「そのようなことが可能なのですか?」
長い長い沈黙の後、初めに口を開いたのは不安と期待の入り混じったような複雑な表情をしたミーティアだった。
「そのような事が可能ならば、エイトには竜の血を捨てさせてやってください」
意を決したようにグルーノは竜神王に告げる。
竜神族に生まれ育ち、娘の形見であるエイトに竜の血を捨てさせる。そのグルーノの選択にミーティアも竜神王も驚く。
それに気付いたのか静かに語りだすグルーノの表情は悲痛以外の何物でもなかった。
「たとえ竜の血を捨て去ったとしても、エイトがワシの孫でウィニアの子である事には何の変わりもございません。長い間、人間として育ち、ここにおられるミーティア姫をはじめ人間によくしてもらったから今のエイトがあるのです。この子に人間の血を捨てさせることなどできようはずがない。」
なにか言いたげにグルーノを見やるミーティアを無言で制し、なおもグルーノは続けた。
「エルトリオ殿とエイト、そしてワシにエイトを託して死んだウィニアへのせめてもの償いですじゃ。ウィニアが生きておればワシと同じ選択をするはずじゃ」
一瞬、俯いたものの、グルーノのその瞳は既に覚悟を決めているかのようだった。「方法を教えてください」と小さな声ながら力強く竜神王に尋ねたのだった。
「グルーノ、そなたの思い受け止めた。しかしながら人間の血を捨てる事よりも難儀な事である。真実を言うと人間の血を捨て去る事は私の力のみで解決できることなのだ。だが、寿命の違う竜神族と人間では竜の血のみでエイトを生き長らせたとしても、さらにエイトに試練を与える事になるかもしれんの。」
竜の王として複雑な思いもあるのであろう神妙なおもむきで、そこまで一気に語り、グルーノとミーティアの二人を交互に眺める。
何も語らぬ、否、語れないでいる二人に竜神王は静かに方法を説明し始めた。
「そなた達も知っているであろうが人間界には呪いを解く泉がある。その泉の水は竜の血を無効化する効果もあるのだ。あの水を口にしても私がエイトにかけた呪いが解けなかったのはそのためだ。余談ではあるがあの泉の近くに人間界と竜の里を繋ぐ入り口があるのは、我らがあの泉を監視するためだ。」
竜神王はそこで小さくため息をつき、二人が言葉を発する気配が無いことを察して言葉を続ける。
「あの泉に浸りながら真実を映し出す鏡の光を浴びる事が竜の血を捨て去る事の出来る唯一の方法なのだ」
呪われたトロデーンを救うべく旅のときに、利用た泉と鏡がそのような役目も持っていた事にミーティアは驚きを隠せないでいる。
「それでエイトは助かるのですね?」
それでも藁にもすがるような思いでいたミーティアはほっとした表情を浮かべる。
「安心するのはまだ早い。身体に流れる血の半分を捨てることはそう簡単ではない。そこから先はエイトの、いやエイトとミーティア姫、あなたの精神力と言えるかも知れぬ。」
竜神王は釘をさす。
「どういうことなのです?」すかさず尋ねるミーティア。
「今、現在はエイトが自ら竜の血を封じ込めている状況だ。エイト自身が生きたいと願わねばならぬ。精神の中で大量の竜と戦わねばならぬであろう。それらに全て勝ってこそ竜の血を捨てられるのだ。当然ながらそれらに敗れる事となればエイトは永遠にこの世には帰れぬ事となろう。」
竜神王から語られた事実にミーティアは大きな瞳に涙を浮かべながらも、こぼれさせる事は必死に耐えている。
「ミーティアに何か役に立てる事は無いのですか?なぜエイトばかり大変な思いをしなくてはならないのです。」
最後のほうは怒鳴るように言ったミーティアは唇を噛み締めて俯いた。
「そなたにならば、エイトの精神世界へ入り込むことが可能であろう。」
一瞬の沈黙の後の竜神王の言葉にミーティアは素早く反応する。「夢の中で会話したときのようにですか?」
竜神王は無言で頷く。
「もちろんミーティア姫、そなたにも危険が伴う。しかし、そなたがいればエイトが生きたいと強く願う事が出来るだろう。エイトと共に戦ってやってはくれぬか?」
「エイトがいない世で生きる事に比べれば危険など大したものではありません。エイトはいつも危険を顧みずミーティアを助けてくれました。エイトと共に居れるのならば地獄へでも旅立ちます。行かせてください。」
いつものしとやかさは影を潜め、力強い瞳で言い放つミーティアに竜神王は満足そうに頷いた。
真っ暗闇の世界に一筋の光が見える。
「エイト、エイト起きて。」
「・・・・・ミーティア?ここ、どこ?なんでこんな所にいるの?」
朦朧としている意識で、光に向かいエイトはゆっくりと尋ねた。
「心配しないで。大丈夫よ。」
エイトはミーティアの優しく澄んだ声を久しぶりに聞いたような気がした。心休まる場所。自分の帰る場所はここしかない。光がどんどん大きくなり始めた。
「ここはあなたの夢の中。怖い夢を見たらミーティアを呼んでって言ったでしょう。約束どおり来てしまいました。」
エイトにだけ見せる幼さが残る茶目っ気たっぷりな笑顔でミーティアは優しく語る。
「だから、エイトも約束を守ってね。サザンビークに向かう船の上で一緒にトロデーンに帰るって約束したでしょう?」
ミーティアの言葉を聞いているうちに覚醒し始めたエイトは自然と笑顔になっていた。
「うん。約束は守るよ。トロデーンに帰ろう。」
「自分の精神世界ながら、ここまで竜だらけだと呆れるよ。」
言葉は軽いものの、その大量の竜はエイトが母から受け継いだもの。母の顔も知らないエイトが唯一母を実感できるもの。
エイトは竜と戦いながら悲痛な表情を浮かべていた。「母さん、ごめん」と剣を振るうごとに小さく謝っている声がミーティアには届いていた。
「無理しなくていいのよ。ミーティアはエイトと一緒ならどこへでも行くのだから」
一つの戦闘が終わるたびに、ミーティアはエイトの手を握り締めやさしく話しかけた。母との唯一のつながりである竜の血を捨てなくてはならないエイトの心を少しでも慰めるために。
―――母さん、ごめん。本当にごめん。でもオレはミーティアと共に生きて行きたいんだ―――
++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++
なんでもありな話になってきましたね(笑)ま〜ED後の話なんで。。。
と、それよりもこの話、更新速度が非常に遅くてスイマセン(^^ゞ
それにしても主人公の記憶が封じられた事が呪いによる事ならば不思議な泉の水を飲んだときどうして一瞬でも呪いが解けないのか?と不思議です。
それほどまでに強力な呪いなのですかね???
そこら辺の曖昧さから、今回のこの話を思いついたんですけどね(^^ゞ
ところで、グルーノさんと竜神王さまの言葉遣いがわからん!
Photo by.空色地図
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