「エイト大丈夫?」
 このところのエイトは多忙を極めていた。その忙しさと言うもの主であるトロデ王やミーティア姫以上であったのである。
 近衛隊長としての仕事はもちろん、サザンビーク王家の血を引きし者として、そして世界中でほぼ公認となっているトロデーンの至宝ミーティア姫の婚約者として。
 いたし方がない事とは言えミーティアにとってはエイトがいつか倒れてしまうのではないかと気が気ではなかった。
 そんな心配な気持ちが前面に出てしまったのだろう。
 エイトを気遣うセリフはミーティア本人の予想以上に重たく悲しい響きをかもし出した。



 あの花嫁強奪事件のときに心を通わせたエイトとミーティアであったが、互いの忙しさに久しぶりの2人きりの時間であった。
 それだと言うのにいきなりのミーティアの不安げな言葉にエイトはたじろいでしまった。
 「大丈夫って何が?オレはどこも大丈夫だよ」
 首をかしげながら不思議そうに言うエイトをみてミーティアは軽くため息をつく。
 エイト自身は自らの身体が疲労困憊であった事に気付いていないのであろう。
 いつも他の人に気を遣い自分の事はおろそかにするエイトらしいと言えるところではあるが、エイトが好きで好きで仕方なくてどうしても目がエイトを追ってしまうほどの恋心を抱いている自分の身にもなってほしいとミーティアは思う。

 「エイトは最近忙しすぎます。倒れてしまうのではないかとミーティアは心配です。そんな事になったらミーティアは・・・」
 言いながらエイトが倒れるさまを想像してしまったミーティアは目の縁に涙を浮かべ始める。
 「えっと。あのごめん。そんなに心配してくれてるなんて思ってなかった。オレは体力には自身があるし、これからは気をつける。だから頼むから泣かないで。」
 完全に狼狽しながらエイトはミーティアを慰める。
 ミーティアが泣くほど心配してくれていたとは思わなかった。それほどまでに自分を想っていてくれていたとは思いもよらなかった。
 大好きなミーティアを泣かせてしまった事には自責の念でいっぱいであったが、そんなミーティアの想いが直接に伝わってきた事にはうれしさがふつふつとこみ上げ自然と笑顔になる。

 「なんでこんなときに笑うの?ミーティアは本当に心配しているのに」
 まるで拗ねてしまった子供のように唇を尖らせ抗議するミーティアの頬にエイトは大胆にも軽く口付けをし、そのまま耳元に口を持って行き囁いた。
 「ミーティアがそんなにオレの事想ってくれていて嬉しかったんだ」
 自分でした行動に照れたエイトと、耳元で囁かれたミーティアは共に顔を真っ赤にししばらく無言であった。





 「ミーティアこれ受け取ってほしいんだ」
 少し照れたようにそう言ったエイトの手には大きなゆりが掲げられていた。
 「まあ綺麗なゆり。素敵」事のほか喜んでミーティアは笑顔で受け取る。
 「バレンタインに美味しいケーキ作ってくれたからそのお礼。ミーティアはオレにはその真っ白いゆりみたいな存在なんだ。でもこっちが本命。」
 エイトは笑顔でそう言って綺麗に包装された小さな包みをミーティアに差し出した。
 「ありがとう。開けてみても良いかしら?」





 「綺麗なエメラルドね。嬉しい」
 心底嬉しそうなミーティアを見てエイトはほっとしたと同時に愛おしさがこみ上げてたまらなかった。
 「あのさ、それ付けてみてもらってもいいかな?」
 遠慮気味に尋ねるエイトにミーティアは楽しそうに微笑みながら「つけて」と一言言ってエメラルドのネックレスをエイトに渡す。
 エイトは無言ではあったものの幸せそうな笑顔でネックレスを受け取りそっとミーティアの白くか細い首につけてやった。
 「しばらくはまたお互い忙しいと思うけど、このネックレスをエイトだと思って肌身離さず付けていますね」
 先ほどのお返しと言わんばかりにミーティアはいたずらっ子のような顔をしながらエイトの頬に軽くキスをした。



 「ミーティアは幸せです。エイトが大好きです。」
 嬉しさのあまり感情が高ぶりぽろぽろと涙を流しながらミーティアはなおも続ける。
 「こんなに幸せで罰が当たりそう。エイトに直接好きだと言える日がくるなんて夢にも想ってなかったです。ミーティアは・・・」
 「もういいよ」
 エイトは言葉につまり泣き崩れそうになっているミーティアの肩を抱き寄せ、一言だけ声をかけた。
 エイトの胸に顔を埋め優しい心臓の音を聞きミーティアは静かに泣いた。
 あの旅が終りチャゴス王子との婚約が破談するまでは夜な夜なミーティアは枕を濡らしていた。
 しかし今エイトの胸で流す涙はあのときのような絶望的な涙ではない。これからの自分達の幸せな未来を夢みた心からの嬉し涙だ。
 「夢なら一生覚めないでほしい」涙声でミーティアはつぶやく。
 「夢じゃないよ。夢じゃないと言ってよ、ミーティア。オレだって夢じゃないかと疑いたくなるくらい幸せなんだから」
 すぐ傍にあるミーティアの顔を見つめながらエイトは微笑んでいた。



 「エイトの身体とても温かい。もう少しこのままでいさせて」
 ミーティアは再びエイトの胸に顔を埋めそうつぶやいた。





 そんな2人を遠くから眺めながらトロデ王はつぶやいた。
 「早くエイトに父上と呼んでほしいのぉ〜」









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 主姫は相変わらず(?)ほのぼのカップルです。
 ほっぺたにキスするだけでもお互いに照れてしまってます(笑)
 これでは唇同士のキスするとどうなってしまうのか(笑)
 ま〜あれです、私の中の主姫は現在では小学生でももっと進んでるぞ!って突込みが入りそうなくらいの初なカップルです(^^ゞ
 自分で書いてて言うのもなんですが「夢じゃないよ。夢じゃないと言ってよ、ミーティア」と言うエイトのセリフが自分ではお気に入り(笑)

 それにしても毎度毎度トロデ王を出す必要がないような気もします(^^ゞ
 でも既に私の中では恒例となりつつある(笑)

 

 





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