「あれがエイト様か」
 「エルトリオ様にそっくりじゃ」
 「ミーティア姫もさすがお美しい」



 エイトとミーティア一行はサザンビーク城下町についた。
 サザンビーク国民はエルトリオ殿下の子息とトロデーンの至宝を一目見ようと仕事もそこそこ歓迎し、口々に2人を褒め称える。
 「エイト下を向いてはダメよ。」
 気恥ずかしさから俯き加減のエイトをミーティアは微笑ましく思いながらも苦笑いでたしなめた。
 生まれながら王族としてのふるまいを教えられてきたミーティアは堂々としたものでエイトはその気品に舌を巻く。
 ただエイトはそんな気品溢れる笑顔よりもいつも自分に見せてくれるような少女のような笑顔のほうが何倍も好きであった。





 「エイト殿、ミーティア様よくぞお越しくださりました。グラビウス王とチャゴス王子が謁見の間にてお待ちしております」
 前回の旅の間にも何回か訪れたこのサザンビーク城はエイトにとっては父の故郷と言うよりはチャゴス王子に振り回されたという思いのほうが強い。
 それでもグラビウス王から父の事を聞いてみたい気もした。
 案内の者の後につき謁見の間に通された2人に待ち焦がれていたかのように出迎えるグラビウス王の姿が映った。
 しかし、ひとしきりの挨拶を終え会食の席となっても、チャゴス王子はエイトとは一言も言葉を交わさなかった。
 ミーティアには大聖堂であった時のように、慣れぬ褒め言葉と歓迎を口にしているのとは逆にあからさまなまでのエイトへの避け方である。
 エイトが気を遣い「ごきげんうるわしゅう」などと声をかけても完全無視を決め込んでいるようであるが、ちらちらと横目でエイトを監視するかのような目線を送っている所が、なんともチャゴスの頭の悪さを露呈していた。
 チャゴスが「今のうちにちやほやされておけ」などと心のうちで考えていることは、その場の誰もが知らない事だった。





 ―――1週間前―――

 商人から買った怪しげな動物の卵のようなものを持って、チャゴスは王家の山近くの山奥にいた。
 商人の説明によると、その動物の卵のようなものは、はるか昔に絶滅した強力なモンスターの卵だという話であった。
 古のモンスターで主と認めた人物の意のままに動かすことが出来るモンスターだそうだ。
 その主になる条件とは「血」である。
 大量の血をその卵にかけてしばらく水につけ孵化させると、その血を持つものを探しだし、その一生を主のために過ごすという。
 ただ卵に与える血が少なすぎると、主の血の匂いを嗅ぎ分けられずに凶暴化する。
 しかしチャゴスは商人の話を深く理解していなかった。というよりも自分の怪我はかすり傷程度でも大騒ぎなチャゴスにとっては・・・

 「いった〜い」
 チャゴスは手にもつ護身用とは名ばかりの飾りのようなナイフで手の指に傷をつけ、1滴ほど卵にかけた。
 「しかし、これで僕の時代だ。そんな強いモンスターならエイトだって勝てっこない。そして暴れるモンスターを僕が止めれば国民にバカにされる事もなくなる。エイトへの信頼もなくなる。」
 まさに一石二鳥と言わんばかりに「ぐふふ」と無気味な笑いを浮かべ、小川に卵を沈め満足そうにチャゴスはその場を去った。







 「陛下、大変にございます」
 息を切らせ慌てた様子の兵が謁見の間にやってくるなり言う。
 「何ごとじゃ?今は大事な会食の席だぞ」
 そう言いながらもグラビウス王は表情を引き締める。この兵とてこの場が大事な会食の席であることくらい分っている。それにも関わらず入ってくるのだから、相当のことだ。
 謁見の間にいたもの全てに緊張が走った。グラビウス王は「もうせ」と短く一言だけ言い放った。

 「はっ。王家の周辺でかつて見たこともないような巨大なモンスターが発生しサザンビーク城下に向かっている模様です。」
 兵が言い終わるか終わらないかのうちに、エイトはモンスターならではの殺気を感じた。しかもかなりの強敵である事が容易に察しがつくほどの気配である。
 なぜ、と疑問を抱きながらも立てかけておいた竜神の剣をすばやく背負い、皆を振り返った。
 「おぞましいほどの殺気が感じられます。皆様は決して、ここを動かないで下さい。」
 そう言うエイトの顔つきはいつものおだやかな青年の顔ではなく、まるで暗黒神と対峙した時のような厳しいものだった。


 「隊長、私もお供いたします。」
 勇敢にも申し出たのはエイトの近衛兵時代の同期で親友のトムであった。
 表向きは隊長と部下と言う立場でありながらも、エイトにとっては昔から信頼を寄せている親友の言葉だけにに心底嬉しかった。
 しかし、そんな感情はおくびにも出さずにエイトは無言で首を横に振る。連れて行く事は出来ない。
 これほどまでに殺気の強いモンスターとなると実戦経験のほとんどない人間では役に立たない。

 「全て一人で解決しようとするなよ。昔からお前の悪い癖だ。サザンビークの兵や俺でも役に立てる事あるだろう?」
 トムは敬語を止めエイトに真剣な眼差しで詰め寄る。
 困ったように俯くエイトであったが、そこで口を開いたのは意外にもミーティアだった。
 「トムあなたはここに残りなさい。残念ながらトムだけでなくサザンビークの兵の方々も何人付いていこうがエイトにとって気を遣う対象になってしまうだけです。」
 そこで言葉を切り、ため息を一つつきミーティアはエイトのほうに向き直り言葉を続けた。
 「エイト、いつもあなた一人に全てを任せてごめんなさい。」
 その瞳が痛々しく揺れていた事にエイトは気付きいたたまれない気持ちになる。
 トムだけではなく、その場にいた者全てがミーティアと言葉を掛けられたエイトの二人を見つめていた。
 ミーティアが一人で行かせようとしている青年は彼女の愛する恋人なのだから、皆が驚くのも無理はない。
 しかしエイトは一瞬だけ穏やかな表情に戻りミーティアに言葉をかける。
 「ミーティア、ずっと傍で守ってあげられなくてごめんね。・・・行ってくる。」



 そのエイトの言葉を聞いたとたんトムはエイトの気持ちを理解した。
 エイトがどれほどミーティアを傍で守ってあげたいのか。ミーティアの傍を離れたくないのか。それで暗黒神を倒したという実力のあるエイトが行かなければならない理由も。心の中でどれほど泣いているのかも。
 役に立てない自分を恨みながらも、なるべくトムは明るい口調になるように口を開いた。
 「姫様は俺が全力で守るから、心配しないで行って来い。」





 エイトはかすかに頷きながら城の外に出て行った。
 一人にやけた無気味な笑顔であったチャゴスを不思議に感じながら・・・










++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ちと短いですが、次を書くとやたらと長くなるのでとりあえずここで切ります(^^ゞ
 散々お待たせした挙げ句、妙なところで切ってスイマセン!!!

 で、この話はある意味話しの進展がない話になっておりますね。。。すいません(^^ゞ

 チャゴス君ある意味本当のアホキャラと言いますか、悪役と言いますか。。。チャゴスファンの方々には申しわけないです。
 ちなみに「血」で主を決めるというモンスター。モデルは高田裕三先生の3×3EYESという漫画の獣魔ととFFの幻獣です。
 3×3EYESとFFを知っている方には全然違うと思われるかもしれませんが、そこは私が色々考えて発展させたという事ですのでご理解下さい。

 ところで、トムという捏造キャラかなり動かしやすいので気に入ってます。
 主姫の子供の頃の話「出会いから」で作ったキャラを散々引っ張ってますね(笑)
 本当は主人公の親友と言う立場ではククールがもっとも動かしやすいのですが、この場面ではククールを出すわけにいかないんですよ(^^ゞ
 ちなみにあまり捏造キャラを出さずに小説書きたいのですが出す場合は過去ドラクエの名前をいただく事にしますので、ある程度は親しみやすいかと・・・。
 いや。。。ただ私が人物の名前を考えるのが苦手なだけなんですけどね(笑)







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Photo by.空色地図

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