「ミーティアや、初めて来たトラペッタの町は楽しんでおるか?」
 「お父様、とっても楽しいわ。来年のお誕生日もまた連れてきてもらえる?」
 今日はトロデーンの麗しの姫、ミーティアの8歳の誕生日である。大臣などはパーティーを開くと張り切っていたが、誕生日プレゼントにトラペッタに行って見たいというミーティアの頼みに自他共に認める親ばかトロデ王従うしかなかった。
 大臣をどうにか説き伏せて、今日のこのトラペッタ訪問となったわけなのだが、ミーティアの事のほか喜ぶ姿にはトロデ王としても嬉しい限りである。





 「あのガキまた来てやがる。」「追い払え」
 突如、裏小路が騒がしくなる。
 「どうしたのじゃ?」
 その血相に、トロデは眉をひそめながら誰ともなしに問いかける。
 「最近、小汚い子供が町で盗みを働いておりまして。王と姫君がお出でくださってるのに申し訳ない限りです。」
 案内係に勤めていた町長は苦虫をかみ潰したような口調で平伏した。



 「かわいいネズミ」
 見るとミーティアの足元に小さなネズミ。ミーティアはネズミの愛くるしさにひょいと抱き上げる。
 しかし、それであわてたのは町長である。
 「姫様いけません。そのネズミはいつも盗人が連れているネズミで姫様ともあろう方が、お触りになられては。ささ、こちらにお渡しくださいませ」

 「トーポを返せ」
 まだあどけない年頃の少年。とても澄んだ瞳をしている。しかし身なりはボロボロで痩せこけていた。
 「これあなたのネズミ?トーポってお名前なのね。かわいい」
 苦々しく眺める町の人間、少年のあまりのみすぼらしさに言葉を失う城の者。
 大人たちが言葉を失っているうちに、やはりそこは子供。なんの疑問も持たずにミーティアは少年に話しかけている。
 「そち名前は何と言う?家はどこなのじゃ?親は?」我に返ったトロデ王は矢継ぎ早に質問する。
 「トーポを返せ」
 しかし少年はそう繰り返すだけで王や姫の問いかけには一切答えない。どこか屈折しているような、それでいてひどく寂しそうな、このネズミだけに執着しているさまに城の者たちにとっては戸惑うなばかりだ。
 トロデーン地方は比較的、治安がよく、民が路頭に迷うなど苦労することはほとんどない。
 それはトロデーンが開かれた国であると同時に、国王が柔軟なものの考え方をしているためでもあった。
 口では少しわがままで気位の高いことを言う国王だが、その実は「民が国の宝」というスタンスでの政務を行っているからだ。
 それにも関わらず、端からみて不憫と思うような、身なりの少年にトロデ王は少なからずのショックを受けているのである。



 「町長や。まだ幼き子供が路頭に迷っているというのに保護してやろうとは思わなんだか?」
 何も答えない少年に、トロデ王は深い事情があるのだと察し町長をとがめる。
 「お父様、ミーティアはこの子とお友達になりたい。」
 そんなミーティアの言葉に少年は驚き、初めて子供らしい顔を見せる。
 あわてふためる、町の人間を尻目に王の決断は早かった。
 「うむ。少年や。ミーティアもこう言ってる事だし、よければトロデーンに来ぬか?もちろん仕事はしてもらうが食べるのには困らせぬ。そのネズミも一緒でよい。」
 王はなにか運命に似た錯覚に陥っていた。王とて自ら聖人君子ではないと自負している。
 それでもあの子は救って上げたいと思わす何かがある。
 トロデーン国王として救ってやらねばならぬ義務もある。

 「そうよ。そうすればいいわ。そうすればいつもミーティアも一緒にいられるし。」
 喜ぶミーティアと、驚きを隠せぬまま呆然と立ち尽くす少年。
 トロデ王は2人を交互に見やりながら「あとは大臣をどう説得するかじゃな・・・」
 ポツリと心の中でつぶやいた。



 トロデーンに帰る馬車の中、ミーティアの楽しそうなはずむ声が響く。トーポもそんなミーティアになついたようでミーティアの腕の中にすっぽり収まっている。
 「ねえ。そろそろあなたのお名前教えて?お名前分らないと不便だわ」
 「トーポぼく以外になつくはじめて。おまえ不思議」ポツリとつぶやく少年。
 姫をおまえよばりするのには、さすがのトロデ王もむっとしたようだが、ミーティアは少年が始めて言葉らしい言葉を発したのが嬉しかったらしい。
 「そうなの?こんなにかわいいのにね。どうしてだろう?」
 ミーティアが真剣に悩みだしてしまったので、あたりは急に静かになる。
 今まで誰にもなつかなかったトーポ。そのトーポがこんなにもなついている少女。なによりこの少女ミーティアに少年は不思議な感覚を覚えていた。
 初めて安らぎを覚えるそんな気持ちであった。

 「・・・エイト」聞き取れないほど小さな声でつぶやく少年。
 「え?」ミーティアは首をかしげる。



 「エイト・・・ぼくの名前・・・」








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++
主人公が小さい頃の記憶がなくて8歳の頃からトロデーンで暮らしているという話を聞いて思いつきました。
トーポ&主人公の正体を知る前に既に書いていたものだったのですが。。。
とりあえずトーポの正体、主人公の出生の秘密を知って自分めちゃくちゃ運命感じました。
ネタバレになるのであまり深くは言いませんが、裏ダンで出生の秘密を知ったときはもう自分涙ボロボロ(笑)
ちなみにトロデ王なんですが、なるべくゲーム中のキャラ壊さないように書いたつもりなんですが(^^ゞ
ミーティア姫が可愛くて可愛くてというのは出せたかな?って思ってます。
ちなみに「聖人君子ではない」というトロデ王のセリフはゲームから拝借しました(^^ゞ



小説目次へ  next









 

 Photo by.空色地図

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送