「ダガー仕事終わったか?」
執務室でスタイナーとベアトリクスを左右に控えさせ黙々と書類を片付けていたアレクサンドリア女王ガーネットは一瞬で嬉々と満面の笑顔となり窓辺から顔を出した盗賊を出迎えた。
「ジタン殿、城門から出入りしてくださいと何度申し上げれば分かって下さいますか?」
ベアトリクスの困ったような、呆れたような注意にへへっと苦笑いして頭をかいている金髪にしっぽの盗賊ジタン。
ここは城の最上階で普通の人間なら登ろうと考えることすらしない。
盗賊と言う職業である人間の中でも飛びぬけて身の軽いジタンにはどうさもないことであろうが、民の目と言うものもあるし、第一、端で見ていると危険に見えて仕方がない。
「なんかさ、窓からのほうがダガーに会いに来てるって気がするんだよな」
頭をぽりぽりしながらの言い訳であるが、その瞳はうっすらと笑っていて、ベアトリクスの注意を聞く耳は持っていないようである。
もっとも注意をしたほうも形ばかりの注意で、既にあきらめている。民の目と言ってもその民もが彼を認めているのだから。
いつも民のことを考えてくれて、いつもお淑やかで冷静で慎ましい女王様がなりふり構わず愛するこの少年のことを。それほど感動だったのだ。大観衆の前での女王と恋人の再会の熱気は。
「そもそもである。ジタン。ガーネット様のことはきちんとご本名でお呼びしろ」
真剣な表情で説教を始めたスタイナーはベアトリクスと違い彼の自由奔放ぶりを全く諦めていないようだ。
「いいじゃん。今更」
両手を頭の後ろで組んで屈託なく笑うジタン。
彼はその笑顔と優しさでアレクサンドリア一の美姫と詠われる王女様のハートと言う最高のお宝をも盗んだのだ。
「女王様のお立場を考えろ。貴様というやつは」
ジタンのとてつもなく軽い返答にスタイナーは顔を真っ赤にして本格的に説教し始めた。
スタイナーのおっさんの怒った顔って面白いんだよな〜。などとのんびり考えているジタンには全く反省の色はなく、むしろ悪いことをしているわけでもないと思う。
毎日のように行われるやりとりに大切な人が傍にいることをふつふつと実感させてくれる。
それはそれで楽しいのだがジタンと二人きりになりたいというのがガーネットの本音。
助けを求めるかのようにベアトリクスを見上げる。
彼女は先日スタイナーと結婚したばかりなのだが、すでに旦那を尻に敷いているようで隊長殿も妻には一切かなわないのだ。
女将軍は女王様の気持ちをほぼ正確に読み取り静かにそれでいて厳しい声音でピシリと一言放つ。
「スタイナー、あなたもジタン殿のお立場をそろそろ考えなさい」
スタイナーはぎゃあぎゃあ喚いたその体勢のまま思いっきり固まった。
王女と盗賊と言う前代未聞の身分違いを乗り越えた二人の結婚式までもう10日を切っている。
それが終わればこの金髪しっぽの盗賊は女王の夫、陛下となられるのだ。
立場云々の問題となるとスタイナーが呼び捨てにしたり暴言とも思われるような言葉など使えるはずがない。
そんなスタイナーに耐えきれずに吹き出したのは他でもないガーネットそのもので。
今、女王様は幸せいっぱいでジタンといれば箸が転がってもおかしくて仕方がないようだ。
ベアトリクスがスタイナーをまるで首に鎖でも付けてるがごとく彼を引きずり、まだ笑い転げているガーネットと、スタイナーに敬語使われるなんて気持ち悪いと言わんばかりの表情をしているジタンに一礼して部屋を辞した。
「なぁダガー・・・って、呼んじゃ駄目だったんだっけ。今更ガーネットとか言うのも慣れないんだよな」
うんうんと真剣に考え始めた彼をとても可愛らしいと思う時点で女王様の恋の病は重症だ。
そんなガーネットにも悩みはある。
盗賊と言っても彼は悪い奴からしか盗むことはしない義賊であるし、そもそも共にいてとても楽しい。自分が大変だった時に片時も離れずわざとらしくもなくずっとそばにいてくれた。
ようするに彼が盗賊なのは彼女にとってはどうでもよいこと。
もっとも女王の婚約者が盗賊と言うのも世間的に問題があるので今の彼の立場は劇団員と言うことで通している。
ただ彼は盗賊らしく本当に自由奔放で堅苦しい決まりごとなどを嫌う節がある。
彼の自由さが好きだと思う。彼のはちゃめちゃな笑顔を愛しいと思う。
そんな彼を王族としてこの国に閉じ込めてしまってよいのだろうか。
自由も笑顔も奪ってしまうのではなかろうか。
なにより後悔させるのではなかろうかと思うと胸が締め付けられるほど苦しい。
彼とずっと一緒にいたいと思う心は紛れもない事実だが、彼にはもっと相応しい女性がいるのではないかと思うのもこれまた事実。
毎晩のように思い悩んでいるのだが、その結論は出ない。
「どうした?ダガー。なんか悩んでんのか?腹でも痛いのか?」
思いっきり考え込んでいたガーネットに素早く気づいて声をかけるジタンは相変らず勘が鋭くて優しくて、そしてデリカシーがない。
思わず苦笑いを浮かべたガーネットに少しばかり安心したのかジタンのほうもニッと笑う。
「なぁダガー。オレさ、タンタラスやめないから。」
彼の普段どおりの何気ない口調で発せられた言葉に驚いてガーネットはまっすぐに彼を見つめる。
ガーネットは言葉には余りださないものの結構分かりやすいとジタンは思う。今自分を見つめるその瞳はあきらかに「どういう意味?」と問いかけている。
実を言うとジタンはガーネットの悩みも不安もなんとなく理解していた。ガーネットらしいと思うと同時に、心配することなど何もないのにとも思う。
王族だろうが盗賊だろうが自分は何一つ変わることはないのだから。
ダガーはすごく大事だし、すごく好きだけれども、それでもダガーがいれば他は何も要らないと思うほど出来た人間ではない。
劇団員でもあるジタンは「あなたがいれば他には何も要らない」と言うセリフは劇中で何度か口にもしたし、かっこいいセリフだとは思う。
だが、全てを犠牲にしてもらったほうはどう感じるだろうか。
その場ではいいかもしれない。感動すると思う。
劇では大概が、そこでハッピーエンドとなるが、実際はその先の人生があるわけで、何かを犠牲にして手に入れてしまっては必ず歪みが来る。
我慢しなくてはならないことも互いに大なり小なり出てくるだろう。
好きな人のために我慢するのも自分らしくもないし、我慢させているとダガーに思われるのも嫌だ。
だから自分は全てを手に入れる。我慢などしない。彼女にも我慢などさせない。
「オレって欲張りなんだよな」
その言葉にガーネットの頬をふいに雫が伝う。
それを見てオロオロとし始めるジタン。ぐるぐるとガーネットの周りをうろちょろし始める始末。
「あなたって、本当に最後が決まらない人ね。ここはそっと抱きしめる場面じゃないかしら」
まだうっすらと涙のあとが残るダガーは苦笑いで、そんな彼女の頬に触れるだけのキスをしたジタンは少しばかり気恥ずかしくなり後ろ手で頭を掻きはじめた。
その後、数十年にわたりジタン陛下はアレクサンドリアとリンドブルム、そして世界各地を転々としたとかしないとか。
それでも彼の心は唯一つ。
―――オレの帰るところは、今までもこれからも、いつだってダガーのいるところ―――
―――あとがき―――
FF9、6周年記念&七夕企画(笑)
全然七夕ではないけれど、とりあえず祝!!!6周年ヾ(@⌒▽⌒@)ノ
さて設定自体はありがちなED後です。私の中では二人は結婚しますからね♪
その数週間前の話。
ガーネット(ダガー)はジタンが好きで好きで好きで仕方がないんです(笑)
でもゲーム中からそうだったように結構思い悩んでしまう性格で、ジタンと一緒にいられることはすんごく嬉しいのだけど、その反面、自分とジタンが結婚してジタンが幸せなのかどうか悩んじゃうと思う。
自由すぎるほど自由であるジタンから自由を奪ってしまうのが自分なんじゃないかな・・・と。でもジタンはジタンなりの方法で自分の自由も、最高のお宝(ダガー)も一生守り抜いてしまうと思う。劇団はともかく盗賊団としてのタンタラスは辞めないんだよ(笑)
最後に背景で使っている花はライラック。花言葉は「愛の芽生え・青春の喜び・友情」白いライラックにはこれに「美しい契り」が加わり、なんかジタガネっぽいよなと思っています。余談ですが私が住む北海道札幌市の花です。
うんでもってこの背景・・・自作です。撮った写真をちょろちょろ加工しただけですが(^^ゞちなみに撮影場所は我が家の庭(爆)
それではサイトコンテンツ外にもかかわらず、ここまで読んでくださった皆様ありがとうございましたm(_ _)m
需要があるかどうかは分かりませんが・・・一応この小説はフリーとさせていただきます。ちなみにライラック君もフリーです。別バージョンもあります。
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