「ヤマト神帝さんに会いたいですの〜」
「静かにせい。クロスエンジェル。こう毎日騒いでおられたら、ワシの調べことが進まんじゃろ。」
「諦めたらラッキーはやってこないってヤマト神帝さんが言ってましたの。だから私も絶対に諦めませんの」
天聖界の執務室でシャーマンカーン無縁ゾーンの突破手段を探るため古い文献を必死に読みふけっていた。
そこに、いつものようにいつものごとくクロスエンジェルはヤマト神帝に思いをはせながら、彼の元に行きたいとカーンに訴えている。
天使軍の神ことスーパーゼウスはいまや、彼女を説得することは諦めてしまったようで生返事を繰り返すばかりであるがため、彼女のほうもカーンに的を絞ってお願いしているのだ。
しかしながらカーンはカーンで調べ物が思いのほか進まずに少しばかり焦っているのだった。
おそらく本来の歴史上は調べる必要もなかった文献まで先日まで必死に調べていたという理由もある。
もっとも、その調べ事のおかげで現在のこの世界と言う現実も存在しているのかもしれないと心ひそかに思っているわけなのであるが。
少しばかり肩の力を抜いて過去世界に思いをはせたとき、今まで必死に探していた文字がふと目に飛び込んできた。
「わかったぞ!」
とても大きなシャーマンカーンの声にその場でブツブツ言っていたクロスエンジェルは驚きとどまり、別の部屋でおそらくヴィーナス白雪と遊んでいたスーパーゼウスが顔を出した。
「無縁ゾーンを脱出する方法が分かったんじゃ」
大興奮のカーンは、スーパーゼウスに詰め寄りガクガク揺さぶっている。とりあえず彼の気が済むまで揺さぶられておいたスーパーゼウスが頃合を見て話しかける。
「で、どんな方法なんじゃ?」
コホンと一息ついてから少しばかりもったいぶるようにカーンはゼウスの問いに答え始めた。
「神帝隊と対になってるお守り七助が1枚ずつ持っているフェザーを使うのじゃ。フェザーが神帝たちの理力を高め、ロココにその理力を集めることによってバリアをはることができる。バリアの効き目のあるうちに脱出するんじゃよ。」
得意げに語るカーンをよそに、聞いているほうのエンジェルやゼウスはあまり意味が分かっていなかった。
「ヘッドロココに連絡でもとろうかの」
スーパーゼウスは自分が理解できないため、ヘッドロココとシャーマンカーンの話し合いを提案するのだった。どこまでもふざけた天聖軍のリーダーである。
「で、そのお守り七助ってどこにいるんですか?」
自分達の理力を高めると言われても具体的に方法が分からず、とてもあやふやに感じたので、はっきり分かる分からない所を口にしたのはヤマト神帝だ。
「お守りってことは天聖界にいるんじゃないのか?」
全員の沈黙の中、疑問系ながらもある意味で当然な返答をしたのは問われたはずのカーンではなく、アリババ神帝だった。
ヤマト神帝に問われた時点でアリババ神帝の出した答えはカーンは気づいていた。問題はそのあとだ。
「天聖界からということは、無縁ゾーンまでどうやってフェザーを持ってきてくれるんでしょうか?」
カーンの気づいた問題をずばり指摘したのは頭の切れる神帝フッドだった。
天使の中でも理力の高いヘッドロココと神帝7人が必死に突破してきた、天聖門からの道すがらをお守り7人で突破できるはずもない。
そもそもそれが出来るのならばクロスエンジェルとて、とっくの昔にヤマト神帝の元へ旅立っていたはずなのであるから。
「我らがお守り七助を迎えに上がりましょう」
一度戻ることを提案したヘッドロココにシャーマンカーンは静かに首を横にふった。
「いや、往復の道中のことを考えるとそれはあまりに危険じゃ。飛び岩がいつまでも同じ場所にあってくれるかどうかもわからんしな。」
ではどうすれば良いのかと、全員が同じことを頭にめぐらせる。再びの沈黙。
「・・・ひとつだけ方法があるんじゃよ。」
目を伏せながら、口を開いたカーンの態度に、全員があまり良い方法じゃないことを悟る。
しかし、行く方法があるということに一人だけ目を輝かせているのは当然のごとくクロスエンジェルだった。その瞳は「私も行きますの」と訴えかけているのは火を見るより明らかだ。
ロココや神帝たちは、危険な方法にエンジェルを巻き込むことを良しとしたくないのか互いに無言で顔を見合わせている。
ふぅと小さくため息をついたカーンは少しばかり諦めたように言葉を繋ぎ始める。
「別にこの方法自体に危険が伴うわけではない。たくさんのシールで道を作りそこを通っていくだけじゃよ。しかしな問題はたった一度きりしか使えぬ片道切符と言うところなんじゃ。」
「行きますの。片道切符と言うことはずっとヤマト神帝さんと一緒にいられますの。わーの、わーの。」
カーンの言葉を理解したエンジェルはまさに喜び爆発で、飛び回っている。
そんな彼女を横目で見やりながら、カーンはロココに言葉を求める。
「ここに来るまでの間には本当に危険はないのですね?」
再度確認のためのロココの問いかけに、カーンは無言で小さく頷いた。
「それでは、これからの旅は我らがクロスエンジェルを守りましょう。エンジェルも来たがっているようですし、私達も彼女がいると雰囲気が明るくなりますので」
にっこりとヘッドロココは頷いた。
危険な旅に女の子天使を巻き込むのはあまり良しとしない一方、いつも過去の世界でまでも一緒だった彼女は立派な絆で結ばれた仲間なのだから。
天聖界中にスーパーゼウスの号令の下、お守り七助探しが始まった。
神帝と対になっているお守りだけあって、彼らはいとも簡単に見つかり、お守り七助たちは自分達のフェザーを大事そうに恭しく差し出す。
「神帝さんたちによろしくなのです。」
口々に言う、お守り七助からフェザーを受け取るのはクロスエンジェルで、彼らが今まで大事にしてきたフェザーだということを一瞬で理解して、彼女もとても大事そうに受け取った。
クロスエンジェルとて、ヤマトに会いたい思いは強いものの、この任務がどれほど重要なものかくらいはわかっている。
ヘッドロココや7人の神帝は天使たちの希望で憧れの存在なのだから。
「シールで道を作る。片道切符じゃ、くれぐれも気をつけて旅をするのじゃぞ」
任務を忘れたわけではなかろうが、それでもうきうきとまるで遠足気分のクロスエンジェルに少しばかり心配そうに、注意をするシャーマンカーンの手には重ねられた大量のシールがある。
「はいですの。はいですの。」
聞いているのどうか定かではない彼女に小さなため息を交わらせながら、カーンはスーパーゼウスを振り返った。
「ワシがこのシールを空に放り出したら、おぬしがそれに理力をこめるのじゃ。それでシールロードの完成じゃ」
一方無縁ゾーンではヤマト神帝が何もないところで躓いたり、ぼおっとしたり、なんだか上の空。
「からかってやってもこの調子じゃ、からかいがいがないぜ」
とてもつまらなそうなアリババ神帝のつぶやきに皆は苦笑いを浮かべている始末。
なんだかんだとクロスエンジェルに会えるのをとても楽しみにしているヤマト神帝は、始めのうちこそ皆が面白がってからかっていたが、アリババ神帝の言葉通り何を言っても上の空なので、からかいがないのだ。
「ま、どうせこれから先ずっと一緒なのですから、しばらく放っておきましょうよ。」
心の底からあきれ返ったような牛若神帝の言葉に皆で頷くのが精一杯だった。
そうしてしばらくの後にパワーアップしたヘッドロココの先導の元、神帝隊とクロスエンジェルが無縁ゾーンに別れを告げた。
―――あとがき―――
無縁ゾーン脱出偏。
旧作ではアリババがいなくなったことによって、落ち込んだ神帝たちを励ます目的もあり合流したクロスエンジェル。
歴史改変により彼女がどのように合流するかが問題でした。。。
と言うことで、幸七フェザーをロココの元に届ける過程を改変して、シールロードは片道切符ということにしました。
次界門で必達天使たちと共に合流することにしても良かったんですが、ヤマトに会いたくて仕方がないエンジェルのさびしい気持ちを長引かせるのはそれはそれでかわいそうだったから(^^ゞ
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