「・・・・・バルフレア。たまには酒でも酌み交わさんか」



 リドルアナ大灯台でレダスの決死の突入により最低最悪の事態は免れたものの、レダスの死、バハムートの誕生によりパーティーにとって心身ともに疲れ果てていた。
 アーシェは気丈に振舞っているもののその顔は疲労の色が濃く、フランもミストの影響で体調が芳しくない。ヴァンもことさら明るくいつものごとく馬鹿なことばかり言っているが、遠くを見つめたまに呆けている。道中色々レダスに可愛がってもらっていたようで、彼の死がよほどこたえたのだろうか。
 最終決戦を前に、この状態は良くないと判断したバッシュは、しばし休息することを提案した。
 アーシェとヴァンは早く、戦いを止めたいと初めは彼の提案を振り切るつもりであったが、それを止めバッシュに賛同したのは意外にもバルフレアだった。

 一人で海を見ながらバルフレアは思う。
 今のこの世界の情勢はシドがやらかしたこと。その後始末をするのは自分しかいない。覚悟は出来ている。最悪の―――
 シドの後始末は自分しか出来ないが、シュトラールを飛ばすことが出来るのはもう自分だけじゃない。
 だが、あいつが操縦桿を握るときは精神衛生上よろしくない場面になるだろう。
 現在、精神不安定に陥っているヴァンには心の整理をつける時間が必要だった。ガキはやっかいだ。だからこそ、バッシュの休息の提案を受け入れたのだ。



 「将軍様は戦いが終わるまで酒など飲まないんじゃなかったのか?」
 そんなバルフレアに酒を酌み交わそうと誘ったのは意外にも堅物な将軍様で、さすがの彼も少々驚きを隠せない。
 「結構長い間、共に歩んできたが君とは心を砕いて話をしたことがなかったと思ったのだ。」
 そんなバッシュの答えになっているのかなっていないのか微妙な言葉に、バルフレアは鼻で笑い大げさに呆れてみせた。
 「秘蔵の酒がある。ついてこいよ将軍様」





 「君は死ぬ気か?」
 バッシュはそう口数が多いわけではない。バルフレアもヴァンなどを相手にしているときにはからかうように喋ってはいるものの、自ら口を開くことはそうそうない性分なのだ。
 必然的に2人はほとんど無言で酒を注いでいたが、先に口を開いたのはバッシュのほうだった。
 「ふん。最初から死ぬ気は毛頭ないがな。」
 肯定とも否定とも取れるようなセリフをいつものようにあきれ果てたかのような口調で言い放ち、そしてバッシュに鋭い目線を送り再び口を開く。
 「あんたこそどうなんだ?」

 しばしの沈黙、酒の席とは思えぬほどの緊張が走っている。
 「わからん。・・・・・ノア・・・いやガブラスはバハムートにくるのであろうか」
 バッシュはそれだけ言うとゆっくりと目を閉じた。
 「ノアか・・・それがあんたの弟の本名なのか?あんたは血を分けた弟を殺せるのか?敵だと割り切れんのか?えぇ?」
 バルフレアの表情はあきらかに怒っていて、しかし血と言うもののなせる情にも敏感になっているようだった。
 「君は父君に止めを刺すのをためらったのだったな。私とていざその場に立てばどうなるか分からん。ただでさえ重い荷物を背負っている君に頼むのは忍びないが・・・」
 バッシュはそこで言葉を切り、それでも意を決したように最後の言葉をつむぐ。
 「私の足がすくむような事があったら・・・頼まれてくれないか?」
 「あんたの弟かもしれんが、ヴァンの兄貴やアーシェの父親を殺した奴なんだろ?オレはためらわないぜ。それでも良ければ頼まれてやってもいい。特別に報酬もなしで引き受けてやる。」
 いつもの茶化したような口調で、そういうバルフレアにバッシュは「かまわん」と静かにゆっくりと頷き、かすかに笑った。



 「バルフレア。もしよければ、君の本当の名を君の口から聞きたい。君は本当の名を完全に捨てられたのか?」
 そんなバッシュの言葉にバルフレアの瞳は激しく揺れる。常は22歳とはとても思えぬほど、世の情勢に覚めている感のある彼のこの表情は、今まで見たどの表情よりも不安げで、バッシュが知る限り始めて年相応の青年に見えた。
 それでも、それはそう長くは続くことはなく、しばらくの後、バルフレアは口を開いたのだった。


 「ふっ。アルケイディア帝国の名家、ブナンザ家の三男、ファムラン・デム・ブナンザだ。捨てた気になってただけで捨てられやしねぇよ。」



 「あんたの弟はオレの馬鹿親父やヴェインの命令に従ってただけかも知れねぇ。最後の最後まであんたが信じてやれ。いざとなったらオレがやる。あんたにはあいつにとどめはさせねぇよ。オレにはわかる。だがな・・・」
 言葉を切ったバルフレアはまるで獲物を捕らえたときのような鋭い視線でバッシュを睨みつけ、釘を刺すように再び口を開いた。
 「ヴァンの精神状態を乱すなよ。あいつの手を汚させるつもりは毛頭ないんでな。シュトラールを傷つけられたらかなわん」



 「君は・・・」
 はじかれたように発したバッシュの言葉は途中で途切れる。それ以上は禁句に近いのような気がしたのだ。死ぬ気なのかと。
 「終いまで言うな。将軍」
 なんと続けるべきか悩んでいる風情のバッシュを静かに制したバルフレアの言葉に彼ははだまって頷いた。



 「・・・うまい酒だな。この酒の礼に今度は私が名酒を用意しておこう。」



 それは全員無事に帰ろう。そんな約束のこめられたバッシュの言葉だった。









―――あとがき―――

 暗い話だな・・・自分で書いておいて言うのもなんですが・・・バルフレアとバッシュの二人がメインで明るい話の分けないけどさ(^^ゞ
 しかも一応、結みるくのFF12クリア記念に書いてみた話で・・・

 バルフレアとバッシュにとっては血を分けた肉親の行為によって、ヴァン、アーシェ、パンネロの大事な人を奪っているわけで・・・
 何でもかんでも自分が悪いとすぐに謝ってしまうバッシュはもとより、他人には興味がないという感じだったバルフレアもラスト近辺ではヴァンを弟子(?)と認めて弟分的に可愛がってた(?)わけで・・・
 この二人はバハムート突撃前は最悪のときは命をなげうって、ヴァンやらアーシェやらダルマスカを助けることを頭の片隅に入れてたんだと思った・・・
 それでいて・・・なんだかんだ良いながらも父親やら弟やらへの感情をも切り捨てることの出来なかった二人・・・
 そんな感じから出来た話。


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