「ジタン、体調とかは大丈夫なの?」



 年齢だけならば、このメンバーの中では下から数えたほうが早いが、既に暗黙の了解でリーダーの役割をしている少年ジタン。
 常ならば、何があろうと明るく前向きで、冗談などでメンバーを怒らせたりするもののリーダーの才能を持っている少年だ。
 しかし彼の普段の言動は己の心の中にある傷を隠すためでもある。つい数時間前までいたテラと言う世界では、ジタンの傷が前面に出てきてしまっていた。

 孤児であったジタンが探し求めて止まなかった故郷、それがテラ。
 そして、メンバーにとって倒さねばならなかったのもテラ。



 ―――守ってあげたいの・・・ジタンを―――



 他人に心の奥底に入り込まれるの極端に嫌っていたというのに、その心の傷を隠すことすら出来ず一人足掻いている彼にダガーの言った言葉は、何も考えず口から出たものであるがまぎれもない本心である。
 ダガーとエーコの故郷を破壊したもの、ジタンとテラの関係の判明など心身ともに色々とあったテラも崩壊して、今は脱出に使ったテラの飛空艇インビンシブルの中だ。
 一人物思いにふけっているかのようなジタンに気が付きダガーが心配して口にした言葉が冒頭のセリフだ。

 「あぁ、いや大丈夫」
 大丈夫とは言いつつも、やはり疲れてはいたのだろう。ダガーがそばに来ていたことにも全く気が付いていなかったようでジタンは少々驚いた。
 「そう。エーコにパンデモニウムで気を失っていたって聞いたからガーランドに何かされたのかと思ってたの」
 ジタンからの返答に、ほっと一息つき、ダガーは心配していた理由を説明する。
 「あぁ、それは本当に大丈夫。お恥ずかしい所をお見せいたしました」
 わざとらしいほどへりくだった物言いで一礼するジタンはいつもどおりの彼で、劇団員として育った彼の一種の照れ隠しのようなものだろう。
 それでもダガーが本気で心配してくれているのは、ひしひしと伝わり、ジタンも物思いにふけってしまった理由を口に出すことにした。

 「テラとオレの関係は、そりゃまぁ色々思うところはあるけど、正直今は結論は出ない。一朝一夕で出るような答えではないけどオレなりに考えていつかは出そうと思ってる。」
 ここでジタンは一度言葉を切り、微妙に遠くを見るような目つきでダガーを見据えゆっくりと言葉を続けた。
 「・・・ただ、この船はダガーにとっては二人の母と二つの故郷を失わせた。エーコもこの船のせいで寂しい思いをしてきたんだろうな・・・って考えたらさ、なんか・・・」
 テラで開発されたインビンシブルは底面に大きな赤い目のような装置があり、召喚獣たちから正気を失わせる。おそらくガイアの召喚獣を恐れたテラが召喚獣を我が物とするために開発してきたのがこの船なのだろう。
 ジタンはガイアで育ち、自分の意思をしっかりと持っている。それでもテラの守護者であるガーランドに作られたジェノムであることも事実。パンデモニウムで仲間たちに助けられ多少は前向きになったものの、それでもやはりジタンの心からエーコに、そしてダガーに申し訳がないという気持ちは消えることはない。

 「この船は悪くないわ。ましてやジタンが気にすることではないわ。」
 出合った頃は、どこか頼りなげで世間知らずで考えも甘く、それでいて高貴な身分の人間独特のわがままさすら持ち合わせていたダガーだが、こう言い切った彼女からは、その頃の面影は全く感じることすらできはしない。
 驚くジタンを尻目にくすりと小さく笑いダガーは続ける。
 「この船は意思を持っていない。ガイアを滅ぼすように作られただけ、そのように操縦されただけ。ガーランドなりクジャなりには思うところはあるけど、この船には罪はない。エーコも同じ気持ちだと思うわ。だから気にしないで。そもそも、この船がなければテラから脱出できなかったのだから命の恩人よ。」
 ウィンクまでして見せる彼女に、ジタンは冗談半分でテラでも思ったことを再認識する。

 ―――ずぶんとダイタンにおなりになったことで―――

 この言葉自体は彼女には冗談のように言っているが、素敵な女性になったものだと思う。
 もちろん、初めから素敵な女性ではあった。
 けれど当初の彼女の目的は「母を助けたい」その一心だったはず。仲間はもとよりアレクサンドリアの国民の生活の事もあまり気遣っていた様子はなかった。
 それを感じ取っていたからこそ、ジタンはダガーをブルメシアへ同行させなかったのだ。ブルメシアの民の事も自分の命の事も軽く考えている節があったから。
 今なら心の底から言える。彼女は素晴らしい女王になれると。
 作られた存在で、一般人で、ましてや盗賊の自分にとっては多少寂しいのだけれども、それでも今の彼女を応援したいとジタンは思うのである。

 「ねぇ、ジタン。生まれた過程は色々あっても、大事なのは今だと思うの。」
 ジタンはテラでの暴走ともいうべき一人での行動以降、仲間の存在を認めてくれてはいてもところどころよそよそしさはぬぐえない。もっとも本人は普段どおり接していると疑っていないようであるが、ダガーには分かっている。
 だからこそ、ダガーは言おうと思った。彼のよそよそしい原因の一端は「ガイアを破壊しようとしたテラで作られたジェノム」だということに他ならないだろうから。
 「言葉を濁してもしょうがないと思うから言うけど、ジタンもビビも元は作られた存在。でもだからってなんだっていうの?ジタンもビビも私にとっては大事な仲間だわ。だからあなたたちが作られた存在であっても構わないの。むしろ、そういう意味ではあなたたちを作ったガーランドやクジャに感謝してもいいくらいだわ。」
 すこし涙を称えた瞳で、それでもまっすぐにジタンの目を捕らえて言うその姿は、ジタンにとってはまぶしすぎるほどだった。それでも彼はそのまぶしさを目に焼き付けたくて瞬き一つせずに彼女の言葉に聞き入った。
 「あなたのことだから、私がどう言ってもずっと気にしてしまうとは思う。テラのこと、インビンシブルのこと、クジャのこと。でもあなたが思っているほど私もエーコも気にしていないわ。」
 お淑やかで本音をあまり言葉に出すことの出来ない本来の性格の彼女は、ここでさすがに気恥ずかしくなったのか節目がちに後ろを向き、それでも最後にどうしても言葉にしたかったことを続ける。
 「マダイン・サリであなたは言ったわ。泣きたいときは胸を貸してくれるって。ジタンが泣きたいときは・・・胸は貸さないけど、そばにはいてあげる。ううん、そばにいさせてほしい。だから一人で考え込まないで。無理に明るく振舞わないで。」
 エーコの言葉を借りるならば「ジタンはすぐかっこつけたがる」
 心の傷を隠して明るく振舞うのも紛れもないジタンで、そういう面もあって今のジタンがいるのも分かっている。
 それでも泣きたいほどの、叫びたいほどの想いまで飲み込んでほしくはないのだ。ジタンが苦しい思いを吐き出したいときにそばにいたいと思うのだった。



 「ダガー。狩猟祭の前にした約束覚えてるか?オレが優勝したらデートしようってやつ。」
 「えぇ。覚えているわ。」
 「そっか。じゃあさ、この戦いが終わったら、約束果たしてくれよ。」
 目をぱちくりさせて驚くダガーに、少しばかり寂しそうな笑顔を浮べるジタン。
 「・・・ダガーはさ、アレクサンドリアの女王になるだろ。立派な女王になれると思う。けど、そしたら簡単に会えなくなっちまうだろ。まぁなんていうか、記念って言うか最後に想い出って言うことでデートしてくれよ。」
 寂しそうな表情はほんの一瞬で、ぽりぽりと頭をかきながら続けた言葉はいつもの少しばかりおちゃらけた、それでいて本心を隠してしまう俳優のような笑顔で発された。

 「それが最後じゃないと、約束してくれるならデートしてもいいわ。」






 「ガーネット様、まもなくリンドブルムの劇場艇が入航するお時間です。観覧席まで・・・・・」
 そこまで言って、ベアトリクスははっとする。ガーネットは椅子にもたれかかってうたた寝をしていたから。
 アレクサンドリアの復興作業で寝る時間も惜しんで働いていたこともあるのだが、それよりも眠れない日々が続いているのをベアトリクスは知っていた。今はとても気持ちよさそうな寝顔で、できることならこのまま寝かせておいて差し上げたいと思う。
 「・・・あら?ベアトリクス。ごめんなさい。夢を見ていたようです。」
 まだ少し眠そうな顔であったがガーネットはすくっと立ち上がる。
 「ねぇ、ベアトリクス。私は昔、ジタンとデートの約束をしました。まだ約束を果たしていないのですが、ジタンは約束を破るような人ではないと未だに信じているのです。」
 ベアトリクスは絶句する。女王が眠れない日々を送る原因である彼の人。
 彼の人が行方不明になって早数年。おそらく女王は一日たりとも彼を忘れたことなどないのは分かっていたが、女王自ら口に出すことは今までなかった。
 それが今なぜ突然・・・予感でもあるのだろうか。
 ベアトリクスは彼の人、本人からの願いで女王には決して伝えてくれるなと固く口止めされているがリンドブルム大公より伝え聞いていた。「タンタラス団員として女王に会いに行く」と・・・
 女王にお伝えしたくはやる気持ちと、そのときの女王のお姿を想像して、ベアトリクスの頬に涙が伝った。




 ―――会わせてくれ。愛しのダガーに―――








―――あとがき―――

 2010年7月7日!ファイナルファンタジー9 祝!10周年〜(>▽<)
 今年は10周年に加えて、ゲームアーカイブスでFF9配信開始!という超嬉しい話題付!
 アーカイブスは私はPSPでやってるのですが、PS1のゲームでもPSPなら本当に画像が綺麗です!
 PS2&PS3&大型テレビに慣れてしまった目では正直テレビでやるのはキッツイのですが・・・

 そして、アーカイブス版の私の進行状況はまさに今回のSSのところです(^^ゞ
 ディスク4開始したところ!最大の見せ場(?)パンデモニウムのイベントで先日、大泣きしました!FF9は泣ける所がすっごく多いのですが、それでも郡を抜いてボロ泣き場面。
 うんでもって、普段バカ見たいに振舞って自分の心傷を隠しているジタンのショックすぎて心の傷を隠すことすら出来なかったテラでの出来事のあと、なんだかんだ言っても平然とは過ごせなかったはずだと・・・
 やはり支えはダガーであり仲間であってほしいです。

 



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