エイトは、なぜトラペッタにいたのか、トラペッタに行くまで何をしていたのか、何も記憶がないという。
 その記憶がないという理由をトロデ王は「エイトは親を魔物に殺されて、それを見たショックで記憶をなくした。」と決め付けエイトが城で働く事を快く思わない大臣を説得したのである。
 「姫と同じくらいの年の子は助けてやらねばな」と笑われては、大臣も太刀打ちなどできようものがなかった。
 なにもかもを姫と結び付けて考えるところがトロデ王の親ばかと取れない事もないのであるが。。。



 エイトがトロデーンで小間使いとして働くようになって数ヶ月が過ぎていた。
 エイトの記憶が戻る気配はまるでない。しかしトラペッタで盗みをやっていたとは思えぬ程、よく働く子供であった。他人にも気を配る。腰が痛いという年配の小間使いが重い荷物を持っていたりすると黙って助けたりと、自ら率先して仕事をする。
 そのこと自体は主君であるトロデ王としても、同僚達としても誇らしい事ではある。しかし子供らしさと言うものがまるでない。
 笑わない。泣かない。いや、笑えない。泣けない。と言ったほうが正解かもしれない。それほどまでに表情がないのである。
 大臣説得のためとっさに作った「親を魔物に殺されたという」トロデ王の想像も、あながち当たっているのではないかと城の誰もが思うようになっていた。
 楽観主義者と自他共に認めるトロデ王もさすがにエイトの表情のなさには困り果てていたのである。
 そんなエイトもミーティアにだけは少しだけ表情が和らぐのをトロデ王は気付いた。大人たちはエイトに哀れみを感じているためか、ますますエイトは身構えてしまっているのであろうか。何の事情も知らず無垢なミーティアならば・・・もしかしたら・・・
 時間が許す限りトロデ王はエイトとミーティアを会わせた。初めてできた同じ年くらいの友達にミーティアも大喜びである。
 少しずつ少しずつでも笑ってくれれば・・・城のもの全員の願いとなった。









 トロデ王の誕生日が近づいた、ある日の事。その日もミーティアはエイトと中庭で遊んでいた。
 「ねえ。エイト。お父様の誕生日のプレゼントどんなものがいいかしら?」
 大好きな父王へのプレゼントをどのようなものにしようか考えあぐね、エイトに相談しようと考えた。
 「プレゼント?」不思議そうに聞き返すエイト。
 「そうよ。お誕生日だものプレゼントしなくちゃいけないもの」
 小間使いの仲間との会話でエイトもトロデ王の誕生日が近い事は知っていた。しかし今まで人と付き合ったことのないエイトにとっては誕生日にプレゼントと言う感覚はなかった。
 むしろ誕生日にプレゼントと言う感覚はよく分からない。誕生日がお祝い事であることも知らないのだから。

 「そういえば、エイトのお誕生日はいつなの?」
 今、気が付いたとばかりにミーティアはわくわくする気持ちで隣のエイトに尋ねる。
 「・・・ぼくの誕生日?」
 しかし、聞かれたエイトのほうはただただ戸惑っていた。なぜ、ミーティアがそんなことを聞くのかも、そして記憶のない自分には誕生日も分からなかったから。
 「そうよ。エイトのお祝いもしてあげたいもの、だから教えて」
 エイトの戸惑いに気づきもしないミーティアはもう一度、同じ疑問を口にする。ただただ、お友達のお誕生日を祝ってあげたいその一心で・・・



 「・・・もしかしてエイト。。。お誕生日覚えてないの・・・?」
 黙り込んでしまったエイトにミーティアも子供心にまずい事言ったと思い遠慮気味に尋ねる。
 「うん。ミーティアはお誕生日分ってていいな。ぼくも分ってたらよかったんだけど」
 誕生日が素敵なものだと言うことだけはやっと理解できたエイトは、正直な気持ちを口にした。

 「だったらエイトのお誕生日は今日にしようよ。そうよ。それがいいわ。ね!?いいでしょう?エイト」
 一瞬の沈黙が流れた後、ミーティアはとても良いことを思いついたとばかりにパッと表情を明るくして、飛び切りの笑顔でそう問いかける。
 「え。。。でも・・・」エイトは困惑していた。
 しかし、言い出したら頑固なのは父王譲りのミーティアはエイトの返答などお構いなし。
 「そうよ。お誕生日のプレゼントをあげなくては。ねえ、あっちに今日は旅の商人が来ていたわよね!行って見ましょうよ」
 思い立ったが吉日とはまさにこういうことなのだろう。エイトに有無すら言わせずに、彼の手をとり走り出す。







 「ミーティア様、いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」
 世界を回っている旅の商人ではあるが、トロデーンには城下町がないこともあり商売しやすいのか度々訪れているためミーティア姫のことも良く知っている。

 「あのね、今日はエイトのお誕生日なの。だからプレゼントにいいもの何かないかしら?色々見させてくださる?」
 とても楽しげにそう言うミーティア。おどおどとそのミーティアに手を引かれている少年。ミーティアがこの少年をとても気に入っているのは火を見るより明らかで、商人も少しばかり微笑ましい気分になる。

 「そうですか。それはおめでたいことですね。それでは飛びっきりのものをお選びいただかなくてはいけません。」
 陳列している品の他、あれやこれやとミーティアに品物を紹介し始めた。
 「あら?これは何?綺麗な色ね。」色々と眺めるミーティアが手を止めて商人に尋ねる。
 「それはバンダナと言いまして、海の向こうでは頭や手首に巻いて、おしゃれを楽しむものでございます。この綺麗なオレンジ色のものは海の向こうでもとても珍しいものなのですよ。」
 トロデーン地方ではあまり見かけないバンダナと言うものにミーティアはことのほか興味を持ったようで、まじまじと眺めたあと、満足げに一つ頷いた。
 「ミーティアはこれとても気に入ったわ。エイトはどう思う?」
 どう思う?などと問いかけの口調を取っているものの、エイトはミーティアの勢いにたじたじで有無など言えるはずもなかった。
 「えっ。・・・綺麗な色だよね。」
 一言だけ、そう答えるのが精一杯であったが、悪い気分ではない。
 「じゃあ決まりね。エイトお誕生日おめでとう。ミーティアからのプレゼントです。大事にしてね。」
 「うん。。。」次から次へと展開が速くてエイトはすでに頷くことしかできなかった。
 しかしエイトはなぜか自分の中に不思議な気持ちがあふれてきている事に戸惑っていた。
 「ねえ。じゃあ次はお父様にご報告に行きましょうよ」
 にっこりと満面の笑みを浮かべたミーティアは、またしても彼の手取り引っ張っていくのであった。






 「お父様。今日はエイトの9歳のお誕生日なの。」
 いつのまにか年齢まで決まっている。あまりの突発さにトロデ王もそばに居た大臣も驚きとどまっている。そんなこと気にしないミーティアは続ける。
 「ミーティアは、これからみんなにお知らせしてきます。お父様はエイトのお祝いしてあげてね」
 言い終わるか否か、笑顔で走り去っていくミーティア。
 どうにか気を取り直したトロデ王はエイトに向かって尋ねる。
 「エイトや、どういうことじゃ?誕生日を思い出したかの?」
 エイトがこの城に着たばかりのときに、誕生日も年齢もすでにトロデ王は尋ねていた。分からないといった少年に、それ以降は一度も訪ねたことはなかったのであるが記憶がよみがえってきたのかと少しばかりの期待もする。
 「いえ、違うんです。ミーティアはぼくがお誕生日覚えていないって言ったから、今日をお誕生日にしてくれるって。あの・・・ごめんなさい・・・。ミーティアにプレゼントまでもらってしまいました。本当に・・・あの・・・すいませんでした。」
 エイトはミーティアを呼び捨てにする。大臣は快く思っていないがミーティア自身が望んだ事で、トロデ王はミーティアにとってもエイトにとってもそのほうが良いと黙認している。
 「そうか。そなたがあやまる事ではなかろう。ミーティアもワシに似て思い立ったがすぐ行動じゃからな。よし。そなたの誕生日は今日じゃ。良いな?プレゼントか。綺麗な色じゃな。大事にしてやってくれぬか?」
 トロデ王の問いかけに黙ってうなずくエイトは、初めて幸せな気分に陥り、不意に一筋の涙がこぼれた。
 感情に乏しいエイトの涙にトロデ王は焦った。その涙の理由がまるで分らなかったから。今の自分の言動に幼い少年を傷つけてしまったのだろうか。
 「どうしたのじゃ?どこか痛いのか?なにか悲しいのか?」

 トロデ王が心から心配しているのが分ったのか、堰を切ったようにエイトは泣き始める。
 「ち・・が・・。 ひっくひっく。。。ただ・・・嬉しく・・て・・・・ひっく。ありがとう・・・ござ・・・います・・・・」
 涙で声がかすれているものの、必死に説明するエイトに、トロデ王は自分ももらい泣きしそうになりながら、ただ黙ってエイトの頭をなぜ続けた。
 9歳児のエイトよりも身長の低いトロデ王は机に乗ってではあったが・・。普段ならば行儀が悪いと叱る大臣もさすがにこの状況では黙認していたようである。





 トロデは思っていた。エイトの本当の誕生日も年も分からない。しかし、あれほど感情に乏しかったエイトが初めて感情らしい感情を見せたのだ。ミーティアが言う通り今日はエイトの誕生日にふさわしいと。。。

 さすがは我が可愛い姫じゃな。









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 めちゃくちゃオリジナル設定はいりました(笑)
 主人公の誕生日はミーティアが決めたことになってしまった(笑)
 挙げ句、勢いに任せて主人公がいつもしているバンダナはミーティアがプレゼントした事になってしまった(笑)
 いや、だってさ。。。あんなにいつも愛用してるんだったら姫からのプレゼントだったら良いな♪とか密かに思ったんだもん!!!
 なんていうか、勝手気ままにオリジナル設定作ってしまってスイマセン(^^ゞ
 文中の商人のセリフ「頭や手首に巻いたり〜」と頭だけじゃなくて手首も入れたのは、ゲーム中の回想シーンで兜をかぶっていたからに他なりません(笑)
 だって兜の下にバンダナは巻かないですから(^^ゞ
 そして、最後1行のトロデの「さすがは我が可愛い姫じゃな」はなくてもよかったと思うんですけど。。。ゲーム中の度々見られる親ばか&我がままを少しで出したいなと思って(笑)

 出会いとか言う題名にしている割には、この話まだ続けます(^^ゞ題名変えなきゃやばいよな(笑




 



小説目次へ

back     next
 

 

 




Photo by.空色地図

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送