「エイト先輩、おはようございいます。またエイト先輩に先を越されてしまいましたね。自分の誕生日くらいユックリしていればいいじゃないですか」
 「あははは。おはよう。ピピン。オレは元々小間使いだから朝早いのは癖だよ」
 朝早い、兵士の訓練場での一幕。時間を見つけては訓練をしているエイトに憧れているピピンは悔しそうである。



 今日はエイトの18歳の誕生日。エイトが城に来て9年。兵士になって7年が過ぎていた。
 トロデーンの兵士は4階級に分かれていて、王族や貴族を直接お守りする近衛兵と城や国民などの安全を守る一般兵である1級兵、2級兵、3級兵となっている。
 11歳と言うトロデーン史上最年少で3級兵となったエイトはメキメキと才能を発揮し、今では1級兵まで昇格した。
 当初から得意だった剣術に加え、最近は体術や呪文、たくさんの敵を攻撃できるブーメランまで幅広く使えるようになっていた。その実力は近衛兵をもしのぐと、囁かれるほどだ。
 今年になってトラペッタから兵に志願した3級兵の後輩ピピンはもちろん、実力的にはエイトに水をあけられた格好の先輩達でさえもエイトに対しある種、尊敬の念を抱いている。
 どんなに実力をつけようと昔から変わらず、皆に気を遣い丁寧に接する。何分にも嫌味と言うものがない上、幼く見える顔立ちも手伝い先輩達にも今だ可愛がられる存在なのである。
 年頃の女性達にも密かにエイトに想いを寄せる者も珍しくはなかったが、特定の恋人はない。しかしいつもニコニコ笑顔のエイトの本音はそう簡単には見られない。そう印象を持つものが多かった。



 「相変わらず早いな。エイトもピピンも。ところでピピン今日こそはエイトより先に訓練所に来れたのか?」
 1級兵、昇格当時のエイトの同期であるトムである。年齢こそエイトより大分上で今年25歳になるのだが、エイトにとっても気兼ねなく話が出来る友達であった。
 「全然ダメですよ。エイト先輩は早すぎて。」ピピンは苦笑い。
 他愛もない話をしながらも訓練はみな必死である。トロデーンは南に大きな砂漠が広がっているせいか近隣のトラペッタなどよりも強い魔物が多く、家宝と古くから詠われている杖も賊などから守らねばならない。そのため、他国に比べて兵士の実力も高く分厚い兵法書もある。






 「さあ。これで今日の朝練は終了だ。」一般兵の兵士長の号令により厳しい朝練終了。
 一息ついたエイトに歩み寄ったトムは茶目っ気たっぷりにからかうように声をかけた。
 「エイト。今日は姫に呼ばれてるんだろう?いいねえ〜姫のお気に入りは」
 王家の姫が一介の兵を呼ぶなどと言うことは通常ありえないことなのだが、幼馴染のエイトだけは特別だというのが、この城の暗黙の了解。ミーティアが幼き頃からエイトがお気に入りなのは誰もが知っていたからだ。
 「うん、姫とお会いしてくるよ。でもお気に入りとかはなしな。姫と年が近い中ではほかの人より早くからこの城にいるだけの話なんだからさ。じゃ、とりあえず先に帰るよ。」
 何事においても無駄がないエイトはトムを軽くあしらって、さっさと部屋に戻っていく。

 「ねえ。トム先輩。本当のところどうなんですか?エイト先輩と姫って。色々過去が謎なんですけど」
 ピピンが興味深々でいつのまにかトムの傍までやってきて、本当に不思議そうに問いかけた。。
 「いや。俺も良くは知らんが、俺がこの城に来たときから既に今みたいな感じだったんだよ。ただ姫は相当エイトを気に入ってるのは確かだぜ」とトム。
 「ふ〜〜〜ん。じゃあ、もうすぐ発表される近衛兵への昇格者はエイト先輩で間違いなしなんですね?実力的にも一番だし!」自分の尊敬する先輩の良い話にピピンは上機嫌である。
 「・・・・・それはどうかな。あいつは・・・いや、ここでこんな話やめておこう」いつも思った事をすぐに口にするトムが珍しく歯切れが悪い。
 「なんですか?トム先輩気になるじゃないですか?」最近城にやってきたピピンはエイトが身寄りのない事を知らないのである。

 トロデーンは代々の王がユニークな性格のせいもあり、国民にとっても王族や貴族、兵士達は尊敬こそされていたが壁が高いという印象はない。
 それと同じで兵士たちも実力主義であり、多少の性格などを加味されるだけで家柄などは昇格の対象にはならないのだ。
 だがそれは1級兵までの話であって、近衛兵ともなれば現代までにおいて身元のない者が昇格した例はない。王族、貴族を直にお守りする兵であるがために、それが必然で暗黙の了解だ。







 「エイト。待ちきれなくてここまで来てしまいましたわ」
 兵士の宿舎に戻ったエイトが朝錬で流した汗をきれいにし、着替えを済ましたその時、とてもうきうきしたような口調で不意に声をかけられる。
 「姫。ここは兵士の部屋でございます。姫が来られる場所ではありません。とは言え。。。姫は昔からなにも変わりませんね。」
 はじめのうちは少しばかり苦虫を殺したような口調であったが、ニコニコと笑顔な彼女を見ているうちに、どうでも良くなってくる。
 「くすくす。そうですか?トラペッタに行こうと迷子になったときの事をまだ根に持っていらっしゃるのね」
 「根に持つなどとは人聞きが悪くございます。」
 兵士部屋には、2人を子供の頃から良く知るベテラン兵士しか居ない事もあり、エイトもミーティアも昔話で盛り上がっている。
 「では久しぶりに中庭にでも行きましょうか」嬉しそうにミーティアが言う。
 「わかりました。参りましょう」
 17歳になったミーティアは昔のワガママさも表面上は消えうせ、王族らしい優雅さとしとやかさを兼ね備え誰が見て麗しい姫となっていた。
 エイトとミーティアは相変わらず仲は良かったが、大人に近づくにつれ互いの置かれている立場を理解し、今ではタメ口を聞く事はなくなっている。



 「2人きりで会うのは、久しぶりね。エイトの活躍の話はよく聞いてるいましたが、色々エイトについて皆に話を聞いてるから逆に会いたくて仕方がなくなるわ」
 ミーティアの言葉にエイトはドキリとする。そんな事言われたら、自分だけ特別扱いされているのではないかと錯覚する。なるべく考えないようにしているというのに・・・ミーティアが隣にいるというだけで胸が熱くなるというのに、そんな事言われたら・・・
 「くすくす。そんなこと言われたらエイトだって困るわよね。・・・・・エイト?」
 急に押し黙ったエイトに不思議そうな問いかけがふる。
 「いえ。なんでもありません。そんなことよりも最近は以前にもましてお忙しそうですね。それなのにわざわざ本日は私などのために時間を割いて下さり恐れ多くございます」
 エイトは自分の内からあふれかえる邪念を振り払い笑顔でミーティアを気遣う。
 「毎年、エイトの誕生日だけは仕事をしないとお父様に頼んでいます。でも、たぶんそれも今年で最後になってしまうのでしょうね。」
 ミーティアは生まれながらにしてサザンピークのチャゴス王子との婚約が決まっている。
 最近サザンピークからの使者が頻繁に訪れるようになっており、婚儀の日付が近づいているという噂が流れているのをエイトも知っていた。
 「・・・最後。と言う事は、お噂どおりご婚儀が迫っているという事なのですね。」
 エイトは正直胸が高鳴っていた。鈍感だの、天然だのと言われているエイトといえども、その胸の高鳴りの意味は分かっている。そしてその意味は一生自分の胸の内に秘めて置かねばならない事だった。
 「エイトと一緒にいる事ができなくなると思うとミーティアは寂しくて仕方ありません。でも王族として生まれた責任は果たさなければならないと思っています。」
 そういうミーティアの瞳からは今にも涙が零れ落ちそうである。生まれ育った地を離れることへの不安なのだろうか。
 「サザンピークはとても賑やかで素晴らしい国と聞きます。そんな国の王子なら素敵な方なのでしょう。大丈夫ですよ。」
 サザンピークはそう近い国ではない。一度サザンピークに行ってしまうと、ミーティアは二度とトロデーンの地を踏む事が出来なくなるかもしれない。
 それは同時にエイトにとっても二度とミーティアに会えなくなることを意味する。ミーティアに言った「大丈夫」という励ましは半分以上自分への慰めとなっていた。

 「なんか暗い話になってしまいました。ごめんなさい。せっかくのエイトの誕生日なんですもの、楽しい時を過ごしましょう」気持ちを切り替えた様子でミーティアが言う。
 「そうそう。今年のお誕生日プレゼントはこれです。」ミーティアは一転茶目っ気たっぷりになった笑顔で紙包みをエイトに渡す。
 「いつもありがとうございます。あけさせていただいてもよろしいでしょうか?」
 「もちろんよ」
 エイトは丁寧に包みをあけていく。
 「ひざ掛けですか。なんと暖かいのでしょう。夜など冷え込みますので助かります。本日より早速使わせていただきます」
 「そう言ってくれると嬉しいわ。いつも夜遅くまで勉学に励んでいると聞いていますので使ってもらえるかと思いました。恥ずかしいのですが、手作りなのです。侍女に聞いて初めて作りましたので色々不恰好のところもありますが、許してくださいね」なんとも恥ずかしそうにミーティアはうつむく。
 「姫が作ってくださったのですか。それはますます恐れ多い事でございますが、大変嬉しく思います。」
 言葉どおり本当にすまないと思っているエイトであったが、嬉しそうである。
 「くすくす。ありがとう。でもエイトは朝も早く起きているのです。あまり無理をして身体を壊さないように気をつけて下さいね。」
 そんなミーティアの言葉にいつもの優しい笑顔でエイトは小さくうなずく。
 「それと、実はエイトにもう一つプレゼントがあるのです。でもそれは今は渡せません。数日まってくださいね。」
 まるで小さな頃のいたずら好きの少女のような顔である。
 「なんでしょうか?それは気になります。でも姫の事ですから、今お聞きしても教えては下さらないのでしょうね。このひざ掛けだけでも大変ありがたいのですが、数日を楽しみに待っていることにいたします。」まるで見当もつかないエイトはとても不思議そうな表情ではあったが、ミーティアの性格は良くわかっている。ここで色々尋ねたところで教えてはくれないだろう。



 それからと言うもの互いの近況を語ったり昔話をしたり・・・
 「姫。もう日も大分傾いて参りました。そろそろ中へ戻りましょう。お風邪など引かれては大変です。」
 「そうね。エイトといると時間が経つのを早く感じてしまいますね。参りましょうか」
 エイトの言葉に本当に名残惜しそうにしながらもミーティアは頷いた。
 「そのように言っていただけるとは、家臣としても友達としても大変嬉しく思います」
 エイトの友達と言う言葉にミーティアの顔が明るくなる。エイトにとっては兵の仲間や城下に数名友達と呼べるものが存在するがミーティアにとっては友達と思えるのはエイトだけなのである。そんなミーティアの心情をよく理解した上でのエイトの言葉ではあったが、事のほか喜んでいるミーティアはやはり時が過ぎる事への寂しさが強かったのであろう。





 「今年で最後か。。。ミーティアお願いだから幸せになって。オレの唯一の願い。。。」









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 突っ込みどころ満載です(^^ゞ

 ピピンとトムと言う兵士の名前はオリジナル設定ですが。。。
 ピンと来た方はドラクエ好きですね〜♪
 ピピンは5のグランバニアの兵士の名前、トムは6の現実世界のレイドッグの兵士長の名前です。私ってば名前考えるのすごい苦手で(^^ゞ頂いちゃいました。
 実は今回途中までマリア(5)とかカヤ(7)という名前の女性も登場させてました(笑)最後に削りましたけど(^^ゞ

 ということで、エイトくん、姫様のこと大好きなんです。自分で書いてて思うんですが、どうして私は甘甘の小説ってかけないんでしょう。。。なにやら暗いかギャグしかかけない自分が嫌になってきます(笑)
 というのは置いておいたとしても、姫様からの手作りのプレゼントまで登場させてしまいました♪でもホント甘くなくてすいません。。。

 お分かりかとは思いますが、トロデーンの兵士が4階級に分かれてるとか言うのはオリジナルですので(笑)実際は知りません(^^ゞ


 



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Photo by.空色地図

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