久しぶりに大きな町に着いた一行はそれぞれ喜びを隠しやしない。
 「腹へって死にそうだ」
 そんなヴァンの端から見れば大げさとも取れるセリフに、「欲しがりません勝つまでは」的考えの王女様や元将軍、そもそも食と言うものにあまり頓着がない空族二人も含めて珍しく全員が頷いた。
 ここ最近、野宿続きで簡易的な食事しか取れていない上、現在は晩ご飯の時間を過ぎている。お腹がすいてしまうのは当然のこと。
 普段は結構、考えることがばらばらで、と言うか数名がわが道を行く考えをするこの旅の一行も、さすがに一致団結して料亭に向かうことと相成った。
 それでも生真面目な上に年長者であるバッシュは貧乏くじよろしく状態で、店が閉まらないうちに明日以降に向けての買出しに街に繰り出すこととなってしまった。

 残った5人は、ふらふらとそれでもまっすぐに食事のにおいがするほうに歩いていく。もっぱら匂いを嗅いで皆を誘導していたのはヴァンである。
 その道中で1枚のビラと出会う。ネオンを浴びた小さな店の前で店員と思われる人間が道行く人に配っているそのビラはあきらかに広告で、とてもじゃないが旅に必要と思えるものではないのがあきらかで。
 バルフレア、フラン、アーシェの3人は元々自分にとって必要のないものは要らないという容赦ない性格に、空腹の不機嫌さも手伝って一瞥しただけで完全無視を決め込んだものの、貧乏性・・・と言うか実際貧乏なヴァンとパンネロは、そのビラをしっかりと受け取った。





 料亭とは名ばかりなこ汚い店にバッシュを除く5人はなだれ込んだ。
 それぞれ食事を注文し、それが来る頃にはバッシュもやってくるだろう。

 暇つぶし、もとい空腹から少しでも気を紛らわそうと、突如ヴァンは先ほどもらったビラをがさがさと広げ始めた。
 「父の日?」
 そんなヴァンの呟きに全員が、息を呑んだり片眉上げたりと、ピクリと反応し、それと同時に緊張が走る。
 今は諸悪の根源と言えなくもない、バルフレアの実の父親を追いかけている途中である。
 当の本人は口では「親子の縁なんて当の昔に切ってる」などと悪態を付いてはいるものの気にしているのはあきらかで、雑談の中でのドクター・シドに結びつくような話は禁句が仲間内での暗黙の了解である。もっともヴァン以外のという注釈は付くのだが。


 「もうすぐ父の日だからそんなビラも配られるんだろうよ。商魂逞しい話だぜ全く」
 しかし、今回はその緊張を破ったのはバルフレア当人だった。
 さすがにここまで気を使われたら、逆に居心地が悪いと心の中で悪態付きながら。しかしバルフレアはそこで気づいた。
 ヴァンは病で両親を亡くし、パンネロは戦災孤児で、アーシェの父親は暗殺されているのだ。まともかどうかは置いておいたとしても父親が生きているのは自分だけだという事実に。
 先の戦争で片棒を担いだのはシドなのだろう。ならばヴァンが親代わりでもあった兄を失ったのも、アーシェが父と夫と国までもを失ったのも、パンネロがが家族を失ったのも半分はシドのせいと言うわけで、そう考えると少しばかり罪悪感も沸く。
 いつも先を見越しているはずの自分が言ってしまってから後悔するなんて、やっぱり今の自分には余裕はないのかとため息が出ると共に、なんだかんだと言ってもまだ10代の3人の心情を思いやった言い方が出来もしなかった自分自身に少しばかり凹む。

 「ところでさ、男のヴィエラっているのか?」
 何があってもどうじないフラン以外は、椅子からずり落ちそうになる感覚を覚える。言ったのは当然ヴァンで、言ってから仲間達の反応によりまた余計なことを言ったのかと思い悩む、しかもしっかり表情に出るからそんなことは全員お見通しで。
 「さあ。どうかしらね」
 常と変わらぬ表情と言葉を平然と吐いた相棒にバルフレアはほっとした。ヴァンは時々、結構長い間コンビを組んでる自分ですら、聞きたくても聞けないようなことをあっさり彼女に問いかける。その度に冷や汗ものなのだ。もっとも相棒がこのくそガキを結構に気に入っていることにも気づいてはいるが。
 とにかく当人は否定するであろうが、かなりの苦労症のバルフレアであった。



 「で、バッシュの奴はどこまで買物に出かけてんだ?」
 頼んだ料理も1品、2品と出始めて、そろそろ食事にありつきたいバルフレアは悪態をつく。話を変えるためでもあったのだが。
 もっとも当のバッシュは、「先にやっていてくれ」と言い残して行っているのであるが、さすがに一人で買物に行かせた上、先に食事をするのは人間としてどうかと思う。

 「そういえばさ、バッシュって父さんみたいだよな」
 話を変える目的で出した人物が見事に、ヴァンのおかげで話を戻させる対象となってしまい、言っている内容にはごもっとだと感じながらバルフレアは一人辟易する。どこまでも苦労症なのだ。
 しかし意外にもヴァンの言葉に同意したのは王女様だった。
 「そういえばそうね。面倒見がいいというか、頭が固いというか」ひどい言われようである。
 「でも私のパパよりかっこいいです。」と笑顔で話すパンネロ。
 うんうんとパンネロの父に大変失礼だというのに気づいてるのか気づいていないのか大きく頷きながら「オレの父さんはバッシュと同じくらいかっこいいぞ」と握りこぶしを作るヴァンに、「私の父はバッシュよりも優しいわ」と眼を細めるアーシェ、「私のパパはかっこいくはないけどいつも褒めてくれるんです〜」と満面の笑顔のパンネロ。
 さながら父親自慢大会だなと思いつつ、俺の親父も昔は優しかったんだ。と「昔は」を強調しながら心の中で呟くバルフレアであった。







 父の日当日、バッシュには色々な贈り物が届いた。
 ヴァンからは肩たたき券、パンネロからはマッサージ券、幼くして父親を亡くした二人にとっては、たぶん自分達の父親が喜んでくれたプレゼントなのだろう。 それを肌で感じながら自分に父性を求め、少しでも寂しくなくなのならばと、いつもの優しい笑顔で受け取るバッシュがいた。
 自分は年寄り扱いかと複雑な気持ちを内面に必死に隠しつつだったことは本人しか知らないことだ。

 そしてアーシェからはなぜか興奮剤。
 たまにはハメをはずして心の底から笑ったり、怒ったりするのもいいのじゃないかしら?なんて意図がこめられていたらしいが言葉なくいつもの憮然とした表情で渡したがために、バッシュは王女の心には気づけず、はてなマークをたくさん飛ばしながらも主君からの贈り物を素直に受け取るのだった。

 バルフレアは相変らずの野宿だったその日、バッシュの変わりに2度の見張りに立った。
 これが父の日のプレゼントなのかどうかは当人しか知らない。









―――あとがき―――

 父の日話。FF12の仲間内おとうちゃんはバッシュだと思う。
 アルケイディアとかギルヴェガンとかのイベント見てると、ヴァン君とパンネロは絶対にお父ちゃん的にバッシュになついてると思った。
 なので、父の日ネタはバッシュ♪

 分かりやすいヴァン君とパンネロのプレゼント。そして非常に分かりにくいアーシェとバルフレア。
 分かりにくいお二人が父親をバッシュに求めているかは別としても、そこそこには感謝しているのでしょう・・・と言うことにして置いてください。
 ちなみに興奮剤は・・・FF7からの拝借です。

 ところで、途中でフラン消えましたね(^^ゞ
 本当は最終的にフランはおかあちゃんだよな〜!って話を入れようと思ったのですが、ごてごてに回ったからやめた経緯がありますです。


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Photo by.空色地図

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