「父親たって、所詮他人だろ」



 神都ブルオミシェイスへ行こうとしているオレたちだったが、ここまでの道中で帝国軍の攻撃によりひどい目にあったやつらを数え切れないほど見た。
 それでも、父親を信じまくっている発言を繰り返すラーサーについにオレは切れた。
 やってらんねぇぜ、まったく。
 この現状を見て、どの面下げて帝国の最高権力者であるラーサーの父親を信じろってんだ。ちくしょう。



 オレの発言であきらかに傷ついた表情を見せるラーサーにオレの怒りは頂点に達する。
 ヴァンやパンネロは必死にラーサーを慰めてるようだが、それすらオレにとっては怒りと不機嫌さを助長するだけ。
 だってそうだろ?あいつらの家族や国は帝国にどれだけひどい目にあわされたことか、いくらあの少年少女がやさしくてオバカさんといえども、よもや忘れたわけじゃあるまい。
 あぁ。むかつく。むかついて仕方がない。



 後ろから、相棒の呆れたような視線を感じる。
 ある程度のオレの素性を知ってる相棒には今のオレの現状というか心理を全て理解してるんだろう。
 だけどなオレだって分かってる。分かってるさ相棒。だからそんな眼でオレを見るな。頼むから。
 このやるせない感情がなんなのかぐらい本当に分かってるんだ。



 ―――八つ当たり―――



 それ以外の何者でもない。
 いくらラーサーが年の割りに大人びているとは言え、10も年の離れた子供相手に八つ当たりとは地に落ちたもんだぜ、全く。
 空を自由に飛びまわる空族バルフレアともあろうものが、地に落ちるなんてシャレにしかならない。
 ・・・いやシャレにすらならない。我が愛機シュトラールは故障中でいつ空へ旅立てるのかすら分かったもんじゃねぇんだから。





 シドルファス・デム・ブナンザ。通称ドクター・シド。あんたは今何してやがるんだ。
 封じ込めたはずの、むしろ自分の心から追い出したはずの、逃げ切ったはずの男が頭に浮かぶ。
 なんで今更。どうして今更。

 けちの付け始めは、破魔石だと知らずにダルマスカのお宝の女神様に手を出そうとしたことか。
 オレを奴から逃げ出せないように、女神様は運命付けていたとでも言うのかよ。
 ここに今、誰もいなかったならば、大声で叫んでただろう。むしろ泣き叫んでいたかもしれない。

 結局、逃げ切れないんだ。
 この6年、ずっとずっとずっと心の奥底ではあいつに怯えてたんだ。今になってそれが表面化して噴出しただけ。
 オレの自由はどこにあるんだよ。空は自由だと思ってたんだ。思おうとしていたのに。
 いつまで、どこまで、オレを縛り付けるんだ。なぁオヤジ。助けてくれよ、逃げさせてくれよ。なぁ頼むよ。





 それでも、オレはこの手であいつを殺せるのか分からない。
 逃げたいのに、自由になりたいのに、あいつをこの手にかける自信もない。
 最速の空族バルフレアは速さも強さも賢さも誰にも負けない。老若男女、種族すら問わず多くの生きとし生きるものの憧れの的なんだ。
 だが、このバルフレアの心に潜むファムランと言う少年は誰よりも弱いらしい。
 バルフレアはやつを殺せと言っているのに、ファムランはまだあいつが正気を取り戻すことを期待している。
 ファムランの心は、バルフレアが否定したラーサーの心と同じなのかもしれない。父親たって所詮他人なのにだ。



 オレの身体に宿る2つの心の争いは、やつと対峙する前に決着が付くのだろうか。



 ファムランはたぶん一生忘れない。暖かい父親の瞳も抱いてもらったときの大きくて広い腕の中の感触も。








―――あとがき―――

 ブルオミシェイスに向かう途中でバルフレアがラーサーに向かって言ったキッツイ言葉。
 正直あれ聞いたときには子供相手なに言うか!?とビビッたんですけど・・・ってかちょっとおいおい!と思った。
 けど、後から考えるとこれってシドへのふせんですよね・・・ゴルモアでのフランのセリフ(あなた意外に顔に出るのよ・・・云々)もでしょうけど。
 つ〜〜〜ことで、ラーサーへの言葉は完璧なやつあたりじゃん!と思う。
 リヴァイアサンでシドの名を聞いたときからずっと心の中で格闘してたんだろうなと・・・

 ちなみに題名は5の曲「4つの心」からちと拝借いたしました(^^ゞ


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Photo by.空色地図

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