ズズッ・・・薄暗い部屋の片隅から小さく鼻をすする音が聞こえる。
 この部屋には先ほど戦闘から帰ったばかりの悪魔界一の絶世の美女が人目をはばかるように飛び込んでいた。
 ズズッ・・・小さく丸くなり必死に泣くのをこらえながら、それでもこらえられずに何度も聞こえる鼻をすする音。



 「バンプ。貴様はなぜ泣くのだ。」



 人目をはばかり隠れてきたはずなのに、古き付き合いであるバンパイアフッドにはしっかり感づかれていたようだ。
 バンプと呼ばれた女悪魔はビクリと身体を震わせ、言い訳を考えるように頭をめぐらせる。
 「大方の予想は付くがな。パンゲアクターどもにでも出会ったか」
 それに対する答えはバンプピーターの口からは発せられることはなかったがビクリと肩を震わせたありように、声をかけたほうは思いっきりため息と皮肉をこめて言い放つ。
 その態度と沈黙は肯定を表していることは間違いがない。
 「われらの敵はスサノオロ士とパンゲアクターだ。わかっているだろう」
 呆れたようなそれでいて少しばかりイライラしたような、鋭い言葉にバンプも少しばかり癇に障ったようで、思いっきり振り返りバンパイアをにらむ。
 「当たり前だ。わかってるよ、そんなこと。」



 バンパイアフッドもバンプピーターもついこの間までは天使であった。
 スサノオロ士とパンゲアクターの味方、否、彼らもパンゲアクターの一員だった。
 しかし、ハムラビシーゲルの魔洗礼により現在は悪魔で、操れるのは理力ではなく魔力となっている。破壊すること天使が泣き喚く姿に喜びを感じ始めている。
 だが、自我を忘れたわけではなく、パンゲアクターであった時のことはしっかりと記憶に残っている。それ以前のことも―――
 悪魔といえども仲間意識は当然あり、それが現在の味方だけにとどまらず昔の仲間にも向けられてしまっている。それが今のバンプピーターの心の中だ。
 それは当然、バンプだけではなくバンパイアも持ち合わせる心で、だからこそ泣いているバンプが許せなかった。
 己の意思で、昔の仲間を裏切り、パンゲアクターを抜けてきた手前、昔の仲間を思い起こすことは許されるわけもない。

 「我らはデューク様にしたがっていればよい。デューク様とともにハムラビ様をお守りするのが今のわれらの最大の使命だ。」
 昔からバンパイアをいつもこうだった。今となってはどれほど前のことかは分からないが、出会った頃、若神子と呼ばれていた頃からいつもそうだったのだ。
 自らの信じる道を決めたらてこでも信念を変えない。強い意志の元の行動と言動は本当に何も変わらなかった。
 変わったのは己らが天使ではないこと、己らには希望もわくわくする気持ちもなくなってしまったということだけだ。
 変わったようで全く変わらない昔なじみのそんな態度にバンプは少し可笑しくなったのかくすりと微笑を浮かべる。
 バンパイアの言うとおり、泣いてる場合でもない。昔からの仲間達であるパンゲアクター達には我ら二人がここに来た理由は分かっているはずだから。
 自分達の昔からの仲間で唯一、パンゲアクターにならなかった者がいる。
 7人全員揃うことは既に叶わぬ夢ならば、1対6は避けねばならない。もう二度と彼を一人にさせないとみんなで誓ったのだから。

 「パンゲアクターどもには全力で当たるよ」
 まだ少し悲しいけれど、バンプは心を決めてバンパイアにそう宣言した。
 「ぜひ、そうしてほしいものだな」
 彼女の心情の変化を微妙に感じ取ったのか、先ほどまでより表情を緩め、口先だけで笑うバンパイアフッドだった。





 「天使どもが攻めてきたぞ。皆のもの、迎え撃て。」
 冷静ながらも冷たく言い放っているその声の主は、バンパイアとバンパイアの直接の上司である魔界君主のものだ。
 「何をやっている。バンパイア、バンプ。天使どもが攻めてきている。お前達も戦闘に加わらんか」
 とても冷酷な瞳をした魔界君主は、まだ戦闘態勢を整えていないバンパイアとバンプを見つけるなり指示を出した。

 「あやつらはまだパンゲアクターだった頃の情が残っているようだな。」
 慌てて戦闘に向かう二人を見送るデュークに後ろから声がかかる。
 バンパイアとバンプは気づいていなかったようだが、デュークは後ろの気配を気づいていた、その気配が誰なのかも。
 「ええ。困ったものです。ハムラビさま。あのような天使に未練の残るものは我が軍には必要ございません。危険要素なのではございませんか?」
 振り向きもせずに、彼らを連れてきたハムラビに少しばかり非難の声も含めて問いかける。
 「たしかに天使に未練はあるようだが、あやつらは我が軍を裏切りはしないだろう。」
 くくくっといかにも楽しそうに含み笑いを浮かべながら答えたハムラビに、デュークはため息をつく。
 「あなた様の考えることはよく分かりません。我らに障害を起こしそうなあやつらはさっさと始末したほうが良い。それでは私も戦闘に出向きますのでこの辺で」
 悪魔界一の魔力を操る魔界君主にとっては、守るべき立場にあるハムラビにすら容赦ない言葉を浴びせ、結局一度も振り向くことすらなく大股で城を後にする。



 「始末などしないさ。あやつらは根っこは天使。始末した途端に理力を取り戻す。なんだかんだと言いつつデューク、貴様にもまだ聖心が残っているようだな」
 残されたハムラビは闇の中、一人高笑いだ。
 天使どもの仲間割れこそ、悪魔が一番好むもの。冷酷非情の王であるハムラビにとって、この状況は楽しくて仕方がない。
 聖心は残っていても、バンプやバンパイアと違って、デュークは既に完全な悪魔だから。
 ハムラビ自身がデュークに己と切っても切れない鎖をデュークの腕にはめているようなもの。
 そして、デュークと言う鎖でバンプとバンパイアを繋ぐ。




 ―――バンパイアとバンプはデュークがハムラビの元にいる限り裏切ることはないのだから―――










―――あとがき―――

 暗いねぇ。暗いねぇ(^^ゞ
 せっかく、ハピラキで明るい未来を示してくれてるのに、その反動もあるのか暗い話が書きたくなる。
 ↑あまのじゃく






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