「海辺の教会?本当なのか?」
 パルミドの情報屋の家で聞いた話にククールは嬉々とした声を出す。
 同席したヤンガスはそんなククールの表情に驚く。
 心の奥底で兄を求め兄を追いかけてククールが生きていたことは仲間内では誰もが感じていることではあるが、素直に表情や言葉に出すことは今まで一度だって見たことはなかった。
 大人ぶった口調と軽さを装う行動で常に本心を隠し続けていたククールが、年相応の青年らしい表情を出せるまでになったのは優しい笑顔でそばにいるゼシカのおかげなのだろう。





 ゼシカと共に兄マルチェロを探す旅に出て数ヶ月目にして、初めて手に入れた具体的な情報に喜びを隠し切れないでいるククール。
 世界中を旅してきた二人だったが「パルミドには行きたくない」と言うククールを「情報屋に話を聞こう」とゼシカが強引につれてきたのだ。
 ククールは元々パルミドには「汚い街」と良い印象は持っていなかった。田舎町とはいえお嬢様育ちのゼシカとてその印象はさしたる違いはない。
 ゼシカとて好きでパルミドに来ようと言ったわけではない。
 以前より大分ましになったとは言えククールはめったに本音は語らないが、ククールがここに来たくなかった本当の理由をゼシカは気づいていた。
 マルチェロがこの街で死んだように生きていることを恐れているのである。
 ラプソーンとの最終決戦前にエイトがヤンガスに気を利かせこの街に来たときなど、ククールの目が恐々としながらもマルチェロを探していたことをゼシカは見逃していなかったのだ。
 マルチェロがここにはいなかったことはもちろん、居場所まであっさりわかったことに一番安堵したのはゼシカだったかもしれない。





 「それにしても、こんなくだらない人間の情報よく調べてたな」ククールは喜びの次に驚きを口にする。
 「兄貴とトロデのおっさんでがすよ」ヤンガスは自分の手柄でもないのになぜか大えばりで即答する。
 「兄貴がおっさんにマルチェロのやつを探すための許可をもらい、おっさんの名の下に情報屋に頼んでくれたでがす。アッシらにとってはわがままな魔物のおっさんでげすが、一国の王というのはすごいんでがすな。今度、兄貴やおっさんに会ったら礼を言うでがすよ。」
 満面の笑みで説明するヤンガスに対し、ククールとゼシカの顔には戸惑いと共に一点の影が落ちる。
 いつもは鈍感なヤンガスも二人が何に不安を抱いているかを即座に察し静かに口を開いた。
 「マルチェロの罪は不問に帰す。と言う内々の文書がトロデーン、サザンビークの両国王とニノ法皇の間で確かめ合われたそうでげすよ。」
 それを聞いてククールもゼシカも驚きに声が出ない。
 それもそのはずで、マルチェロは法皇暗殺の疑いがかけられ、そのうえ聖地を崩壊させたのである。実際に聖地を崩壊させたのはラプソーンではあるがその直接的な原因はやはりマルチェロにあると言わざるを得ないのだ。
 人を忍んで生きている分には問題なかろうが、一国の王の名の下に探されてしまえば、罪が不問になることなど考えられないことである。
 いつまでも驚いている二人にヤンガスは苦笑いを浮かべながら説明を始めた。
 「トロデのおっさんとニノ法皇はククールには世話になったってんで礼のつもりだそうでげすよ。マルチェロにも不憫な面もあるでげすし。サザンビークは兄貴が頼み込んで了解をもらったそうでげす。今、マルチェロが何かをたくらんでいたとしても誰も従うものもいないと判断されたでがす。」



 「他人なんか信じるもんじゃねぇと思ってたこともあったが、捨てたもんでもねぇのな。」ククールはポツリとつぶやいた。
 ゼシカなど涙ぐんでさえいる。
 そんな二人を微笑ましい気持ちで眺めていたヤンガスであったが気を取り直して言う。
 「さあ早く行くでガス。この情報屋の話は信用できるものでげすが、いつまでもいるとは限らないでげすよ。」
 「そうね。情報屋さんもヤンガスも本当にありがとう。ククール行こうよ。」
 それまで、黙って話を聞いていたゼシカだったがヤンガスの言葉に喜んでばかりもいられないと悟り、ククールを促した。












 「ククール?どうしたの?そんなところで。お兄さんのこと考えてるの?」
 海辺の教会に向かう途中の船上で、眠れないのか夜空を見つめながらぼんやりとしているククールに気が付きゼシカは声をかけた。
 一瞬の沈黙の後、ククールは小さく笑い口を開く。何時何時もゼシカには敵わないと心の中で思いながら。
 「・・・・・いやなんていうかな。兄貴に会えたら、なんて声かければいいのかと思ってさ。兄貴は俺と会ってくれるのか?とか会いに行っちまったら、また俺が兄貴から大事なもの奪っちまうんじゃないか?とか今更こんな事言うのもなんだけどよ。兄貴が生きてるって分かったら、それで十分なんじゃないか?なんてな・・・」

 「マルチェロさんに会って、絶対にうまくいくとは言えないけど、ククールが今のように中途半端な気持ちでいるのなら会って言いたいことを言ってしまったほうがいいわ。」
 ゴルドでマルチェロと分かれた後もククールは兄を求め続けていた。それでもいざ会えるとなると迷いが出てきているのであろう。ゼシカが何度「ククールは悪くない」と言っても頑としてそれだけは聞き入れなかった。
 「自分がマルチェロの人生を狂わせた」そのことはククールにとって、ずっと心の根底にあったことで、いくらゼシカと言えどもこの考えを変えてやることは出来なかったのだ。
 その呪縛から解いてやることが出来るのは、マルチェロ本人だけであろうとゼシカは思う。
 マルチェロが今、ククールにどんな感情を持っているかは誰も知る由はない。だがククールにとってはマルチェロに会うことが人生の再スタートなのではないか・・・
 たとえそれが、昔と変わらずに忌み嫌われる言葉を投げつけられようとも、ククールが傷つこうと会うことが第一歩だとゼシカはそう思っている。

 「そうだよな・・・今更腰が引けてるなんてかっこわりぃな。」
 乾いた笑いを浮かべながら空を見上げてしまったククールは不安と恐怖で今にも泣きだしそうな顔をしている。
 「おまじない」そう小さくつぶやいてゼシカはククールの頬に触れるだけのキスをした。
 「どんなことがあろうと私にとってはククールはククールよ。大丈夫。女の子口説いて軽薄なあんたは一切変わらないでしょう。」
 ククールの気を紛らわすために最後はなるべく明るくあきれ果てているとばかりに大げさに言ってのけたゼシカ。そんな簡単なことにも自分への愛情を素直に感じ取ったククールは満面の笑顔となって大げさすぎるほど大げさに両手を広げて切り返した。
 「ゼシカちゃん、やきもち?もてる男はつらいぜ」





 マルチェロがククールを許さず、なおもひどいことを言うのであれば、ゼシカは全力でククールを守る覚悟ができている。
 初めて会ったときククールはゼシカに「君だけ守る騎士になる」と言った。第一印象は最悪でその言葉も女を口説く常套手段だと思っていた。実際そうなのであろうが・・・
 しかし、いつもさりげなくククールはゼシカを守ってきた。言葉は軽く軽薄な物言いだったためゼシカ本人守られていると気づくのに時間はかかったものの、常に守られていたのだ。
 亡き兄を思い出して気分がめいってるときには必ずククールが馬鹿みたいな冗談で気を紛らわせてくれた。
 戦闘中とてさりげなくガードしてくれていたのも知っている。ちょっとした傷にもすぐに回復魔法をかけてくれた。
 杖に操られたことを後悔し、精神的に不安定だったときも常に見守ってくれていた。

 そうやって、いつもそばにいてくれたククールにゼシカは自分が何もしてあげれていないと感じていた。
 前回の旅の間、マルチェロに会うたびククールは一人で悩んでいた。ゴルドでマルチェロと対峙する前にたった一度だけ「あいつ死ぬのかな」と弱音を見せたが何も言ってあげられなかった。マルチェロと別れた後、ククールが一人苦しんでいるのに気づいていたと言うのにかける言葉が見つからなかった。
 だから今度は、今度こそは自分がククールを守ると、この旅に出たときからゼシカがひそかに心に決めていたことだ。







 ―――大丈夫。大丈夫よ。ククール。どんなことがあろうと私は絶対あなたのそばを離れないから―――














++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ついに(?)マルチェロ探しのたびに出たククールとゼシカ。
 この話は連続物ですがそんなに長くはならないと思います。長くて5話・・・短いと3話で終わるかも(^^ゞ
 ちなみにククゼシでの話はこの連載で最後になるかな・・・たぶん(^^ゞ
 なので最高(?)の結末に持っていけるように頑張ります♪

 うんでもって、トロデ王とグラビウス王とニノ法皇はいつ話し合ってたかなんて疑問は持ってはいけません!!!
 私自身疑問なんですから(^^ゞま〜文書と言うこともできるし・・・

 それとゼシカはククールに何もしてあげれていないと感じていますが、ククールにとってはゼシカがいてよかったと何度も思っているという設定ではあります。
 ま〜今回の話には盛り込んでませんけどね(^^ゞ
 それはそれで、この連載中に(笑)

 ちなみに「星に願いを」という題名はあまり考えていないです・・・
 星が出てくるかどうかも怪しいです・・・はい。すいません。
 いやなんていうか・・・七夕企画が企画倒れとなりましたので、題名だけでもと・・・連載でやるなよって話なんですけど(^^ゞ






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Photo by.空色地図

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