「よぉ。久しぶり」


 そんなやけに能天気な声に、ダルマスカの女王アーシェは眉間にしわをよせる。
 この王宮に仕える者に、自分にそんな口調で物を言う人物はいない。しかも声の聞こえた方向は窓からだ。
 と言うよりは、この少々舌足らずで、雰囲気の読めない発言をする人物など、アーシェの人生の中でたった一人しか知らない。
 「ヴァン、あなた、なにをしてるのかしら?」
 「うん?お前に会いに来たんだけど」
 それはそうだろう。彼にとって、この王宮で知り合いなど自分しかいないのだから。しかし、今、アーシェが聞きたいのは、そこではなく、「なぜ自分に会いにきたのか?」と言う意味だ。
 女王陛下に冷めた目線を送られ、さすがのヴァンもアーシェの言いたい事に気づいたのか、へへっと照れたように笑う。
 「いやさ、この前、お前、街に視察に来ただろ?それみたら、なんか会いたくなった。」
 こともなげに言う少年に、アーシェは頭を抱えてしまいたい気分になる。
 今のアーシェは、あの旅をしていたときとは、違う。
 あの旅で自由を手に入れた。しかし、アーシェという一人の人間としては自由は逆に失われたのだから。市民の声を聞きながらの政治を目指しているとは言え、一市民が女王にホイホイと会えるわけではないのだ。
 「まぁいいわ。とにかく、窓にへばりついてないで、入ってちょうだい。」
 こんなところ、市民達に見られでもしたら一大事だ。そんな思いをこめて、彼を自室に入れるアーシェであった。



 「なにか、変わったことはない?」
 まぬかれざる客を、先ほどは邪険に扱ってはみたものの、ラバナスタの市民の様子を直に聞いてみたいし、なによりあの旅の仲間が今どうしているかが気になるのも事実。会いたいとも思っていた。

 あの戦いの手柄は、世間的にはアーシェとラーサーのものとなってはいるが、事実は空族と空族見習いの活躍があってこそだ。
 それなのに彼らの手柄はうやむやにされ、空族たちは今だ生死も分からず、空族見習いのほうも今だダウンタウンでの生活。
 オンドール侯が、仲間達の手柄をうやむやにしようと画作していると知ったとき、アーシェとラーサーは少なからず反発をした。空族たちの仲間達の活躍があったからこそと・・・
 しかし、そんなアーシェとラーサーを諌めたのはほかならぬヴァンだった。「バルフレアはそんなことは望むはずない。オレ達だって望まない。それに、族の手を借りてたなんて知られないほうが今後のお前達にはよい」
 だから、現在も彼らは決して裕福な生活を送っているわけではない。



 「オレさ、もうすぐ自分の飛空艇を手に入れることできるんだぜ」
 すこし誇らしげにそんなことを言い出したヴァンにアーシェは驚きで目を丸くする。
 「あぁ、別に盗みとかやったわけじゃないぜ。モブ狩りとか頑張ったし、暇があればお宝ハントに出かけてたりした。あとはノノがすっげ〜交渉してくれて、安くて性能のいいの紹介してくれたしな」
 聞きもしないのに、そんな説明をするヴァン。しかしアーシェが驚いたのはそこではない。むしろ資金に関しては今のヴァンの戦力から行ったら、そこそこに稼げてしまうはずだから・・・けれど。

 「シュトラールは?」
 アーシェは無意識につぶやいてしまう。てっきりシュトラールを引き継いで空族になるのだとばかり思っていた。
 「うん?シュトラールはバルフレアのだろ?」
 アーシェの言ってる意味が分からないと、とても不思議そうに首をかしげながらヴァンは質問を質問で返す。
 「だって。彼はもう・・・」
 その先をアーシェは言えなかった。飲み込んだ言葉「彼はもういない。」
 バハムート墜落よりまもなく1年近くになる。彼はもう生きてはいないのではないか。
 生きているならば、シュトラールを返してもらいにくるだろう。彼の唯一の弟子の元に戻ってくるはずだ。
 鈍いだの、ガキだの、雰囲気を読めだの、散々言われ続けたヴァンにもアーシェの飲み込んだ言葉の続きは分かってしまう。
 「バルフレアがあんなところでくたばるわけないじゃん」
 ことさら明るく言い放つ。
 「シュトラールはあいつじゃないと良い音出して飛ばない。シュトラールはいつまでだってバルフレアを待ってるんだ。いつまでだってバルフレアを信じてるんだ。オレ、シュトラールに負けたくないんだ。バルフレアを信じてるのはシュトラールだけじゃない。オレだって、信じてるんだ。」
 だからお前も信じろよ。それは言葉にはならなかったが、瞳で訴えられる。



 「あなたは、本当に強いのね」
 思わずつぶやいたアーシェの言葉に、ヴァンのほうは不思議そうに小首をかしげる。
 それを見た、アーシェは思わずくすりと笑ってしまう。
 彼女にとってはまぶしいほどにたくましい彼は、彼にとっては普通のことだということなのだろうか。
 旅の間中、ムードメーカーの役割をにない、皆にとって、砂漠を照らす太陽のような存在だった彼は、1年経った今もその輝きはとどまることを知らないのかもしれない。

 バルフレアとフラン、あの状況下では無事でいる確率は、かなり低いと言わざるを得ない。だけれども、ヴァンが彼らを信じるならば、自分は彼らを信じるヴァンを信じよう。
 少しばかり、ややこしい信じ方をする自分自身に苦笑いを浮かべてしまうアーシェである。



 「なぁ。俺の飛空艇さ、お前も乗せてやるよ。たまには息抜きも必要だろ?」
 そんなヴァンのまるで子供のような満面の笑みにアーシェは「そうね」と一言頷いた。





 ―――空は自由ばかりじゃないけれど、それでも彼は空に夢を架ける―――。









―――あとがき―――

 FF12エンディング後の1年間。レヴァナント・ウィングまでの間と言うことになります。
 基本はヴァン×アーシェですが、深読みすればアーシェ→バルフレアと読めないこともない(笑)
 その解釈はご自由にです♪
 いや・・・私は基本ヴァンアー派ですが、公式設定は違うようなので(^^ゞ



小説TOPへ






Photo by.空色地図

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送