次界門は、その名前からここを抜ければ、まもなく次界へたどり着ける、誰もがそう思っていた。
 しかし、その考えが浅はかだったことを一向はすぐに思い知ることになった。
 悪魔軍の罠により魔湿地帯と呼ばれる不気味な所へも落とされた。そこでは敵であるはずのワンダーマリアまで大怪我を追うほどの攻撃にもあった。
 幸い、リーダーであるヘッドロココの機転により、さしたる怪我もなく脱出は出来たものの、それに続く螺エリアでは魔スターPという悪魔ヘッドと対峙した。
 聖神様の使いと言う野生エルサMが助けに来てくれ大事には至らなかったが、度重なる悪魔軍の攻撃に一向はほとほと疲れ果てていた。





 ―――そして、更なる追い討ちをかけるようにヤマト神帝に全ての力を託してヘッドロココが逝った。―――








 「全然、眠れなくて起きてきちゃった。なんなら見張り、早めに交代しようか?」
 ヘッドロココ亡き後、彼の理力によりヘッド化したヤマト神帝改めヤマト爆神だ。
 夜も更け本日の所はこれ以上進むのは危険と判断し野宿をすることとなったのだが、眠りに付こうと思えば思うほど目が冴え、次が見張りの順番と言うこともあり諦めて起き出したのだった。
 「まあ、眠れないのも仕方がないか。オレも全然眠たくならないし・・・いつもは見張り中なんて眠くて仕方がないのにさ。」
 現在、見張り役であるアリババ神帝のほうも、そう大差はなかったようで、う〜んと大きく伸びをしながら同意した。
 アリババも早めに見張りを交代したところで眠れないだろうことはわかっているのでヤマトの申し出は早々に辞退し、己の向い側のスペースに座るように勧める。
 「やっぱりそうだよね。他のみんなも、寝返り打ったりしてたから、たぶん眠れてないと思う。」
 ヤマトはアリババの勧めに素直に従い、腰を下ろしながら寝床の様子をため息をつきながら報告した。





 二人は何かを遠慮するような仲ではない。同じ目的を持った同士、心を許す仲間、親友。いつもは賑やかな一行の中でもことさらに賑やかな二人なのだが、今は互いに手持ち無沙汰で無言であった。
 何も考えていないような、遠くを見つけたような表情で、それでいて共に心ここにあらずといった雰囲気だ。
 永遠に続きそうな気配すらあった沈黙を破りぽつりと先に口を開いたのはアリババ神帝だった。

 「ハピラッキーって誰の言葉なのか思い出したのか?」

 唐突のようでいて、ずっと聞いてみたかった。
 ヤマト爆神の親友の言葉とのことだった。だが、なんとなく自分も昔から知っている言葉のような気がしていた。それは日を増すごとに確信へと変わってきた。しかし、それがいつどこ誰に聞いたのかはさっぱり思い出せないのだ。考えれば考えるほど奈落の底に突き落とされたように堂々巡りとなる。気にしなければ良いと思うのだが、どうしても気にしてしまうし思い出さないといけないような気もする。
 「・・・わかんない」
 ヤマトは小さく首を振る。
 突然の質問に驚きもせずに答えるヤマトを見て、逆に聞いたほうのアリババが驚いた。小さな焚き火と月明かりのみの薄暗い中、表情はよく分からないものの雰囲気でそれを感じ取りヤマトは苦笑いをする。
 「さっき、男ジャックにも同じことを聞かれた。わかんないって答えたら、じゃあいい、って話は終わっちゃったけどね。」
 「ははっ。男ジャックらしいな。」
 そのときの男ジャックの様子が手に取るようにわかる。
 「うん。でもその時に思ったんだ。みんなも気になってるんだなって。ハピラッキーを教えてくれた人は僕だけじゃなくて皆にとって大切な人だったんじゃないかなって。」
 ヤマトのしみじみとした、それでいてどこか懐かしそうな言葉にアリババも小さくだが何度も頷いた。



 今まではヘッドロココを守ることが神帝隊の使命だった。
 そのヘッドロココを亡くした今はロココの遺志を引き継ぎ、天聖界を飛び立ったときの思いの通り「天使も悪魔もお守りも仲良く暮らせる次界」にたどり着かなければならない。
 悲しみや苦しさに負けて立ち止まることは許されず、自然と前向きに進むための合言葉「ハピラッキー」を念じることが多くなっているがために、いつも以上にこの言葉について考えてしまうのだろう。
 そして突き当たるのは心の底にある、厳重な鍵がかかっているような記憶。





 再びの沈黙。目の前の焚き火のパチパチと燃える音、木々が風に揺られる小さな音すら耳に入るような静かな世界。
 アリババは片方の膝だけ折り曲げそこに肘を更にそこに頭を乗せた少々だらしのない恰好、ヤマトの方は立て膝した両足を両手で抱え込み大きな身体を小さくしている。
 恰好こそ違うものの、それは二人の落ち着ける体制で物思いにふけっている証拠なのだろうか。
 そんな沈黙を今度はヤマト爆神のほうが先にやぶる。

 「信じてもらえないかもしれないけど・・・最近ね、心の中に語りかけるような、知らない人なのに、なんとなく懐かしい声がたまに聞こえるんだ。」
 「えっ?」
 その言葉にアリババは驚きでつい声を上げてしまった。
 「あぁごめん。頭がおかしくしくなったとかそん・・・」
 「いや、そうじゃなくて、俺もたまにあるからさ。」
 弁明をしようとするヤマトの言葉の途中で口を挟んだアリババは少々興奮しているのか今までより明らかに声のトーンがアップしている。そして、その言葉に今度はヤマトが素っ頓狂な声をあげ、まじまじとアリババを見つめる。

 「頻繁にあるわけじゃないけど、俺が悩んだりすると・・・まるで・・・」
 じっと見られているのが気恥ずかしくなった様子でアリババは少し声を潜めて話し始めるが、途中で口をつぐみヤマトをちらりと見やる。
 これから言おうとしていることは普通は簡単には信じてもらえないような話だから・・・それでもヤマトなら分ってくれるような、そんな気がして一度深呼吸のようなため息をし言葉をつなげた。
 「・・・その声の主は、まるで未来の俺を知っているかのようなんだ。そして・・・」
 再度、言葉を切ってしまったアリババの次の言葉をヤマトは息をつめて待っていた。次に口から出てくるのは自分の考えと同じなのではないかという予感がある。

 「・・・この心の声の人が、ハピラッキーを教えてくれた人じゃないかって思う。」







 「この前、ロココ様に相談したんだ。こんなに気になるのに、どうして分からないのかを。ロココ様のお知恵なら何か分かるかと思ってね。」
 ・・・つい数日前のことなんだ、とボソボソ言う顔はへらへら笑っているものの瞳にはうっすら涙がにじんでいる。
 ロココを失った悲しみは深い。それはアリババも同じなのだが、今はロココの答えが気になった。



 ―――思い出しても良い時が来たら自然と思い出すことができるでしょう。その時が来るかどうかは残念ながら私には分かりませんが、少なくとも今はその時ではないのです―――



 「・・・分かんないよ」
 はてなマークをたくさん浮かべるアリババに、ヤマトは苦笑いで「だよね」などと頷いている。
 考えることが得意なフッドや牛若ならともかく、この二人は神帝隊の中でも一本釣と並ぶ難しいことが苦手な二人だ。抽象的な表現をされてもさっぱり合点がいかないのは仕方がないところだ。

 「でもさロココ様は何かを知ってたと思う。そのロココ様が今は思い出す時ではないと言ってるんだから、仕方がない。どうしても気になっちゃうけど、それも仕方がない。」
 「・・・なんだそりゃ」
 ヤマトの極論にアリババは呆れたようにつぶやく。それでも、そんな極論もヤマトのヤマトらしいところでもあるのだ。



 「ほら、見張り交代の時間だよ。眠れなくても横にだけなっておいでよ。明日もハードなんだからさ」
 ことさら明るく言われ、アリババも今は全てを仕方ないで片付けることにして他の皆が眠る場所へと向かうのだった。













―――あとがき―――

 みんな、覚えてるんですよ。心の底ではね。ゲンキやジェロのことを。
 全てを覚えているロココは、神帝隊たちが忘れていることにも、意味があるのではないかと思ってるのではないかと思うのです。
 私の考えでは過去のことを覚えていれば、それによる影響も多大になると思うから。そもそも時空ワープは力が必要で、一般天使くらいでは副作用が出てくるのではないか?と。ヘッドは理力も高いため、それに耐えられるのではないかと思う次第です。
 ただ、神帝隊たちは心の底に生き続けるまとばでの経験を次界への旅でも生かしている。

 うんでもって、今回はダラダラ長い会話話だけですみませんm(_ _)m
 この会話がヤマトとアリババだけなのかは、ヤマトはリーダーだからでアリババは歴史改変の影響をもろに受けているからに他ならないです。

 ところで、六魔穴はスルーです。
 アニメストーリーに基づき書かせてもらってますが、六魔穴のことまで考えると収拾が付かなくなる。旧では六魔穴で再離脱するアリババが、ここで離脱するのかしないのか・・・
 そもそも、ここで離脱したら魔穴での歴史改変が意味がなくなる(^^ゞ
 ということで、六魔穴がアニメオリジナルで本来のシールストーリーにはないことを言い訳にしてスルーなのです(笑)

 ちなみに、前章で既にお分かりと思いますが、みんなの記憶にあるのはおちゃらけたゲンキ&ジェロですが、心の中に語りかけているのはジェロニクスゲンキです。




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