「かんぱ〜〜〜〜い」
 聖O男ジャック命名、猪突猛進ぼけぼけコンビこと聖Vヤマトと聖Iアリババは今にもはちきれんばかりの笑顔でそして大声で叫ぶ。
 ヤマトはグラスの中身がこぼれんばかりの勢いでスキップを踏んでいるし、アリババのほうはぴょんぴょんと飛び跳ねて既にグラスの中身は注いだときの半分ほどしか入っていないような有様だった。
 これが常ならば、男ジャックに怒られ、フッドに諭され、牛若は静かに後始末な所である。神帝隊の常識担当係の3人は猪突猛進ぼけぼけコンビに出会ってから向こうハラハラドキドキの毎日で、ボヤキや愚痴を言い合うのが癖のようになっていたのだから。
 しかし今は違う。今は常識など要らない。



 ふと見れば、今度はなぜか抱き合ってるんるんと踊っているヤマトとアリババ。
 どこから釣ってきたのか、鯛を刺身に下ろしている聖B一本釣。
 これまたどこで手に入れてきたのか色々なフルーツで虹の7色でカクテルを作っている聖Rピーター。



 出会った頃からケンカは日常茶飯事。性格も特技もてんでばらばらな7人である。今現在もやっていることは我が道を行っている一本釣とピーターを初めかなりまとまりがない。

 それでも溢れんばかりの喜びと感慨深さは全員共通のものであった。









 既に孤島となっていた悪魔群のリーダー、スーパーデビルを神帝隊が捕らえたのは今朝のこと。
 それからなし崩しのように事態は急変した。
 天聖軍の若きリーダーであるラファエロココと、そのロココと神帝隊の説得により和平に目覚めパワーアップしていた天魔軍の新しきリーダーのシヴァマリアによりめでたく聖魔和合を成し遂げた。
 長い間、平和を夢見ていた天聖軍はもとより、天魔軍からも歓喜の雄たけびあがるまではそう時間はかからなかった。
 天使やお守りにとっては自ら攻撃を仕掛けてきていたと思われていた悪魔達も本当は争いのない世界を夢見ていたということなのだろう。
 和合を発表するまでの数刻の間、多くの悪魔達が自分に従ってくれるのかと不安を口にしていたマリアは、そんな悪魔達の姿に人目もはばからず涙した。
 神帝たちやロココにとって、マリアの涙は初めてのこと。大分長い付き合いであったというのにだ。
 そんな彼女の手をただ黙って握っていたロココに神帝隊は揃いも揃ってやっぱり自分達の主とその主が選んだ女性は最高だと心の中で思っていたのだった。

 「後はアッツアッツなお二人でどうぞ〜♪」などと声をかけ立ち去ろうとした7人にマリアは溢れる涙はそのままで自ら近寄りアリババの冷たい左腕に触れる。
 彼の左腕と左足はこの次界へ来るまでの間の戦闘での傷が元で腐った所を切り落とされレーザー王により聖ボット化されていた。
 そこは神経は繋いでいるそうで感覚はあるものの、体温は感じないところ。
 その原因を作ったのは今、大事な壊れ物のでも扱っているのかと思うほど、優しく触れている彼女その人で―――

 「どんなに謝ろうと、返せるものでも償えるわけでもないが、私はこれから一生をかけてお前を護って行く事を誓わせてほしい」
 先ほどの歓喜の笑顔はどこへやらで、沈痛な面持ちでそれでもまっすぐに自分を見据える強いまなざしにアリババはクスリと小さく笑った。
 「別にいいよ。あんたはロココ様と一緒に平和を勝ち取ってくれた。これから先も次界の平和のために尽力してくれるんだろ。それで十分お釣りが来るから、あんたが気に止むことじゃないよマリア様」
 そんなアリババの言葉に驚きを隠せず、言葉をなくした彼女は不安げなまなざしでロココと神帝隊を順に見回した。
 しばらく皆の沈黙の後、くすりと笑って最初に言葉を発したのは神帝隊リーダーのヤマトだった。
 「シヴァマリア様、これからはロココ様と共に我ら神帝隊の主君となっていただけますでしょうか?」
 相談などしていない。それでも全員が思っていた。聖魔和合が成し遂げられた暁にはマリアを神帝隊のそして天使達の主君となっていただこうと。神帝隊は全員で彼女に一礼する。
 ロココは感激で相変らず言葉は出てこない彼女をその胸に抱きしめ、おとなしくされるがままにさせているマリアの態度は神帝隊の申し入れに対しての肯定でもあった。



 ロココとマリアの二人はすでにたぶん恋人同士。今日と言う日を恋人同士2人きりで過ごして欲しいと細かいことは抜きにして主君の部屋を去ってきた神帝隊だが、彼らはなぜかそれぞれの恋人たちと過ごしたいとは思わなかった。
 もちろん彼女達はそれぞれにとって大事な人なのであるが、今はそれ以上に苦楽を共にした仲間といたい。
 ヤマトの彼女であるストライク天使も、フッドの彼女であるレスQも、一本釣の彼女であるオアシスも、男ジャックの彼女であるメリー天使も、それぞれの恋人の気持ちを正確に察して彼女らは彼女らで宴会を始めたようだった。神帝隊の話を酒のつまみにして―――





 戦闘能力は誰にも劣らぬ神帝隊も、その実それぞれ結構抜けている所がある。
 ロココとマリアも、ゼウスやカーンも、神帝隊の恋人達も、既に始めている宴会なのだが、実は神帝隊7人の宴会はまだ正式には始まっていない。

 一本釣は実は釣りに行って帰ってきたのは3時間後だったし、ピーターは全員分のカクテルを作るのにこ一時間を要しているし、男ジャック、フッド、牛若の3人にいたっては料理を作り出して既に3時間を越えた。
 味覚音痴のヤマトと食事と言ったらカレーしか作れないアリババは全員に邪魔者扱いされ、フライングで乾杯の音頭をとっているだけ。しかもまだアルコールは飲ませてもらえていないのでグラスの中身はただの水と言う始末。





 正式に神帝隊が乾杯をしたのは実にさらに数時間後、既に真夜中と呼んでも過言ではない頃のことであった。



 「きゃはははは」
 一人真っ赤な顔で、大笑いしているアリババ。実は相当の笑い上戸だったらしい。何がそんなにツボにはまったのかすらわからない。
 そんな酔っ払いのアリババにこんこんと説教をしているのは男ジャックで、そんな彼も正気のようでいてその実は目が完全に座ってしまっている。そもそも酔っ払いに説教した所で聞いているはずがないことを分かっていない当たり男ジャックも相当の酔っ払いで。

 その向こう側では聞きなれた牛若の笛の音。それ自体は普段どおりなのだが傍らではなぜか一本釣が腹踊りである。
 しかし驚くべきは、そんな一本釣に合いの手を打っているピーターで。常の彼ならば「下品だ」と一蹴して背を向けそうな所である。
 そして一番の問題はフッドだ。普段は冷静で寡黙な彼が何を思ったのか泣きながら切々と今までの苦労を語っている。泣き上戸だったらしい。






 「ヤマト、仕切りなおしに呑み直しましょうか」
 呑みすぎて潰れてしまったほかの5人に面倒見がいい牛若は毛布をかけてやりながら、ほとんど酔っていないかのようなヤマトに声をかけた。
 「そうだね。なんかみんなずいぶんと人が変わったみたいで疲れたよ」
 彼に答えるヤマトは呆れたような口ぶりではあるものの、その瞳は優しく笑っている。
 ただ単に笑い上戸なだけなのであろうが、2度の戦線離脱による後悔や自責の念から戻ってきてからと言うもの表面上の笑顔しか見せてくれなかったアリババの心からの笑顔が嬉しいと思う。
 一番迷惑をかけたのが自分だとなんとなく気づいていながらも、フッドの泣いた所など見たのは初めてで、それはそれですごく感動したヤマトであった。

 もうずいぶん長いこと同じ道を歩いてきたけれど、宴会は初めてで・・・むしろ酒は水代わりな聖動源出身のヤマトと寺や神社が数多く事あるごとに祝い酒が配られる聖霊源出身の牛若以外の5人にとってはお酒を飲むという行為自体がたぶん初めてなのだろうと予測される。
 それでもいくら酔いつぶれた所で、今は寝首をかかれる心配もない。
 「みんながお酒を飲んでいるところを見るのも初めてですが、安心しきって熟睡している顔を見るのも初めてですね」
 同じことを考えていたらしい牛若のそんな言葉にヤマトは笑顔で頷いた。

 今夜の記憶は朝には半分以上ないだろうと思われる5人をどんなふうにからかってやろうか、そんないじわるな会話をしながらヤマトと牛若の宴会は明け方まで続くのであった。





 宴会の記憶はなくしても、聖魔和合の瞬間の心踊る喜びは生涯色あせることなく心に刻まれた―――








―――あとがき―――

 10万HITありがとう企画です(笑)
 とことん明るく朗らかに!!!を目指したんですけど・・・目指したんですけど何気に中途半端で申し訳なく・・・(T_T)
 しかも当サイト初めて公式設定を思いっきり逸脱させて・・・聖魔和合後に神帝隊が生きてる話です。
 私的には新ビックリマンも好きなんで、公式設定逸脱はうちのサイトではあまりやる気はないのですが・・・
 アニメ設定での神帝隊が川に流されるのはさすがに嫌でいやで仕方がないですが、シール設定での「虹の昇華と共に消える」は今は受け入れています。(当時はこれも嫌でしたげ)
 パンゲ後に7人揃って幸せでいてくれるならば、聖魔和合時に神帝隊がいなくなるのは受け入れざるを得ないといった所です(^^ゞ

 それでも次界を目指して一番苦労してきた彼らにその時代で幸せになってほしいという思いも本当。だからたまにはこういうのもありだと思った。
 そしてこの話のプロットを初めて立てたのは実は10数年前です。
 私自身が当時未成年であったがためにお酒の話は避けてた・・・私が二十歳になったら書こうと思ってたんですけど、二十歳になる前に同人活動をやめざる得ない状況に追い込まれ、結局お蔵入りしていた話。
 ただね・・・これプロットの段階では漫画だったんですよ・・・それを無理やり小説に直したんで少々尻つぼみと言うか←言い分け

 それはともかく!当サイトに足を運んでくださった皆さま本当にありがとうございましたm(_ _)m
 で・・・一応この小説はビックリマンでは初!のフリー小説とさせていただきます。もし万一にも気に入っていただける方がいればご自由にお持ちください。


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