子供の成長は早い。あっという間に時は流れ、エイトがトロデーンに来て2年が経った。

 9歳の誕生日、初めて感情をあらわにしてからと言うもの些細な事にも興味を持つ子供となっていた。
 文字の読み書きを初め教養一般も小間使い仲間に教えてもらった。城にやってきた時には感情に乏しくまるで赤子だったエイトは水を得た魚のように素晴らしい成長を遂げていた。よく笑いエイトの居るところには笑いが途絶えない。それほどまでに明るい少年に育っていた。
 しかしエイトは教養を身につけたことでミーティアとの身分の違いを感じられるようになっていた。そんなこともありエイトはミーティアに対してよそよそしくなっていく。
 トロデーンと言う国は歴代ユニークな性格の王が多く、国民たちにもいろいろな面で門出を開いてはいるものの、姫と小間使いが普通のお友達で居られるわけはない。
 ミーティアも10歳になり王妃の居ないトロデ王は各国の王や貴族との会食にミーティアを連れ出すようになっていた。必然的にエイトとミーティアは会う機会すら激減し同じ城で過ごしながら数日あえないのは普通の事となっているのである。
 しかし、そんな状況がミーティアには不満でならなかった。10歳、もちろんエイトと出会った頃より数段成長を遂げたとは言え、まだまだ遊びたい盛りである。小さな頃かからの唯一の友達であるエイトに会いたいと我がままを言っては王やメイドを困らせていた。






 そんなある春の日の事。ついにミーティアは行動に移してしまった。仕事が休みで小間使いの部屋に一人読書にふけるエイトを訪ねた。
 「エイト。ミーティアと遊びましょう。」
 「ミーティア!・・・あっ・・・姫。このようなところに来てはダメです。」
 途端にミーティアの顔に翳がおちる。そして、今までの不満の矛先をエイトに向けてしまった。
 「どうして?どうして来てはダメなの?お友達と遊ぶのはダメな事なの?エイトはミーティアが嫌いなの?もうお友達じゃないの?」
 一気にまくし立てた後、大声で泣き始める。これに困ったのは当然エイトである。
 「あの。。。姫の事が嫌いとかじゃないですけど。えっとその。でもぼくは姫の事、大好きですけど。」
 「どうしてミーティアの事、姫って言うの?」
 怒鳴るようにきつい視線でエイトを睨みつけるミーティア。
 「えっ。だってぼくは小間使いで姫とは身分が違うんです。」
 いくら教養が身について来たとは言ってもまだ11歳の子供。うまく説明できるはずもない。ミーティアの剣幕におどおどしながらも必死で言葉をつむぐ。
 エイトはミーティアの事が大事である。それにはなにも嘘はない。出会った時に「お友達になりたい」と言ってくれた事は鮮明に覚えている。誕生日を決めてもらった事。中庭で一緒に遊んだ事。どれも大切な思い出でミーティアが居なければ今の自分はない。
 「お友達に身分なんて関係ないもの。パーティーとかに出てるよりエイトと一緒のほうが楽しいわ」まだ泣き顔なもののエイトの大好きと言う言葉に安心したのか少しいつもの調子を取り戻す。



 「ねえ。一緒にトラペッタまで行かない?そうすればいっぱい一緒に居られるわ。ね?命令よ」
 ミーティアは父王が「命令じゃ」と言うのを聞いて小さな頃からたまに「命令よ」とエイトにわがままを言っていた。今までは他愛もない命令でエイトでも簡単にかなえて上げられる範囲のものだった。だが今回ばかりは、いくら命令でも姫を城から連れ出すことなど出来るはずもない。
 しかし・・・しかしエイトは会食の席などでミーティアがどれほど退屈でどれほど嫌な思いをしているかも知っている。近頃会う機会が減ったとは言え全く会っていないわけではない。会うたびに「つまんない」と会食の事を言うミーティアを不憫に思っていたことも事実である。


 「わかりました。少しだけ遊びに行きましょうか」
 エイトは少しばかり悩んだ末、結局はミーティアのわがままに付き合う覚悟を決めた。
 いけないことだというのは分っている。トラペッタの街に行くのは久しぶりだが自分の記憶ではそう遠いところではない。まだ朝早い今から出れば、日の暮れる前に帰ってこれるエイトはそう計算した。



 大人たちに言えば絶対に反対されると思った二人は、隠れて台所に行き簡単なお弁当とお菓子をカバンに詰め込んだ。姫であることを気付かれないようにするために変装もした。小さな頃から2人で遊んでいたとは言え、城の外に2人きりで出るのは初めてだ。初冒険に心躍り二人顔を見合わせて笑顔を作る。
 しかし、そんな楽しい気分は数時間で終わる事となる。





 歩いても歩いてもトラペッタに付く気配がない。方角を間違ったのか、それとも自分達の足で歩いていけるような距離じゃなかったのか。
 トラペッタに行くのは2人が出会った日以来である。もう2年も前の事で、しかもあのときには馬車で移動した。いずれにせよ、日は大分傾いてこのまま進めばトロデーンに日が暮れる前に帰るのは不可能となってしまうだろう。
 「姫、ごめんなさい。トロデーンに帰りましょう。これ以上行ったら帰れなくなる」
 エイトは自分の考えの甘さでミーティアに辛い思いをさせていることに激しい後悔を覚えた。なんで姫を連れて来てしまったんだろう。ぼくがもっとしっかりしていれば・・・どんなことがあっても止めるべきだったんだ。
 「そうね。帰りましょう」さすがにミーティアも黙って従う。
 「本当にごめんね。ミーティア・・・ぼくが・・・ぼくがもっとしっかりしてれば、キチンとトラペッタまで連れて行ってあげれたのに・・・。」
 自責の念にとらわれ涙を必死に堪えるのに夢中で、言葉遣いも昔に戻っている。
 それでも、今ここで後悔したってどうにもならない。夜になり魔物が出るようになる前にトロデーンに帰らなければならない。泣くのも後悔するのも帰れてからにしよう。ミーティアだけは守らなくちゃ。



 来た道を戻っているはずなのに、見覚えがない景色が続く。道を間違ったのではないかとエイトは焦る。日はもうほとんど落ちてしまっている。
 このまま動かないで居たほうが良いのではないか・・・魔物が大量に出てきたら・・・どうしていいかも分らない。エイトはとてつもなく不安だった。
 「きゃ」そのときミーティアが声を上げる。見るとスライムである。魔物の中では、そう強い魔物ではないが戦いの心得のないエイトには倒せる自信はなかった。
 「ミーティア下がってて」それでもエイトには戦うしかなかった。ミーティアを守るためには、自分がスライムを倒さなければならない。今は自分しかミーティアを守れる人間はいない。
 道に落ちていた木の枝を拾うと一か八かでスライムに向かっていく。何度も何度もスライムに体当たりをされながらも、ミーティアを守らなきゃという強い気持ちも手伝い、エイトは少なくとも記憶がある限り始めてモンスターを倒した。あちこち傷だらけで体力もほとんど残っていないような状態ではあったが。。。





 2人は道に迷っているらしいし、エイトの体力がほとんどないことも考え、一晩野宿で過ごす事を決めた。
 「ねえ。エイト。ミーティアの手をずっと握っていてね。そうすればミーティアはなんにも怖くないわ。」
 怖くないと言いつつも、その手が震えているのがエイトにはよく分かった。
 「うん。本当にごめんね、ミーティア。ぼく。。。」
 「なんでエイトがあやまるの?トラペッタに行きたいといったのはミーティアだもの。あやまるのはミーティアよ。ごめんね。エイト。怪我までさせてしまって」
 そんな会話をしているときだった、突如エイトのポケットからトーポが飛び出してタタタッと走り出す。少し行ったところで、まるでついて来てと言う様に後ろを振り返る。
 「なんかトーポが呼んでるみたい」ミーティアがつぶやく。これまでもトーポは様々な事で自分を助けてくれたとエイトは思っている。でも夜も大分深くなっている今、下手に動いてミーティアに怪我でもさせたら・・・。でも・・・。
 「ねえ。エイト行こうよ。トーポが見えなくなってしまう。」
 いくらミーティアに怪我させたくないからといっても、自分の記憶にある限り一緒に居るトーポとサヨナラするのも嫌だった。
 「行こう」決意を固める。
 トーポを追いかけ、走る。小さなネズミだというのに結構走りが早くついていくのに手一杯な二人であったが、握った手を離す事はなかった。
 「頑張って」と励ましあいながらしばらく走り森林を抜けた先、いつも見慣れているトロデーンの明かりが見えた。





 「お父様!!!」
 「ミーティアや。心配したぞ。どこに行っておったのじゃ?怪我などはないのか?」
 親ばかで、ミーティアには甘いトロデ王もさすがに咎めるような口調である。
 「陛下。ごめんなさい。ぼくが姫をキチンとお守りできなかったせいです。姫を叱らないで下さい。」
 エイトにとって初めて聞いたトロデ王の怒り口調。全て自分が悪いと思っているエイトにとってはミーティアが叱られるのは耐えられず思わず叫ぶ、それに最初に反応したのは、そばに控えていた大臣だった。
 「当たり前だ。お前のしたことは重罪だ。謝ってすむような問題ではない。身元の分らない子供などこの国においておくのはやはり間違いだった。」
 「違うわ。エイトは何にも悪くないわ。ミーティアがトラペッタに行きたいと我がままを言ったのです。叱られなければならないのはミーティアです。エイト、お父様、大臣そして兵の皆さんミーティアがわがままを言ったがために本当にごめんなさい。」
 幼いながらも王族としての気品を感じさせる、しっかりとした口調でミーティアが言う。
 「あい、わかった。ミーティアの言っている事はよく分った。悪いようにはしない、とにかく今日は夜も遅いのだし疲れてもいるじゃろう。ミーティアは眠りなさい」
 トロデは少しばかり表情を和ませ、ミーティアに言葉をかける。
 しかしミーティアは少しばかり心配そうに、父王と大臣と、そしてエイトを順に見回した。自分が辞した後、エイトが何かを言われたら・・・
 「悪いようにしないから、お前はゆっくり休みなさい。」
 トロデにはミーティアの心配事は手に取るようにわかっている。娘を安心させるため大げさなくらいに大きく頷いて、ミーティアの頭をなでてやる。
 「お父様。わかりました。・・・・エイト本当に今日はごめんなさい。でも楽しかったです。また遊びましょうね」
 トロデの行動に少し安心したのか、さきほどの父王の言葉に素直に従い、部屋へとミーティアは戻っていった。





 エイトは覚悟した。もうトロデーンは自分をここに置いてくれないだろうことを。
 無事に城に帰りつけて最悪の事態こそトーポのおかげで免れたものの、大臣の言う事がもっともだと。

 「陛下。あの・・・大臣が言うようにぼくのやった事は謝ってすむようなことじゃないと思います。でも・・・でも・・・本当にごめんなさい。姫に怖い思いをさせて・・・陛下にも大臣にも心配させてしまって・・・」
 謝ってすむ問題じゃなくても、他にできることも思いつかずにエイトは必死に謝る。それしかできることはなかったから。

 「エイトや。そなた怪我をしているようじゃな。どうしたのじゃ?」
 ふと、少年の身体を見ていたトロデ王が今気が付いたのか問いかける。少年の服はあちこち破れ、その破れ目から見える幼い肌には血がにじんでいる。
 「魔物に襲われてしまって・・・えっと・・・その・・・姫に怖い思いさせてしまいました。ごめんなさい」こぶしをぎゅっと握りしめ瞳からは今にも涙が零れ落ちそうである。
 「そうか、そうか、でもミーティアは何一つ怪我はしていなかったようじゃな。そなたが必死に守ってくれたおかげなのじゃろう。ありがとうな」
 思っても見なかった礼がトロデ王の口から飛び出した事に、エイトは驚きを隠せないで居る。そんなエイトには構わずトロデ王は続ける。
 「ミーティアのワガママは今始まったことじゃないじゃろ。それはエイトとて良く分っておろう。何分甘やかしすぎたワシのほうこそ、そなたに謝らねばならぬのじゃよ。ミーティアは、常にエイトと遊びたいと言っておった。それにも関わらず公の席に連れて行ったのはワシじゃ。耐え切れずにそなたのところに逃げたのであろう。おぬしとてそんなミーティアの気持ちがわかっておるから、ミーティアのわがままを聞いてやろうと思ったのであろう。違うかの?そうなんじゃろう?」
 図星を言い当てられ驚きを隠せないエイトだったが、やがて王の言葉に小さく遠慮気味にうなずいた。
 「ワシも大臣も城のものも全員、ミーティアとエイトの姿が見えない事に気付いたときには青くなったぞ。じゃがエイトが謝る事ではない。ミーティアが言うとおり謝るべきはミーティアなのだとわしは思う。しっかりと自分の非を認め素直に皆に謝ったミーティアをわしは誇りに思っている。」
 トロデ王はもういつもの茶目っ気たっぷりな表情にも戻っている。唖然としている少年にさらにかけた一言には、なぜかウィンクつきであった。
 「そして、そんなミーティアをわしらの前でも、魔物の前でも常に守ってくれていた、そなたは臣下の鏡じゃ。なにもうつむく事はない。ミーティアのせいでそなたに怖い思いさせてすまなかったの。」
 小さな子供が居ないトロデーン城内で唯一の子供であるエイトは皆に可愛がられていた。ミーティアをかばうエイトの愛くるしさと王の決断にその場に居た者たちから自然と拍手が沸きあがる。

 「そうじゃ。エイト、そなたに褒美をとらそう。なにかほしいものはあるかの?」
 トロデ王の言葉に周りのものは大喜び。あちこちから「良かったな」「おめでとう」と声がかかる。
 「でも陛下。ぼくご褒美なんてもらえることしてません。陛下に許してもらえただけで十分です。」頭をブンブン振って辞退するエイト。
 「陛下が直々に褒美を取らすといっておられるのを辞退する事のほうが失礼だぞ」先ほどまでエイトを非難していた大臣までもが褒美を受け取れと言い出す。


 恐縮しながらも、四方八方からほしいものを言えと暖かい言葉を掛けられて、エイトは小さな頭で考えた。
 「・・・じゃあ。お願いがあります。ぼくに戦い方教えてください。強くなって今度はキチンと姫を守りたいです。あっ、あのその、また黙って城を抜け出すとかじゃないですけど・・・・えっとなんていうか・・・その・・・」
 考えて考えて考えて、自分が今一番ほしいのはミーティアを守る力だと思いついたのだ。
 最後はしどろもどろになりはしたが、王に気持ちはほぼ正確に通じたようである。

 「あい、分った。そなたは本当に優しいのう。そんな褒美でよいのならこちらから頼みたいくらいじゃぞ。まだ子供ながら一人で魔物に挑んだ勇気は兵士に値する。戦い方を教わるだけではなく、そなたには今からトロデーンの兵士の任を与えようぞ」

 そう言うトロデ王の顔には満面の笑みがこぼれていた。








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 エイトくん、兵士になるの巻(笑)かなり無理やりのような気もしないでもないのですが(^^ゞ
 でも小間使いから兵士になるキッカケってのも気になるところだったんで、自分なりに書いて見ました。
 前に書いたミーティア一人称の小説「春の日の想い」の詳細&後日談と言う事になります(笑)
 当初、「春の日の想い」はエイト13歳、ミーティア12歳に設定してたんですが、今回「出会いから3」を書いててもう少し幼くしたほうがいいかな?と考えまして、2歳ほど若返らせました。ドラクエの世界は旅立ちが早いので、これくらいの話だったら11歳が妥当と判断しました。
 だって、考えても見ればドラクエ5の主人公は6歳で既に冒険していますし。子供達も8歳で冒険してるわけですからね(笑)

 正直言うと「出会いから2」が自分としてはかなり満足してる出来となってるので、今回の3は物足りなさ自分で感じてます(^^ゞでもま〜兵士になったエピソードを書かないことには次の話に繋がりませんので(笑)こういうのもありかな?と(^^ゞ自己解釈してます。

 ところで、王がわがままでぶっちゃけ好い加減?なお人よしみたいに私は感じているので、どうにか大臣に締めて貰うつもりで居るんですが。。。
 大臣、すごく嫌な奴ですよね。1でも2でも3でも(^^ゞどうしてもこうなっちゃうんだよね。。。困った事に(笑)

 次の4はかなり時が進む予定です。なんか主人公の口調「ぼく・・・」っ可愛いい少年って感じになれちゃったけど、青年口調にこれからは切り替えなくちゃ(笑)


 



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Photo by.空色地図

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