「私が近衛隊長にでございますか?」
 「うむ。今回のそなたの働きはそれくらいの価値じゃぞ。何を言っておるか。」
 あまりの驚きに素っ頓狂な声を上げるエイトにトロデ王はさも当然と言う口調で答える。
 「しかし、私はまだ若年でございます。今回の件とて、たまたま呪いにかからなかっただけでございます。まして頼りになる仲間がおりましたし私がお受けできるような昇格ではございません。」
 エイトが呪いを受け付けない理由はたまたまなどではない。しかし、竜神族での出来事を語るつもりのないエイトにとってはたまたまと言うしか他ない。
 しかも当然の事をしただけとしか思っていない。それにもかかわらず、他の兵をまとめる能力などは自分には見当たらない。エイトはどうにか辞退しようと必死であった。
 しかしそれに業を煮やしたのは当然トロデ王である。
 「ええい。こざかしい。たまたま年若かっただけで、呪いにかからなかったのは一種の才能じゃ。あの個性派揃いの仲間をまとめあげていたのは、紛れもなくそなたじゃ。おぬしは自分では分っておらんようじゃが、ワシに言わせればそなたほど近衛隊長に相応しい者はおらん。これは命令じゃ。よいな。」
 エイトはあまりの任の重さに気が遠くなりそうな気分であったが、トロデ王の「命令じゃ」と言う言葉に逆らえるわけもない。
 「エイト、ミーティアからもお願いします。旅の間エイトはいつもお父様やミーティアを守ってくれていました。これ以上に近衛隊長にふさわしい理由などミーティアには思いつきません。」
 「トロデーンの呪いが解けたとは言え、復興に向けて大事なときだ。大変な役割だとは思うがエイトは陛下や姫の頼みの綱なのだ。よろしく頼むぞ。」
 小さな頃はエイトを快く思っていなかった大臣まで、頭を下げる始末。辞退出来るような雰囲気ではなく、気付けば引きうける事となっていた。





 「まいったな」
 王の執務室を辞してエイトはポツリとつぶやく。
 近衛隊長とは元来、近衛兵の中より経験、実績と言った兵士としての強さと、性格やリーダーシップと言った人間性を総合的に判断され任命される。
 数いる兵の全ての長であり、トロデーンに限らず、どの国であろうとそれ相応の年齢を重ねたものがなるのが一般的で、まだ二十歳そこそこのエイトにとっては荷が重いと感じるのはいたし方のないところであった。
 しかし周りの人間に言わせれば、エイトは全ての条件を満たしているのであるが、当の本人は生まれ持った温和な性格と言うべきか鈍感と言うべきか、全く気付いていない。

 「何がまいったのですか?」はたと後ろを振り返ればミーティアが含み笑いをしながら立っている。
 「姫。嫌なところを聞かれてしまったようですね。陛下を初め皆様が私を買ってくださる事は大変嬉しく思うのですが、私などで近衛隊長の職が勤まるのかと心配しております。もちろん引き受ける事を了承したわけですしやるからには全力で当たらせていただく覚悟ではございますが」
 エイトは苦笑いを浮かべながらも凛とした口調でミーティアに答える。
 「エイト。確かにあなたは歴代の隊長に比べ若いですわ。でもそれがどうしたと言うのでしょうか?もともと兵法は抜群で皆に好かれていたあなたが、あの旅を通じてますます成長を遂げました。エイトほど近衛隊長にふさわしい方はいません。」

 「あの。。。ところで、エイト。聞いてほしい事があるのです。エイトにとって大変な時期なのは分っているのですが。。。」
 珍しくミーティアが口ごもる。それを見たエイトは敏感に何かを察っして口を開く。
 「先日いらしたサザンビークからの使者のお話ですか?」
 ミーティアはただでさえ大きな瞳をますます見開いて驚いた様子でいたが、エイトにはかないませんね、と小さくつぶやいて頷いた。





 2人にとってはお決まりとなっている中庭に向かう間はどちらも何か居心地が悪いような気がして無言のまま歩いた。
 中庭に付き、いつものように噴水に腰を下ろしてもしばらく無言で、その状態に耐えられなくなったミーティアは意を決したかのように話し始めた。
 「先日いらしたサザンビークからの使者は、エイトも予想は出来ていると思いますが、チャゴス王子との結婚についても語っていきました。」
 ミーティアに言われるまでもなく、エイトとて予想の範囲であった。それでもミーティア本人の口から直接語られる事にはやはりショックは大きかった。
 もちろんサザンビークのチャゴス王子はミーティアにとっては生まれながらの婚約者であるし、今更ショックを受けるような事ではない。
 しかもトロデーンが呪いを受けると言う悲劇さえなければ当の昔にミーティアはサザンビークに嫁いでいたはずである。

 エイトとて、もちろん頭では理解している。しかし、あの旅の最中にチャゴス王子の実態を知ってしまった。
 チャゴス王子に王家の試練につき合わされ、エイト達旅の一行は散々な目にあっていた。あの時はゼシカやククールが怒り狂うのを取り成すのに必死であったが、エイトも当然のように心の奥底では呆れに似た怒りを禁じえなかった。
 温厚であるはずのエイトにすら怒りと言う感情を抱かせたチャゴス。自分勝手でわがままでまるで他人をいたわると言う事を知らない。
 そんなチャゴスに大事な大事なミーティアを渡す。まるで気の遠くなるような話であったことは言うまでもない。

 「それで陛下はそのお話をお受けするご覚悟なのですか?」
 トロデ王とて旅に同行していたわけでチャゴスの実態は分っている。そんなトロデ王なら縁談を破棄する事も考えているかも知れぬと、藁にでもすがる思いでミーティアに尋ねる。
 「・・・・・はい。お父様もミーティアもお話をお受けするするつもりです。」
 小さな声だったとは言え、しっかりした口調でそう答えるミーティアはエイトにとっては昔から知っているお友達ではなく、主君である姫でしかなく感情すら感じられなかった。
 「しかし・・・・・」その後はまるで二の句が告げられないで黙り込んでしまったエイトをミーティアは見かねて微笑む。
 「大丈夫よ。ミーティアは王族に生まれた定めと思っております。今日はそんな事を言いたいわけではなくて、10年以上もの間一緒にいてくれたエイトにお礼を言いたかったのです。エイトのおかげでとっても楽しい日々を送れたから。エイトがいてくれて本当に良かったと思っているの。」



 エイトはいたたまれない気持ちが先行しミーティアの言葉に答える事も出来ずにしばらく無言であったが、思い直したかのように口を開く。
 「ありがたきお言葉でございます。姫がサザンビークに嫁がれる日までこのエイト、全力で姫を守らせていただきます。そして姫がサザンビークに行かれた後も誇れる祖国でありますように全力でトロデーンをお守りいたします。」
 エイトにはそれだけ言うのがやっとで後は言葉にならなかった。涙を堪えるのに必死だったのである。
 そんないつもと様子の違うエイトを見て、ミーティアは自分も泣き出したい気持ちに駆られる。ミーティアとてエイトには王族の定めと入ったものの、好き好んでチャゴス元に行くわけではない。
 できることならずっとトロデーンに、ずっとエイトの傍にいたい。でもそれは夢で許されることではないとミーティアは存分に分っている。
 あの旅の最中に自分はエイトを愛していると気付いた。とてつもなく強く、それなのに自分の事は顧みないでいつも他人を思いやる優しさ。その全てが好きだと悟った。どうせかなわぬ恋ならば気付かなければ良かったと思ったこともあった。
 それでも今はエイトを愛する事が出来た事に後悔はない。その思いは一生自分の口で言う事はないだろうけれど、人を愛する事はとても大切な思い出なのだと思う。

 「今日はそろそろ部屋に戻りたいと思います。」
 何か泣きそうな気分になり、ミーティアはそう提案する。
 「そうですか。話を暗くしてしまい申し訳ありません。しかし王族とて人間でございます。嫌な事も多々あるとおもわれます。私は何もして差し上げることは出来ませんが、愚痴などはお聞きして差し上げる事は出来ます。私などでよろしければいつでもお話かけくださいませ。」





 ―――オレの一番大事な一番最初の友達。オレの大事な大事な愛する人。一番大事なところで守ってあげられなくてごめん―――









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 すいません。1から2までの間更新鈍りましたね。。。
 私の頭の中ではすごく熱い話だったので、文章に直すときに感情込めすぎたともいいます。
 っていうか、自分で書いてて言うのもなんですがエイトもミーティアもかわいそう過ぎます。
 私にとっては本当に幸せになってほしいカップリングなんですもの。

 ところでゲーム中ではほとんど会話と言う会話がないにもかかわらず私の小説の中では「出会いから」の時からほぼパーフェクトに登場する大臣って一体(笑)
 あの王座で呪いにかかっていた、お茶目(?)な大臣が密かに気に入ってたからとも言いますけれど(笑)

 それと、1のときに全3話か4話と言ったのですが、もしかしたら5話になるかもしれませんので一応訂正しておきます。
 次の3話目はククール視点になります。実は(笑)







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