「・・・終わったな。っとオレらしくもなく感慨にふけっちまってる場合じゃねぇ。さっさとずらかるぞ」
 ヴェーネスの力を借りた、敵のリーダーことヴェインを倒した一行は、戦艦バハムートにて喜びをかみ締めていた。
 しかし、このバルフレアのセリフで全員が我に帰る。
 未だ、戦いを続けている両軍に一国もはやく終戦を伝えなければ一般の被害が大きくなるばかりで、それ以上に先ほどのヴェインの力の暴走によりこのバハムートがコントロールを失い始めている。ここにいるのは大変危険だった。





 「ラーサー行くぞ」
 兄を失い、呆けていたラーサーだったがヴァンの一言に気丈にもしっかり頷いた。今、アルケイディア軍の攻撃をやめさせることができるのは自分しかいないのだから。
 「ガブラス、君も行こう。」
 傍らで息も絶え絶えなジャッジマスター・ガブラスにラーサーは声をかけるが、彼は首を横に振った。
 「いいえ。このガブラスの罪は重い。それに、今の私の体では到底戦艦の外まで歩くことも出来ません。ラーサー様ここでお別れです。」
 ラーサーが、後ろではガブラスの兄であるバッシュが息を呑む。それでもどう声を発すればよいかも分からずに。



 「一人で歩けないなら、誰かが手を貸してやればいいんだろ?」
 空気を読めていないのか、そんなことを言ってさっさとガブラスに近づき肩を貸そうとするのはヴァン。
 「・・・あんたさ、こんな鎧着けてて重くないの?肩貸すほうも楽じゃないんだけど。・・・って言うかさ、バッシュも手伝えよ」
 普通にガブラスに話しかけているヴァンの表情はもう前しか見ていない。そんな彼に小さく笑い、ガブラスの反対側の肩を持とうとしているのは意外にもアーシェだった。
 「もう戦争は終わりました。これ以上、一人たりとも死なせたくはありません。行きましょう」

 「・・・殿下。ヴァン・・・」
 驚きを隠せないのは当然バッシュで。それ以上言葉が続かない。
 それもそのはずで、ガブラスは弟は、ヴァンとアーシェのたった一人の大切な肉親の命を奪ったのだ。自分の弟だけを彼らに助けてもらって良いはずがない。
 「あのさぁ、おっかないけどアーシェは一応女の子なんだぜ。バッシュ変わってやれって」
 「おっかないと一応は余計よ。」
 いつものごとく、たった1度の発言で2度もアーシェの地雷を思いっきり踏み抜き、そして思いっきり睨まれ、これまたいつものごとくにへらと笑いその視線から逃れようとするヴァン。この旅の間中、毎日のように繰り広げられていた光景。
 常と変わらぬ二人に、バッシュはとても逞しいものを見たようで、その心に感謝の念を送りながら、意を決したようにアーシェに交代を申し出た。





 シュトラールの簡易ベットに横たえらされたガブラスは、意識ははっきりしているもののやはり傷が深く、そう長く持たないことは一目で分かった。
 それでも、自分にこの弟の最後を看取らせてくれようとしたヴァンとアーシェには感謝しても感謝しつくせない思いをバッシュは抱く。
 「ラーサー様を頼む」とそう繰り返す弟にバッシュは何度も何度も頷いて、それに安心したように表情を緩めるガブラスはもう以前の自分と共に生きていた頃の弟を思い浮かばせる。
 「罪人である私がこんな安らかな気持ちで眠れるとは思わなかった。あの少年のおかげだ。礼を言っておいてくれ。」
 ヴァンは今、初めて一人で・・・バルフレアのいない中、シュトラールを飛ばしている。
 バッシュは思う。彼には礼などと言う言葉では表せないほど感謝している。
 死に行く弟に伝えるべきか悩んだが、それでも全てを、自分と弟を許し、それどころか敵であるはずの弟に安らかな眠りをくれようとした少年のため、ガブラスに弟にあの少年の真実を伝える義務があると思った。



 「ノア。ナルビナで俺に変装して、刺した少年を覚えているか?俺に罪を着せるため即死を免れるように、お前が刺した少年だ」
 「・・・あぁ。覚えている。今となっては本当にすまないことをしたと悔やんでいるよ。バッシュの部下だったのだろう?あの世であったら土下座して詫びを入れさせてもらいたい。」
 突如のバッシュの言葉に疑問を浮かべながらも、心底申し訳なさそうな顔をするガブラスの言葉に嘘はないだろう。
 「うむ。ではレックス・・・あの少年に会えたら伝えてくれ。君が守りたかったたった一人の弟は立派に成長したと・・・。」
 出来ることなら、あの少年の成長をレックスにも見せてやりたかったと心底思いながらバッシュは目を伏せる。
 空を自由に・・・それがヴァンの夢であることは先刻承知であったが、こんな状況下でありながらも、ごく自然に飛空艇を飛ばすことの出来ている彼がとても頼もしい。
 「・・・まさか」
 「あぁ。ヴァンはレックスの弟だ」
 何かに気づいたように驚きの表情を浮かべるガブラスに真実を一言バッシュは告げた。

 「それなのに・・・あの少年は俺を・・・」
 「ヴァンは吹っ切れたのだろうな。そしてああ見えて心優しいのだ。たぶん俺たちに自分達を重ねたのかもしれん。さっき言いたいことは全部言って別れろと釘を刺されたよ。一回り以上、年の離れた若者に説教されるとは思わなかった」
 「少年と王女に礼と侘びを・・・兄さん」
 それが最後の言葉。既に何も見えていなかったと思われるその瞳はゆっくりと閉じられていく。
 体中の痛さも既に感じることもできないようで、数時間後まるで眠っているかのような穏やかな表情であの世へと旅たつのだった。



 ―――ラーサー様とヴァンそして殿下のことは任された。だから安らかにな―――









―――あとがき―――

 エンディング補完その一。です(^^ゞ
 どうしても納得できないのが、バハムートでヴァンとガブラスの会話がないことだったりする。
 ヴァンとアーシェは大灯台で吹っ切れたのかもしれないけれど、それにしたって・・・
 ガブラスがラーサーを守りたい気持ちも、バッシュがたった一人の肉親を憎みきれない気持ちも分かるけど、ガブラスが人の心(?)を取り戻してくれたことにもすっごく感動だったんだけど・・・
 それで終わってしまってはヴァンとアーシェが忍びないような気がした・・・。
 そんな気持ちから生まれたエンディング補完・・・
 だけども・・・そのヴァンとアーシェもたった一人の肉親を失う辛さは、人一倍分かっているだろうから・・・バッシュの気持ちを考えてガブラスを助けてあげたいと思ってくれていたら最高だと思った。

 ちなみにエンディング補完はその三まであります(^^ゞ。ガブラスの話じゃないけど・・・


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