「かわいいエイト、私の声が聞こえますか?」
エイトの耳にどこからともなく声が聞こえてきた。
初めて聞いたようでどこか懐かしいその声にエイトはそれが母の声であると気づく。
「母さんなのですか?」遠慮気味ながらも確信を持ってたずねるエイトにその声は明らかにうれしそうに答える。
「母をわかってくれるのですね。母親として何もしてあげられなかったというのに、なんてやさしい子に育ってくれたのでしょうか。ありがとう。そしてごめんなさい。」
「母さん、オレは」
エイトは一言そう言うと言葉が続かない。そんなエイトの様子に母は優しい声で慰める。
「あなたが言いたいことよくわかっています。私たちのことは気にしないで、自分の信じる道を進むのですよ」
「私たち?」エイトの母ウィニアの声を聞きミーティアが不思議そうにたずねる。
その疑問に答えるように人影が2つ浮かび上がる。
「父さん?」今にも泣き出しそうな表情でエイトは尋ねる。
「そうだよ。長い間おまえにつらい思いをさせてすまなかったね。何もしてあげられなくて本当にすまない。」
心底申し訳なさそうに俯きながら語る父は本当にエイトそっくりで、誰が見ても一目で親子とわかるほどだった。
エイトは大きく首を横に振りながらもはじめて見る両親に感激と戸惑いで言葉も出ない様子である。見かねたミーティアはそっとエイトの背を押し言う。
「抱きしめていただいてはいかが?」
初めての対面で親子3人それぞれ緊張の面持ちであったが、ミーティアのその一言で高が外れたのか、エイトは両親に抱きしめられ静かに泣いた。
ミーティアはエイトの口から寂しいとか言う言葉は聴いた事がなかった。ミーティアの知るエイトは、いつもほがらかで、それでいて頼もしい笑顔のエイトだった。
しかし、記憶も家族もなかったエイトが不安でないわけはなかったはずだ。両親に会いたかったはずだ。
今、初めて両親に会い、涙するエイトの姿にエイトの気持ちがダイレクトに伝わってきてミーティアは完全にもらい泣きしていた。
「さて、いつまでもこうしているわけにはいかない。エイトおまえにはやらねばならぬこと。そしてわれらよりも大事なものがあるのであろう。」
少し寂しげに、それでいて息子の成長した姿に満足したように父、エルトリオはつぶやく。
「そうね。母は死んだときエルトリオとともにエイトの精神世界に入りました。でもそれも今日で終わりです。父や母はもうあなたの中にいることはできませんが、いつも見守っています。あなたの大事な人を守ってあげてくださいね。」
ウィニアは抱きしめていたエイトを離しながらエルトリオの言葉を引き継いだ。
「父さん、母さん、今オレがやろうとしていることが二人を追い出すことなのですね?そんなことオレ。せっかく会えたのに。」
エイトは本能的にわかっていた。父と母は竜の血の力によって自分の中にいて見守っていてくれたということを。つまり竜の血を捨て去ろうとしている今、父と母を自分の中から追い出さなければいけないということを。
父と母は満足したように見つめあう。どちらからともなく笑顔でうなづきあった。それは本当に心から結ばれた恋人たちに姿にエイトには思えた。
「あなたを残して死ぬことが心残りで今までこの世に 残っていたのです。しかし、あなたは自分の手で幸せを手に入れた。私たちにとって思い残すことはもうありません。」
ウィニアの言葉を黙って聞いていたエルトリオはエイトの肩にをぽんぽんとやさしくたたく。
「私たちのことは気にするな。私はウィニアと一緒ならどこへでも行ける。お前にもそういう人がいるであろう。精神世界にまでお前を訪ねて来てくれるほど、お前を愛してくれるお方がな。」
そう言ってエルトリオはミーティアにウィンクなどして見せるものだから、ミーティアは気恥ずかしさから一瞬俯くものの意を決したように言葉を紡ぐ。
「お義父さま、お義母さま、ミーティアはエイトに出会えてとても幸せです。これからもエイトと共に歩んでいくことをお許しください。」
大きな瞳いっぱいにたまった涙が一筋の雫となって零れ落ちる。エイトはその涙を指でぬぐってやりながら一言「ありがとう」とつぶやいた。
「ミーティア姫。義父と呼んでくれてありがとう。これからもエイトをよろしく頼みます。」
そう言ってエルトリオはウィニアとともに深々と頭を下げた。
愛しいエイトにそっくりな優しい瞳に見つめられミーティアは胸の鼓動が早くなるのを感じながらも大きく頷いた。
それを見たエルトリオはウィニアの手を握る。
「さあ、もう出口は近い。行きなさい。エイト、邪念を持っては竜の血は捨てられない。お前の中に流れる血がどう変化しようとエイトは私とウィニアの大事な息子に違いない。だから迷わず行け。」
大きく頷いたエイトに満足したのかエルトリオは茶目っ気たっぷりに「サザンビークのことも頼むね。」と付け足してウィニアと共に消えていった。
―――トロデーンとサザンビークに幸あることを―――
「行こう。ミーティア。」
すっかり晴れ晴れした表情になったエイトは明るくそう投げかける。
この精神世界に来てからというもののエイトはずっと母に侘びながら進んでいたようにミーティアは思う。
それが母に許しをもらえ、父と母が歩んだ道が後悔していないと知って心に霧のようにかかっていた迷いがすべて吹っ切れたのだろう。
「お義父さまもお義母さまも早くに亡くなってしまったけれど、愛する人と結ばれたことは幸せだったのでしょうね。」
ミーティアは自分の手をエイトのそれに重ね合わせる。
エイトはその手を握り返しながらゆっくりと語り始めた。
「父さんと母さんは幸せなのだと分かってとてもうれしいよ。親のぬくもりって言うものを初めて感じることができたこともすごくうれしいよ。だけど・・・」
そこで言葉を切ったエイトは顔を赤くしながら一瞬ためらうもののミーティアを見つめなおし、思い切ったように続けた。
「君がずっとそばにいてくれたことが一番うれしいよ。これからもオレのそばにずっといてください。」
急に改まった物言いになったエイトに、その言葉の意味を一瞬で悟ったミーティアは本日3度目の涙をあふれさせながら無言で大きく頷く。もう言葉にならなかったのだ。
「こんなところでごめん。陛下やミーティアはこんなオレをいつも受け止めてくれるけど、自ら言葉にしたことなかったと思ったら、どうしても今言っておきたくて。改めて受け入れてくれてありがとう。帰ったら陛下にもミーティアをくださいってキチンと言いたい。」
「エイトのその言葉がミーティアにとって一生の宝物になりそうです。」
二人はずっと手を繋いだまま光が強くなる方向へ、二人の幸せな未来へ進んで行った。
その姿はエイトの父と母にも負けぬほどの絆の深さを物語っていた。
++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++
だいぶ前から何でもありな話になってますが、本気で何でもありですね(^^ゞ
エルトリオとウィニアは私自身いつか書いてみたいと思っていたカップルです。
そのうち、この二人に出会いの場面とか書かせていただく予定ですが、とりあえず主姫小説にゲスト(?)出演ということで(^^ゞ
死した後にお互いが出会っていてくれればいいな♪という願望の元であります。
この後、天国で仲睦まじく暮らしてくれていればいいな♪
この二人のイメージ壊してしまっていたらすいません(^^ゞ
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