしいことなのだろうが、その実、あまり喜んでばかりもいられないのである。
 神帝たちにはまだ及ばないながらも、自らもそれなりに戦うことが出来るようになり、張り切っているエンジェルは、さらに語気を強くして続ける。
 「私達はヘラ王女を助けなければなりませんの。そして、この次動ネブラを平和にするんですの。」

 「まぁそうだけど、どうやってそれを達成すれば良いかわかんねぇから悩んでるんだろうよ。」
 エンジェルの言うことは至極ごもっともであるのは先刻承知だが、その手段が分からないのだと呆れたように言い返すのはまたしても男ジャックだ。
 今度はエンジェルのほうが言葉をなくす。
 皆を元気付けようするエンジェルの気持ちは痛いほど感じ取れるものの実際は男ジャックの言うとおり方法が全くなく、他の面々も黙り込んでしまっていた。

 「・・・とりあえず、ダークヘラを気絶させて連れてくることに全力を挙げよう。あとはボクの理力を注ぎ込めば聖心を取り戻させることができるかもしれない。」
 一息ついた後、ようやくヤマト爆神が指し示した方法はおそらく今のところ唯一の手段なのだろう。
 彼がヘッドロココより受け継いだ強力な理力なら確かに可能かと皆が頷いた。
 もっとも聖心を取り戻させることのできる理論値よりも、強力な力を持つダークヘラを気絶させることのできる可能性のほうが少ないとは思っていても誰も口には出さなかった。今は、その可能性にかけるより他なかったから。








 「ヘラ王女さん、まだ顔色が優れませんの。もう少し横になっていたほうが良いですの。」
 身体を起こそうとしているヘラ王女に、付き添っていたストライクエンジェルは慌てて制止しようとする。

 かなりの苦労を伴うと思われていた神帝たちの作戦は意外と簡単に成し遂げることができた。
 その時は、いつもは必ずダークヘラについているお供がいなかったのだ。例によって、ダークヘラが聖心に苦しんでいたときにみぞおちに一撃を食らわせ気絶させることに成功した。その後は計画通り、ヤマト爆神の理力を注ぐことで見事に王女ヘラの姿を取り戻した。
 その時に限ってお供がいなかった理由は、おそらく、その前の戦闘での出来事にあるのだろう。神帝たちは口々に「ヘラ王女、共に平和な世界を作ろう」と声をかけたのだ。その言葉が彼女の心にとどまり一人、悪魔の城を抜け出したのではなかろうか。

 「・・・いえ、こうしている間にも次動ネブラが破壊されてしまう。」
 ろくに動かすこともかなわない身体を、それでも必死に力を振り絞ってヘラ王女は立ち上がろうとするも、途中で眩暈を起こしてしまったようで倒れこんでしまう。
 「大丈夫ですの。神帝さんたちが戦ってくれてますの。心配しないでくださいの」
 「しかし、全ては私のせい・・・私が始末を付けなくては・・・」
 「だめですの。神帝さんたちに任せてくださいの。ヘラ王女さんは、ゆっくり休んでくださいの」
 何度もの押し問答の末、あまりのストライクエンジェルの剣幕と、自身のまるで言うことを聞かない身体に、しぶしぶ戦いに赴くことを諦めてくれたらしい。

 「・・・ただ、おしゃべりができるようなら、神帝さんたちにヘラ王女さんの知ってることを教えてあげてほしいですの。」
 ゆっくり休めと自分で言った手前、多少、気が咎めたがお願いを口にする。
 調子の戻らないヘラ王女には口が裂けても言えないが、戦闘状況はあまり芳しくはない。王女を奪還された悪魔たちが総攻撃を仕掛けてきている上、魔幻型というおぞましい塔が出現してしまったのだ。
 ヘラ王女の負担にならない程度に、話を聞いて事を急ぎたいのは彼らみんなの願いだったから。










―――あとがき―――

 アニメ通り行くと、ここらへん結構うだうだなんですよね(^^ゞ
 全ての回がそれぞれ見所はあるんですけど・・・くりの芯とか、神伝レーラとか、オニワトリとか、一寸助とか・・・なきゃないでいいだろ!?
 最終回をあそこまで、つめつめにするなら、どう考えてもいらない(けふんけふん)
 で、その思いが強いために、私の中では今回は却下でよろしいかと・・・・・そうなったらそうなったで、アニメ設定のままだとうまく話が繋がらないのよね(笑)
 うんなわけで、次動ネブラ編は結構簡潔に・・・ただ、この話の根本としてゴーストアリババ事件がないわけですから魔洗礼と言うもの自体がここが初めてになります。
 魔洗礼に対する不思議さを前面に出してみたかったということで、この話をはさんでます。




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