「エイト。ここにいたのですか」
 静寂が続いていたトロデーンの図書館にミーティアの綺麗な声が響く。
 「姫。なにか御用がおありでしたでしょうか?」難しい顔で真剣に本を読んでいたエイトはそんなミーティアの言葉に顔を上げ、いつものおっとりとした笑顔に戻る。
 「特に用と言うわけではありません。最近は図書館にいる事が多いのでなにか困っているのかと思って」
 トロデーンの図書館の蔵書数はかなりの数に登るのだが、ユニークなトロデーン王国としては意外なほどその蔵書は堅苦しく難しい本が並んでいるため、図書館を訪れる者は滅多にいない。
 そのような場所に近衛隊長であるエイトが時間があれば通っているのである。不思議に思うのはミーティアならずも当然の事であった。

 「いえ。近衛隊長を背任いたしましたし色々な知識を身につけたいと、ここの本を読んでいたのです。どれだけかかるかは分りませんが、ゆくゆくは全ての蔵書を読ませていただきたいと考えております。」
 すごい事をあっさり言うものである。ここの本は難しいゆえ元々知識がある人間が読まねば理解する事は到底不可能なのである。
 しかしエイトならあっさりとやってしまうのだろうとミーティアは思っていた。
 ミーティアにとってもトロデーンにとってもエイトは強く賢く全てに長けた勇者なのだから。。。
 しかし近衛隊長にはミーティアも推薦した。エイトに良かれと思って推薦したのだが、もしかして負担に感じているのではないかとミーティアは不安になる。



 「姫。散歩でもいたしませんか?」
 ミーティアの不安を察したのかエイトは勤めて明るく言葉を発した。
 そんなエイトの言葉に勉強の邪魔になってしまうと帰ろうとしていたミーティアは顔をほころばせる。
 「でもお勉強の邪魔ではないのですか?」嬉しい反面やはり気が引けるのか遠慮気味に尋ねてみたもののエイトと一緒に居たい気持ちには嘘がつけなかった。
 「勉強はいつでも出来ますよ。それよりお忙しい姫が来てくださった事のほうが大事でございます」
 家臣としての態度を崩さぬものの、言葉自体はミーティアには危うく涙がこぼれそうになるほど嬉しかった。

 ミーティアはエイトを心の底から愛している。しかしミーティアの心の望まぬままサザンビークに嫁ぐ事となる。
 いくら望まなかろうと王族に生まれた義務として心の整理はつけたはずだった。しかしエイトの笑顔を見るたびに、エイトの声を聞く度に心がぐらつきそうになる。
 ミーティアは何度エイトに泣きつきそうになった事か。。。助けて、苦しい、嫌だと何度言いかけたことか。。。
 でもそれはエイトの事を考えると絶対に言ってはならない事であった。
 ミーティアは父王が近衛隊長であるエイトの妻となる女性を思案しているのを知っている。
 近衛隊長は国を守る事に関しては全ての権限が与えられているがため、公式行事にも出席する事も多い。その際夫人を伴う事も少なくはない。今はまだ若く就任したばかりと言う事もあり、夫人がいなくても困る事はないだろうが、数年もしたらそうも言っていられなくなるはずだ。
 しかも若く強く賢いエイトにはいくらでも良縁があるだろう。年頃の娘達の中にほのかにエイトに想いを寄せるものは多かった。
 しかし、それらの娘達よりもミーティアは自分のほうがエイトを愛している自信があった。この世で一番エイトの事を愛しているのは自分だと。。。



 「姫?お加減でも?」
 物思いにふけってしまっていたミーティアを心配そうに覗き込むエイトがいる。
 エイトは自分に寄せられる好意には怖ろしいくらい鈍感であるが、逆に他人の気持ち、とくに落ち込んだ気持ちには敏感だった。
 自分のいなくなったトロデーンでエイトの伴侶になるだろう女性を考えて落ち込んでいたミーティアは我に帰る。
 「なんでもありません。お散歩に参りましょうか?」
 誰かも分らぬエイトの伴侶や、今現在素直にエイトへ想いを告げる事が出来る女性への焼きもちに近い感情に終止符を打つために努めて明るくミーティアは答えて見せた。





 「エイト。お願いがあります。我がままなのは承知の上ですが、どうしても頼まれてほしいのです。」
 ミーティアは真剣な眼差しでエイトに懇願する。
 エイトはミーティアがサザンビークに嫁ぎたくないことは当然知っていた。あのチャゴス王子ではかわいそうと言うものである。
 それでも姫が王族の勤めと言うなれば、その意見を尊重しなくてはならない。
 しかしミーティアが一言でも「嫌だ」と自らの口で言ったならば、どのような事をしてでも止める覚悟でいた。
 たとえトロデーンに居られなくなろうと、罰せられようと、命をささげる事になろうとも。
 「姫の頼みならもちろんお聞きします。どのような事でもおっしゃってください。」



 「あのですね。」ミーティアは口ごもる。
 エイトはミーティアの頼みは婚約破棄を手伝ってほしいという事だろうと思っているので、心の葛藤があるのだろうとミーティアが言い出しやすいようにと微笑みながら言葉を待った。
 「実はミーティアはエイトに子供の頃のように名前で呼んでほしいのです。2人だけのときで構わないから。」

 自分の予想と大幅に違ったミーティアのお願いにエイトは驚きとどまった。そんなエイトの様子を否定と捉えたのかミーティアは言い訳をする。
 「あのね。だってその。。。お友達でしょう?普通お友達には敬語とか使わないと思うの。あの。。。その。。。」
 旅の仲間であったゼシカや、トロデーンの娘達にエイトが普通の言葉で話しかけているのが羨ましくて仕方がなかったのである。
 それでも無言であったエイトにミーティアの顔は泣きそうになる。何か怒らせてしまったかと不安だった。

 しかしエイトは全く別の事を考えていた。
 ミーティアは一国の姫として大事に育てられてきた。大人も子供もミーティアに敬語を使わない人間など父であるトロデ王しか居ない。
 そのことがミーティアにとって寂しかったのだろう。
 幼き頃、エイトは恐れ多くもミーティアを呼び捨てにし敬語すら使っていなかった。たった数年の事ではあったのだが。。。
 今のエイトにとっては恐れ多き事でも、ミーティアにとってはそれがたまらなく嬉しかったのであろう。
 そこまで考えてエイトは決意した。



 「わかったよ。ミーティア。ただ2人きりのときだけだからね。大臣にばれたら何言われるかわかんないよ」
 ミーティアは、そのエイトの言葉を聞いたとたん、先ほどから不安で仕方なく堪えていた涙が溢れ出した。
 「ありがとう」
 そう一言言ったきり、よほど嬉しかったのだろう。言葉にならなかった。
 「泣くほどの事でもないのに」と一言笑顔でつぶやいたエイトは、ハンカチをミーティアに差し出した。





 エイトは元々心の中では幼き頃と同じようにミーティアの事を呼び捨てにしていた。
 敬語を使わずに話すことは、普通に考えれば恐れ多き事で躊躇もするのだろうが、エイトにとってはそう難しい事ではない。
 しかし不安が一つだけあった。
 ミーティアを愛して止まない気持ちを、自分の心のうちにキチンと閉じ込めておけるのであろうか。
 10年余り封印してきた言葉遣いを外に出すのと同時に、気持ちまで外に出てくるのではないか。
 それでもミーティアの思い出作りのためには、必死で耐えようとエイトは心に決した。





 ―――ミーティアの結婚式まであと1ヶ月を切った―――







++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ふ〜(^^ゞ更新鈍ってすいません。。。

 さて実は当初の予定ではこの話なかったんですよ(^^ゞ
 でも、次の事考えれば入れておいたほうが良いかな?と判断しました。
 エイト君、姫様と秘密の約束みたいな(笑)
 っていうか、これからの話はかいてる私自身がエイトがミーティアに敬語使ってると限界が訪れるくらい書きにくかったんです〜〜〜(^^ゞ

 ということで、エイト君の普通の言葉です。
 ゲーム中では喋らない主人公ですので、口調とか皆様のイメージとかけ離れていったらごめんなさい。
 敬語だと誰が書いても似たような言葉になるのでしょうが、やはり普通の言葉はイメージあると思うので(^^ゞ

 それと、元々なかったこの話を入れてしまったので最終的には「数ヶ月のとき」6話になる可能性大です。
 書き始めたときは3話か4話って言ったのに、ドンドンのびてスイマセン!!!








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