「かしこまらなくても良いぞ。ワシとそなたの仲だ」
 チャゴス王子との結婚を取りやめたミーティアたちがサヴェッラ大聖堂より戻ってしばらく経った頃、エイトはトロデ王の執務室に呼ばれていた。
 トロデ王は帰国後すぐにでもエイトとミーティアと3人で食事でもしたかったのだが、なにせ土壇場で結婚を取りやめたがため諸国や貴族達への対応に追われ目の回るほどの忙しさで、ゆっくりと話をするのが先延ばしになっていた。





 「それにしても大聖堂での事件は驚いたのぉ〜」
 トロデ王は心底楽しそうな笑顔である。
 昔からの国同士の約束というものは、そう簡単に破棄など出来るものではない。
 それでも可愛いミーティアをチャゴスなどに嫁がせるのは嫌で嫌でたまらなかった。
 式が始まろうとしていたときでさえどうにかならないものかと思案していたくらい往生際が悪かったのだ。
 そんなときに現れたエイトは入り口からの太陽を背負っていた事もありトロデ王にはまるで神のように思えたのも無理のないところであった。

 「申し訳ございません」
 トロデ王が本心ではミーティアをチャゴスに嫁がせたくない事くらいエイトにもわかっていた。しかしもう少し良いやり方があったのではないかと思い頭を下げる。
 「ワシが感謝こそすれ、そなたが詫びる事ではないじゃろ」
 世界を救った勇者となっても、近衛隊長になっても、サザンビークの王族と認められても昔から変わらず他人を思いやる事が出来るエイトの事がトロデ王は誇らしかったのだろう。まるで父親のような瞳で見つめながら言葉をかけた。
 トロデ王が本当の意味でエイトの父親になれる日もそう遠くはないであろうが。。。





 「ところでじゃ、式の日取りを決めようと思うのじゃ」
 「はぁ?」
 トロデ王の言葉にいつも冷静なエイトが素っ頓狂な声を出す。
 驚いたエイトとそんなエイトに驚いたトロデ王はしばらく共に無言で呆けていたが先に我に帰ったのはトロデ王のほうだった。
 「呆けた声を出す出ない。そなたとミーティアの結婚式の事じゃ。う〜〜〜む。この前がドタキャンだっただけに残念ながらすぐと言うわけにいかんのぉ〜。招待者の席順も考えねばのぉ〜。」
 今だあっけに取られるエイトに構わずトロデ王は一人ぶつぶつとつぶやきながら思案をしている。

 しばらく経った頃さすがにエイトが口を開く。
 「陛下、お気持ちはありがたいのですが、私などがお相手で宜しいのでしょうか?」
 「そなたはミーティアでは満足できぬと申すのか?」
 ものすごい剣幕でトロデ王がエイトを睨むが、それにひるみながらもエイトは答える。
 「・・・・・逆でございます。姫が私などで良いのかと思いまして」
 「そんなことなら問題ないじゃろうて。ミーティアはそなたと居られればもう何も要らぬと言うだろう。それにサザンビーク王家との約束も一応果たした事になるじゃろ」
 トロデ王は言いながら小さくため息をする。
 自分を初めミーティアもトロデーンの国民もエイトを尊敬し感謝すらしているのだ。
 しかもサザンビーク王家の血を引くものとしてグラビウス王が認めたのだ。
 エイトは優しく優秀な人間で素晴らしい血筋に生まれながら、すぐに自分をおろそかにし卑下するのは悪い癖だと、もう少し自分に自信を持って生きてほしいとトロデ王は思っている。それがエイトの良いところでもあるのは百も承知であったのだが。

 「陛下は以前からご存知だったのですね。」
 エイトは俯きつぶやくように尋ねた。
 主語が抜けていたとは言え、それが自分の生まれについて言っているであろうことはトロデ王にはすぐに分った。
 「ククールの奴が親切にも教えてくれたのじゃ。あやつなりの気遣いじゃろうから恨むではないぞ。」
 エイトはそれを聞いてようやく理解した。ククールならやりかねない。今にして思えば自ら告白しておけばよかった。しかしトロデ王がその事を咎めるでもなく笑顔であった事に救われたような気持ちであった。





 「エイト、お父様2人で何のお話ですか?ミーティアも混ぜていただけませんか?」
 エイトが父王の執務室に呼ばれていると知ったミーティアは公務が終わるとすぐに飛んできたのだろう。軽く息をはずませながら無邪気に話す。
 「エイトに早く会いたい気持ちは分るが廊下を走るでないぞ。そなたたちの結婚式の話をしていたのじゃミーティアは何か希望はあるか?」
 ミーティアを軽く注意することを忘れはしなかったものの、トロデ王の顔はにやけている。
 二人を早く結婚させたいと心から思っているのであろう。本人達を差し置いて一人張り切っているところからそれが伺える。
 「ミーティアはエイトと居られれば何も望みません。しかしエイトはミーティアが傍に居る事を許してくれますか?」
 トロデ王の予想通りに何も望まぬと答えるミーティアにエイトは苦笑いを浮かべながらもそう言ってくれたミーティアが愛しくてたまらなかった。
 「陛下やミーティアが私などで良いと思ってくださる事が何より幸せでございます。それ以上は何も望みません」
 「のろけるのは2人だけのときにやってもらうとして、実はもう一つ重大な話があるのじゃ」





 のろけると証された2人は顔を見合わせ揃って恥ずかしそうに俯いてしまったが、トロデ王の言う重大な話というのが気になった。
 「実はな、サザンビークから先日書簡がきたのじゃ。今、サザンビークではエルトリオ殿の王子を見て見たいとする声が高まっておるそうじゃ。」
 トロデ王は一息ついてエイトとミーティアを交互に目をやる。
 2人とも一瞬で緊張が走っていた。こう言ってはなんだがサザンビークの世継ぎであるチャゴスは城下でもすこぶる評判が悪い。そんな城下でエイトを見たいという話になっているのはチャゴス王子を非難しているようなものであろう。
 いや非難だけならまだいい。そのうち国王にふさわしいのはチャゴスではなくエイトだと言う出す者まで現れるだろう事は簡単に予想できる。
 ミーティアはエイトの名をつぶやき彼の手を無意識のうちに握り締めたが、エイトの顔は不安に固く翳を帯びていた。

 「ワシはな、エイトにはトロデーンにずっといてほしいと思っておるのじゃ。誰がなんと言おうとおぬしはトロデーンにもワシにもミーティアにも必要な人間なのじゃ。」
 トロデ王が続けた言葉にエイトは少しだけ表情を崩し「ありがたきお言葉」と謝辞を表した。
 「しかしじゃ。言いたくないがサザンビークはトロデーンより大国じゃ。そのサザンビークとの関係が壊れるのもサザンビーク内が混乱するのも避けねばならぬ」
 再び言葉を切るトロデ王にエイトは大きく頷き、「おっしゃるとおりでございます」と短く言葉を発した。
 「そこでじゃ。すまぬが一度、2人でサザンビークに行って来てほしいのじゃ。おぬし自らの口でサザンビークの国民に話をしてほしい。」
 戸惑いと驚きが混じったように自分を見つけるエイトの瞳をトロデ王は少々不憫に感じながらもエイトにしか出来ぬ事だと自分の考えを詳しく説明し始める。

 「サザンビーク国民がまだ見ぬそなたに憧れを抱く気持ちは良く分る。誰がなんと言おうとそなたのほうが国王には相応しい。じゃが一部の貴族などはバカなチャゴスのほうが扱いやすいと思ってる者もおろう。国民にとっても貴族にとっても、そなた自らの口で宣言しておけば無駄な争いや混乱は起きぬとワシは思うておるのじゃ。」
 トロデ王の考え方に感嘆しエイトは無言で頷く。それに満足そうな笑顔を浮かべながらトロデ王は付け足す。
 「そしてこれはかなり難しいじゃろうがチャゴスを立てておいてほしいのじゃ。グラビウス王は立派じゃがいずれはチャゴスが国王となる。その時にサザンビークとの仲がこじれていたら厄介極まりない。」





 エイトとミーティアはサザンビークに共に行く決意を固めて頷きあった。
 2人でやればどんな困難なことが待ち受けていようとも何でもできる。そんな気がしていた。








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 「未来へ」の序章と言う感じです。
 婚前旅行(?)させる事にしました(笑)
 とはいいつつ、この後サザンビークでチャゴスが色々やらかしてくれる展開にする予定ですが(^^ゞ
 エイトとミーティアにとっては苦労の連続の旅行と言う事になります。
 すんなり静穏の幸せ満喫カップルにさせてあげれなくてごめんね。エイトくん&ミーティア〜!!!(笑)

 ちなみにこの話はラストをどうしようかとか私の中では全然固まってません(苦笑)
 なのでどれだけ続くかも全然分りません。
 ただ一応はトロデーン国民の前での主姫の結婚式までの話になると思います。
 しばらくお付き合いお願いします。






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