「誰かを助けるのに理由がいるのかい?」
 助けるのに理由は要らなくても、助けたくない理由はいくらでもあるだろう。ましてや自らの命を危険にさらすのだ。
 ここに来てクジャは盛大なため息をつきたくなった。今までもずっと彼と同じように作られた兄弟であることは認めたくはなかったが、今はまったく別な意味で以前に増して認めたくないかもしれない。
 状況を理解していない大ばか者ジタンのセリフ。
 そう、ここは間もなく崩壊するイーファの樹の内部だ。そう簡単には出られまい。
 ジタンたちに敗れて初めて自分がどれだけの過ちを犯しているかに気が付いたクジャの償いが、ジタンたちの居場所をミコトに教えることだった。
 ガーランドに作られたテラの兄弟達は、やる気になればテレパシーのようなものが使える。最後の気力を振り絞りミコトにテレパシーを送り、そこまでは大成功だったのだ。
 が、クジャは欲を出した。ジタンに一言言いたかった。「逃げろ」と、胸の内には「幸せになれ」と言う想いを込めて、たった一人の弟へ伝えたかったから。
 その一言を伝えたがために、現在ため息をつかなくてはならない状況に陥ってしまったわけなのだけれども。
 そう、その一言のおかげでジタンは兄が生きていることを知った。そしてミコトに連絡を取り仲間を助けてくれたのも他でもないクジャだと一瞬で理解した。



 「さぁ逃げるぞクジャ」
 破壊が始まって、次々と形を変え始めたイーファの樹。ジタンとクジャに襲い掛かるような勢いだ。イーファにとっては彼らは異物なのだから。
 「キミ達を道連れにしようとした僕に生きる資格なんてはないよ。僕は全てに負けた。この世にいらない存在さ」
 自嘲気味につぶやかれたクジャの言葉にジタンはあからさまに顔をしかめる。
 「この世にいらない存在なんてないさ」
 少し怒ったように、諭すように言葉をつむぐ。
 「いくぞ。クジャ。さぁ早く。」
 無鉄砲で後先考えず前向きが信条なジタンもさすがに焦る。イーファの暴走はすでに自分達のすぐ傍まで来ているのだ。のんびりしている暇はない。
 「僕ならイーファの暴走を少しの間、食い止められる。キミはそこを通って帰るんだ。」
 寝転んでいたクジャはだるそうに、本当の本当に最後の力を振りしぼるかのごとく身体を起こし、表情を和らげた。
 その言葉と表情にさすがのジタンも絶句する。だが、すでに死を受け入れてしまったクジャのあまりに綺麗な微笑みはジタンの癇に障った。さっき自分は言ったのだ。この世にいらない存在などないと、そう言ったばかりなのに自らをいらない存在と決め付けている兄に怒りがこみ上げる。
 「じゃあ、オレもここにずっといる。アンタがここを離れないならオレはあんたから離れないことにするぜ。」
 それは意地っ張りで頑固なジタンの子供のようなわがままだが、本気であることもまた真実だ。



 ジタンを助けるには自分がここでイーファの暴走をしばらく食い止めていたほうが明らかに確実だと思うクジャ、誰がなんと言おうと二人で一緒に地上に帰りたいジタン。
 お互い無言のまま、それでも自分の主張は譲らなかった。
 ケンカをしてる場合でも、意地を張ってる場合でも、ましてやわがままを言ってる場合でもない。このままでいたら確実に二人とも死ぬ。
 「・・・わかった。行くよ。」
 やれやれと呆れたように肩をすぼませながらも先に折れたのはクジャだった。いざとなったら自分がジタンを守ればよいと心に中でつぶやきながら・・・
 クジャの心を知らずに表面的な言葉にジタンはぱっと明るい笑顔を向けたその瞬間、イーファの枝が彼らを襲った。
 身の軽いジタンはとっさにクジャをかばうように覆いかぶさるが、バシリと激しい電圧でも流れたかのように弾かれた。



 「ごめんジタン。イーファにとっての異物はキミよりも僕なんだよ。」
 そういったクジャの身体は輝き、その光は自らとジタンを包みまるでバリアのように二人のまわりに膜を張っていく。
 「・・・なんだ?・・・これ」
 呆然とあっけに取られたジタンのつぶやきは、振り返ったクジャの笑顔に固まった。先ほどのクジャの言葉と照らし合わせるとクジャがやはり死ぬ気でいることが窺えたから。
 「クジャ、てめぇ」
 怒りに満ちた、それでいて泣きそうなジタンの怒声。それ以上は言葉も続けられず、ただ唇をかみ締める。
 「テラが滅んだ今、イーファにとってはテラに繋がるものは異物でしかない。キミはテラの生まれでジェノムだとは言え、ガイアで育ち僕よりもはるかにテラに繋がるものはないんだ。」
 涙がこぼれ出るのを必死に抑えているかのようなジタンに、クジャは小さく笑い微笑ましい気分で言葉を繋げる。
 「だから僕が僕としてこの森にいる限り、イーファはキミを襲うことはない。キミが僕の罪を許してくれてもイーファは僕を許さないのさ。」
 「だけど、この世にいらない存在なんてないんだ・・・」
 先ほどと同じセリフを何度も何度も繰り返すジタンは本当にお人よしで、見ていると不憫にすら感じ始めるクジャである。
 ほんの数時間前にはこの弟を殺そうと道連れにしようと画作していたことが嘘のような愛しさを感じる。ただ彼を守りたいだなんて―――

 「大丈夫だよ。僕は死なない。君が僕を必要としてくれる限り僕は死なないから」





 ジタンが気がついたときにはイーファの樹の暴走は既に終焉をむかえていた。
 あれから、何時間たったのか、それとも数日か、数年かはわからない。どちらにせよ自分は生きている。助かったのだ。
 しかし、必死にあちこちに目を移してもクジャを見つけることは出来ずにジタンは焦る。

 「ジタン、気が付いたね。」
 何処からともなく、聞こえる声。ジタンははっと顔を上げるものの、それが聞こえた方向は自分の内側からと気づいて愕然とする。
 命を絶たれたはずのガーランドが自分の心に話しかけてきたときとまったく同じだったから。

 「ねぇジタン。落ち着いて聞いて。僕の身体は消滅した。でもね、魂はキチンと生きているよ。キミが必死に僕を求めてくれたから、僕は魂を残そうと思えたんだ。キミのおかげで僕はキチンと生きているから。安心して。」
 肉体が消滅しているのに「キチンと」生きていると言えるのかどうかはわからない。魂だけのクジャはこれからどうなってしまうのだろう。ジタンは必死に頭を働かせるがその答えは見つからない。
 「魂だけでキミとこうして話しているのはもう限界だ。僕はそろそろ行くよ。」
 ジタンはだんだんクジャの声が小さくなって言うのを感じ焦り始める。魂だけになったクジャがこれからどうするのか。どこに行こうとしているのか。それはイコールもう二度と会えないと言うことなのだろうか。
 「キミが僕を忘れないでいてくれて、僕の罪がいつか許されるときがきたら、僕はキミに会い行くから。だから少しの間お別れだよ。またね・・・」
 「クジャ!」
 クジャの声が聞こえなくなると、ジタンは耐え切れずにその場にくずれ堕ちた。

 「自分の言いたいことばっか言いやがって・・・オレはまだお前に何も言えてないのに・・・またなって、ありがとうって言いたかったのに・・・」



 ―――ねぇジタン。キミには大事なものがたくさんあるよね。僕もキミの大事なものの一つになれてうれしいよ。けど、大事なものにはキチンと優先順位をつけて。キミの大事な大事なお姫様がキミの帰りを待っているから―――








 「なぁダガー。オレ昨日、クジャの夢見たんだ。」
 女王の仕事を手伝うと言う名目の元、彼女の執務室でのんびりしていたジタンがふとつぶやいた。
 「まぁ。楽しそうだったの?」
 ガーネットはジタンが一日たりともクジャを忘れていないことに気づいていた。忘れてなどいないのに、アレクサンドリアの民や自分の複雑な心情を思ってか、クジャの話題をあえて避けていることにも当然気づいていた。だからガーネットも今まで問うことはしなかった。
 あのイーファの暴走で命の危機にさらされた自分達を助けてくれたのはクジャだと言うことをミコトから聞いていた。だから彼が母の敵で、アレクサンドリアを崩壊させた張本人であっても既に恨んでなどいない。
 ジタンが彼を心ひそかに待ち望んでいることももちろん知っているから。最愛の夫のことくらい、全て知っているのだから。むしろ、今、ジタンが彼の話題を自分に話してくれることが一番ガーネットにとって嬉しいことなのだ。
 ガーネットがとても嬉しそうに微笑むのを見てジタンも安心したのかつられたように表情を崩す。

 「『もうすぐまたキミに会いに行くよ』って言ってやがった。昔、約束したんだ。あいつはいつかオレに会いに来るって。」
 そう言ったジタンの顔は、とても穏やかで、それでいてまるで子供のように無邪気で輝いていた。





 ガーネット女王陛下とジタン殿下の間にしっぽの生えた男の子がお生まれになるのはご成婚数年後のこと。
 その皇太子のお名前はジタン殿下の兄上のお名前がご由来だそうな―――









―――あとがき―――

 2007年7月7日!ファイナルファンタジー9 祝!7周年〜(>▽<)
 ということで、年に一度のFF9の更新です♪なんか七夕みたいでしょ(誰も聞いてない)

 FF9のエンディングでクジャが生きているの死んでしまったのかはわかりません。クジャが死んでるという人、生きていると言う人憶測はさまざまでした。
 私の中では肉体は滅び、魂は生きていると言う結論に落ち着いています。元々ジェノムはからだと魂は別の存在なのだし・・・だからと言って何でもかんでも魂だけで生きていると言うのも変な話だとはおもうのだけども(^^ゞ
 最終的な結論としては あ・り・が・ち!と突っ込まれそうなのですが、身近な人間の子供としての生まれ変わりと言うのになってます私の中では(^^ゞ

 イーファの暴走時にジタンとクジャは今までのいきさつをお互いに全て理解し、心許しあえたのではないかと・・・ジタンに許されることがクジャにとって救いだったのかと思った。
 そしてジタンはクジャのことを本当に兄のように慕う心が生まれていたのだと・・・

 



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