国民の恐怖の念が渦巻いたサザンビーク城下町をエイトは駆け抜け、城門の前まで走ってきた。
 モンスターが城下町に向かうスピードはかなり速かったらしく、エイトが到着したときには間一髪で城門を破壊しようとしていた。





 おかしい。エイトは思う。
 暗黒神ラプソーンが倒れてからも魔物が絶滅したわけではない。しかし、心持たぬような破壊を繰り返す魔物が出たという報告は皆無といったほうが良かった。
 それにもかかわらず、この魔物は何かに取り付かれたような殺気を感じるのだ。
 しかも、こんなモンスターの姿形は見た事がない。いや正確には実際に見たのは初めてと言うべきだろうか。トロデーン図書館の書物で見た事はある。今は絶滅し古代のモンスターと言う名前で。
 古代のモンスターはそれを呼び出す人間がいてこそ生まれることができる。無気味な笑顔を浮かべていたチャゴスを思い出す。しかし今はそれどころではない。早くこの魔物を倒さねば一般人にも被害が出てしまう。



 古代のモンスターと言うだけあって、身体も大きくその身体に見合わないほどの素早さと力にエイトは苦しめられていた。
 その強さは暗黒神ラプソーン並ではないかと感じる。
 あの時は仲間がいて助け合いながらの戦闘だった。
 しかし今は自分しかいない。
 ミーティアもサザンビークの国民も全て自分が守らねば強い使命感を感じるものの、最強の剣である竜神の剣ですらこの魔物には、少しずつしか体力を奪えないでいる。





 やばい。心の奥底からエイトがそう感じたときに自分の身体の内部から何か血が滾るような力がわいてくるのを感じた。
 エイト自身も何が起きたのか気づいていなかっただろう。
 一瞬エイトの体が光ったかと思うと、その身を黒い竜と化していた。
 その強さは半端ではなく、鋭い爪でモンスターを切り裂き炎を吐いた。
 そしてあっという間にモンスターの息の根を止めた―――







 「なんだあの竜は?」
 謁見の間には新たな魔物出現かと大騒ぎになっていた。
 「あの竜からは殺気を感じませんわ。むしろ暖かい気を感じます。」
 ミーティアがそう言った事により少しばかり混乱は落ち着くものの、あの竜はなぜここにいるのかと新たな疑問は噴出する。
 「トーポ。どうしたの?」
 そういうミーティアの足元には知らぬ間にトーポが帰ってきていた。エイトと共にモンスターのところに行ったはずなのに。
 しかしこのトーポ中身はエイトの祖父である。トーポ一人で帰ってくるということはエイトに何かあったと見るほうが正しい。ミーティアは一瞬めまいを感じる。
 そんなミーティアの気持ちを知ってた知らずかトーポはグルーノの姿に戻り、沈痛な面持ちで口を開き始めた。
 「城門の前にエイトが倒れております。助けてくださいませ」





 サザンビーク城内に運び込まれたエイトは全身傷だらけで、意識も無く痛々しかった。しかしグルーノにはそれらの傷よりももっと不安に感じる事があった。
 ミーティアはベッドの傍らでエイトの手を握り締めたまま、悲痛な表情をしている。
 そんな二人を居た堪れなく感じながら、グルーノはぽつりぽつりと話し始める。

 「あのモンスターはエイトの力を持ってしても倒す事が出来ないくらい強力じゃった」
 ミーティアは黙ってグルーノの言葉に耳を傾けている。そのことを確認しグルーノは続ける。
 「魔物は倒した。しかし、そのためにエイトは己に秘められた力を全て解放してしまったのじゃ」
 「秘められた力?」不安で仕方がないのだろう。そう言うミーティアの声は震えていた。
 「・・・・・ワシはエイトを人間の血の方が強いと思っておった。記憶も封印してあることじゃし、人間として一生を過ごす事が出来るじゃろうと思っておった。だが・・・竜神族の血が目覚めてしまったようじゃ。もう分っていると思うのですが、先ほどの黒竜こそがエイトの秘められた力」
 ゆっくりと言葉を選びながら慎重に話すグルーノ。そのあまりの慎重さにミーティアは益々不安になり、口を開く。
 「ミーティアにとってはエイトの姿形は関係ありません。馬になったミーティアにエイトが変わらず接してくれたように。」
 こらえていた涙をついにぽろぽろと溢れさせながら、意を決したようにミーティアは言葉を続ける。
 「姿形以外になにか問題があるのですか?」





 グルーノが言葉を発するまで、実際は数秒だったであろう。しかしその数秒がミーティアにとっては永遠とも思えるほどの間隔だった。
 「前例がないのじゃ。エイトは半分人間なのじゃ。竜に変身したことでの身体への負担がどうなるのかが分りません。それに今、目覚めないのももしかしたら竜に変身した影響かもしれませぬ。呪いで封じ込められた記憶がどうなっているかも分らんのじゃ」
 説明を受けるミーティアはもちろん説明するグルーノにとっても分らぬ事だらけである。

 互いにどう言葉にしていいかも分らずに沈黙だけが続く。
 だがしばらくの後、先に口を開いたのはグルーノだった。意識の戻らぬエイトと憔悴しきったミーティアを見ていられなかったのだろう。
 「ワシは竜神族の里に戻りなにか良い解決策がないかどうか聞いてまいります。あなたはエイトの傍に・・・」
 そこまでグルーノが語ったとき、張り裂けるような空気を二人は感じた。
 「・・・竜神王さま」



 どこからとも無く現れた竜神王にグルーノとミーティアは驚きで言葉も出ない。しかし、そんな二人を傍目に竜神王は話し出す。
 「長い間、竜神を努めているが、間違いなくエイトを救える手段は私にも分りません。しかし、方法が全くないとも言い切れぬ。かけに近い方法ではあるがな」
 エイトを救う方法があるという竜神王の言葉に、はっと我に返ったミーティアは気がはやるのをどうにか押さえ冷静に問うた。
 「どのような方法なのですが?ミーティアはエイトのためならどんな事でもします。教えてください。ミーティアに何かできることはありますか?」





 「昔、私がエイトにかけた記憶を封印する呪いもいつ解けてもおかしくないと思っておった。私は記憶を封印する呪いと共にエイトの竜の力をも一緒に封印したのだ。エイトの実力が既に竜神王である私を超えてしまっている以上、私が新たな呪いでエイトの竜の力を封印する事はできぬ。だからと言って、エイトをこのままにしておくと人間の血が竜の血をコントロールできずにいずれは我を忘れてしまうであろう。今エイトは自ら意識を封印し、2つの血を制御している状態だ。」
 ミーティアもグルーノも絶句してしまっている。というよりは竜神王の言葉を聞くために全神経を耳に向けているといったほうがいいのかもしれない。
 そんな二人を交互に眺めてから一つため息をついて竜神王は言葉を繋ぎ始めた。





 「エイトを救う方法はたった一つ。竜の血か人間の血どちらか一つを捨てる事。だが、当然ながら血の半分を捨てる事はそう簡単ではない。しかもそれはエイトの父と母の生き様を否定する事にも繋がりかねぬ。」





 ―――長い長い沈黙が続いた―――











++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 蝶難産でした。←蝶って武装錬金かよ(^^ゞ(分る人だけ分ってください)
 ま〜ふざけた冗談はさておき、これ書くの私自身相当苦労しました(苦笑)
 過去最高に苦労の連続でした(笑)
 まず持ってストーリーがコレでいいのかと悩み。。。
 いざコレで行こうと踏み切っても今度は会話文が長くなりすぎて悩み。。。私は基本的に会話中心よりも情景描写に力を入れたいたちなので(^^ゞ
 どうにか会話文を短くしても情景描写文がうまくかけないと悩み。。。いつもうまいとは思ってないけどここまで苦労するのは初めて(^^ゞ

 正直な話、シラフでは自分の思考が追いつかず、相当アルコール入れて書きました(笑)
 作家さんや作詞家さんなんかが麻薬とかに手を出す気持ちが分ってしまった(笑)
 ↑もちろん麻薬なんてやって良いものではないのですが。。。

 とにかく、どうにか見せられる程度までにはなったと思うので、これでアップしました。
 5〜6日くらいに分けて書いてるんですが、全ての日がアルコール入れて書いてるので、誤字脱字もありそうで少々怖いですが。。。
 ↑読み直しも酔っ払いの頭でやっているので間違いが発見できない(爆笑)

 それでも、実を言うと主人公の竜化はいつか書きたいと思っていました。
 いつだったか、掲示板でドラゴラムの話で盛り上がったのですが、そのときからの願望でした。黒竜と言うのもその時に出た話の中での色でした。
 その時から私の中でずっとイメージしていたので今回、書けた事は一応満足です。





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Photo by.空色地図

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