エイトの誕生日から1週間が過ぎた。
今日は近衛兵への任命者が発表される日である。正直なところエイト以外の1級兵は居心地が悪いのである。実力的には圧倒的にエイトがある。しかし―――
城内でも城下でも天然、鈍感と言われるエイトもさすがにこの雰囲気は気付いていた。
「あのさあ。みんな。気にしなくていいんだよ。オレはトロデーンに置いてもらえるだけで十分なんだから。嘘じゃないよ」
仲間の沈黙に耐えられず、エイトは言葉にしてみるものの、重苦しい雰囲気は何一つ変わる事はなかった。
「ホントなんだけどな。。。」と口を尖らせてつぶやくエイト。しかし本人はつぶやいたつもりだったのだが、室内が静まり返っていたためほとんどの兵士に聞こえてしまっていた。
「ぷっ。あははははは。本当にお前なら気にしてなさそうだな。本音の本音は知らないけど俺たちがここでどうこう気を揉んだって仕方ないしな。誰になるかは知らんが必ず誰かは昇格して、俺たちと一緒に仕事することがなくなるわけだ。それまでの間楽しくやろうぜ」
数いる1級兵の中で底抜けに明るい性格の持ち主でありエイトの親友でもあるトムの言葉。エイトは心底助かったという表情になり笑顔で「うん」とうなずく。
―――オレは小さな頃から陛下や姫に可愛がって頂いた。十分すぎる―――
「ふむ。全員顔を上げるのじゃ」
大広間に整列した全兵士に向かい玉座からトロデ王が命令する。
「みなも分かっているとおり近衛兵への昇格者を発表し任命式を行う次第じゃ。ただ近衛であろうと一般兵じゃろうと我がトロデーンの大切な兵士である事は変わらぬ。皆、気を引き締めて我が城と国民を守るのじゃぞ」
トロデ王は王族らしくわがままではあったが、国民や家臣を思いやる言葉は決して忘れない。トロデーンでは争いはほとんど起こらない理由かもしれない。
近衛兵にだけ与えられるトロデーン紋章入りのバッチを恭しく抱いて大臣が大広間に入ってきた。
それを見たトロデ王は軽くうなずき隣に座るミーティアに視線を送る。それを確認しミーティアも頷く。
さすがに兵士達も全員緊張の面持ちで今か今かと待ちわびている様子が手に取るように分かる。
「正直わしは悩んだのじゃ。しかし、悩んでいたのはわしだけだったようでの。大臣もミーティアも近衛隊長も意見が一致しておったな。」
茶目っ気たっぷりにトロデ王が笑う。一息ついた後、ゆっくりとそれでいてしっかりと言葉を発する。
「エイトよ。前に出よ。」王は相変わらずの笑顔で手招きまでしてみせる。
居並ぶ兵士達からは歓声が上がる。しかし当のエイトはあまりの驚きに呆然としてしまっている
隣にいた兵士はお前だといわんばかりに肘でつついたりもしているが、まるで夢でも見てるかのような顔で瞬きを繰り返すのみ。トロデ王やミーティアは笑いを堪えきれなくなったようだ。
「エイト。ミーティアは先日言いましたわ。あなたにもう一つプレゼントがあると。覚えてらっしゃいますか?」
少し意地悪く笑うミーティアにエイトはやっと合点がいったのだろう。
「まさかこれがプレゼント〜〜〜???そんなの聞いてない」
よっぽど驚きだったのだろう。エイトは敬語を使うことすら忘れてしまっている。
「今初めて言ったのですもの。当たり前ですわ。受け取ってくださいますよね?」ミーティアが尋ねる。
数秒の沈黙の後、さすがに少し落ち着いたのかエイトは口を開く。
「私などでよろしければもちろんお受けします。しかし私には受け取る資格などございません。お考え直しいただいたほうがよろしいと存じます。」
「確かに先ほどいったようにワシも悩んだ。しかし城を守る強さに身分や記憶は関係あるまい。強くて性格が良くて顔が良ければ十分じゃ」
最後の顔が良いというのはトロデ王なりの冗談であったが、エイトもここまで言い切られては仕方がない。自分には出すぎた職だという意識は持っては居るものの昇格が嬉しくないはずもなく結局は近衛兵へ昇格する事となる。
「姫、こんなところで何をしてらっしゃいます?」
エイトが近衛兵となり宿舎の引越しをした日の夕方のこと。
ミーティアは1人、中庭に居た。お付きの者も伴わず噴水に腰掛けているのをエイトは不審に思い話しかけた。
「ここで待っていればエイトが来てくれると思ってました。やはり見つけてくださいましたね」
くすくすと微笑みながら、とても楽しそうにミーティアは答えた。
「いや、そういう問題じゃなくてですね。姫一人でなにかあったら大変なのですが・・・」
あまりにあっさりと言い切られたエイトは、この姫には何を言っても通じないと悟りながらも一言言わずにはいられなかった。
「だってミーティアはエイトとお話したかったんですもの」
ミーティアと話がしたかったのはエイトも同じ気持ちであるので、苦笑いを浮かべながらも噴水に腰をかけた。
「・・・・・近衛兵への任命に姫がお口添えくださったんですよね?ありがとうございます。自分には出すぎた職とは思いますが、昇格はやはり嬉しくございます」
「そう言ってくれると嬉しいです。しかしお父様に口添えしたのはミーティアだけではございません。近衛隊長とあの堅物な大臣もですよ。大臣がエイトが良いと言い出したときにはミーティアは驚きましたが、嬉しかったですわ。」いかにも楽しそうにミーティアが言う。
小さな頃からエイトに辛く当たっていた大臣。その大臣もがエイトを推薦したとはミーティアが驚いて当然でエイト自身も驚愕した。
「大臣にとって私は何がよかったのでしょう?大臣に推薦していただけるとは槍でも降って来そうな気がいたします。」
このエイトの言葉をきっかけに2人は顔を見合わせて笑った。まるで子供の頃のように。
―――エイトが近衛兵になって数ヶ月が過ぎた―――
「陛下に折り入ってお話があります。」
「なんじゃ?エイトか。相変わらずかしこまっておるの。おぬしの事を子供の頃から知っておるから違和感があるのじゃ。というか今でも子供じゃろ。今はワシと大臣しおらぬ。もう少し砕けてよいぞ」
「はっ。いやそれを言われると辛くございますが。」
「だから少し砕けて話せと言うておろうに。不器用じゃのう。近衛に任命したときに久しぶりにお主のタメ口聞いてそっちのほうがおぬしらしいと思ったんじゃが」
困ったように笑みを浮かべるエイトと妙なところでいじけているトロデ王。2人を見比べながら大臣一人で苦笑いである。
「まあ良い。わざわざ部屋まで来たと言う事はなにかあるのじゃろ。話せ。大臣も聞いていたほうが良い話か?」
「はい。なるべくなら大臣様共々お聞きしてほしく思います。」
わかったと言うようにトロデ王と大臣がうなずきあった事を確認し、エイトは話し始める。
「今、城下にドルマゲスという道化師が頻繁に来ております。まるでピエロのような格好で子供達も喜んでいるのですが、どうしても私は好きになれません。なにか危険なにおいがするのです。」
「そうか。この前ワシにも挨拶に来ておった。面白そうな感じじゃったがのう」
エイトの言葉にトロデ王と大臣は首をひねる。それを見たエイトは続ける。
「トロデーンがどのようなものにも開かれた国である事に一番感謝しているのはまぎれもなく私自身です。しかし、ドルマゲスだけはどうしても危険信号が鳴って止みません。なにか理由があるわけではないのですが。。。」
「うむ。今までそなたの勘が外れたことはないし、ワシはそなたを信用している。理由などなくてもそなたを信じる事にしたいと思う。しかし、それこそ理由もなく国を追い出すわけにはいかぬ。口の堅い兵数名を見張りにつけよう。エイトそなたもドルマゲスの動きを見張っていてくれ」
「はい。かしこまりました。不可解な話を信用していただき感謝いたします。ではこれにて失礼いたします」
エイトは王の部屋を辞した後、「ふう。」と一つため息をつく。
「エイト。お父様にお話ですか?ミーティアには何もないの?ミーティアともお話しましょう。近衛兵になったらエイトといっぱい会えると思ってたのにあまりお話できないんですもの。少しくらいいいでしょう?」
「姫。それは申し訳ありません。色々と仕事がありまして。よろしければまた中庭に行きませんか?」
エイトの言葉に嬉しそうに頷くミーティア。
「ねえ。エイト。どんなに強くなってもエイトは昔のままでいてね。ずっとずっとミーティアのお友達でいてね」
「私は姫をお守りするために兵になったのです。姫と姫の大好きなトロデーンを命に代えてもお守りします。陛下と姫にトロデーンに連れてきてもらったときから私は何一つ変わりませんよ。」
++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++
正直な話エイトもミーティアも感情を押し殺すのがクセのような話に持っていってるので、あまり感情論がない話になってます。
でもこのe塀になった経緯とかそういうものを私の中で固めておかないと主姫ラブラブができないような気がして(^^ゞ
思った事書いてみました。
で、ドルマゲス登場(笑)エイト君はドルマゲスが悪い奴だとなんとなく気付いています。
まさかあそこまでやるとは思ってないでしょうけどね(^^ゞ
ということで、次回の6でこの出会いからが完結予定です。
Photo by.空色地図
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