「アリババ下がって!」
 悪魔軍の波状攻撃に苦戦中の天使軍の中、理力が付きかけているアリババ神帝に向かいヤマト爆神が叫ぶ。
 ヘッド化した他の6人に対しアリババは依然として神帝姿なまま。
 しかも天聖界で身体の一部を聖ボット化する手術を受けてから復活直後であったがためにまだ完全に理力が回復していないのだ。
 一般天使に比べると格段に強い。それでも最前線で悪魔軍の攻撃を受けている神帝隊の中で最後まで共に戦うのは無理であった。
 リーダーであるヤマトの叫びに他の5神帝もそろそろアリババを下がらせようとする。
 もっとも頑固で意地っ張りなアリババを下がらせることは他の神帝にとっては悪魔軍を倒すこと以上に至極大変なことなのであった。



 今日はどうやって負けず嫌いなアリババを下がらせようかと思案しながらアリババを視界の端に捕らえ続けていたヤマトはアリババに背後から襲い掛かる悪魔の姿を目にした。
 「アリババ後ろ!」
 間一髪で急所は外れたようであったが、それでも背中を強打されたアリババはそのまま意識を失ったのか崩れるように落下していく。
 「アリババ!」叫びながら一番近くにいた聖遊男ジャックは彼を抱きかかえ、「こいつ置いてくる」と一言放ち悪魔軍の攻撃が薄い西のほうへ飛び去った。



 小さな池のほとりで男ジャックが理力を少し分けてやりながら患部を水で冷やしてやっていると、その冷たさに意識を回復したアリババは「・・・男ジャック?」と小さく不思議そうにつぶやく。
 「気が付いたか?」彼独特のぶっきらぼうな、それでいてほっとした表情を浮かべた問いかけにアリババは自分が意識を飛ばしていた間に起こったことを全て悟り「ごめん」と心からの侘びを一言だけ小さな声で口でつぶやいた。
 男ジャックは思う。もしこいつの立場が自分だったらと・・・
 無理しようと傷つこうとみんなと一緒にいたいと願うだろう。「下がれ」と言う言葉を願なに拒むアリババの気持ちは良く分かる。だからこそ自分も含め仲間達はアリババに強いことを言えないでいるわけであるが。
 男ジャックはそう口数の多いほうではないこともあり、しばらく互いに沈黙していたのだがその沈黙を先に破ったのはアリババだった。

 「もう大丈夫だからお前は行けよ。」
 他の皆も大苦戦している状況だ。男ジャックとて、もちろん早く戦場に戻りたい。
 しかし心身共に傷ついているアリババをこのままほったらかして行く訳にも行かない。
 「大丈夫だって。おとなしくしてるから」
 にっこり笑うアリババに男ジャックは困ったような笑みを浮かべながら表面だけの嘘っぱちな笑顔にだまされたふりをして小さくうなずいた。
 一人になって考えたいことや泣きたいことがあるのだろう。
 本当は一人で泣かせたくねぇんだけどな。と心の中で舌打ちしながらアリババにシールドを張ってやった後、男ジャックは戦場へと戻っていった。





 また助けられた。またみんなに迷惑をかけた。また足手まといになってしまった。
 男ジャックが見えなくなるとアリババは先ほどの笑みが嘘のようなこわばった表情になる。
 泣きたかった。泣いてどうにかなるわけではなかったが、後から後から頬を涙が伝う。
 みんなと同じところにいたい。でも、無理して色んな人の反対を押し切ってこの場に来た自分は間違っていたのかもしれない。
 みんなと一緒に戦いたい。みんなの役に立ちたい。いやせめて皆に迷惑をかけたくない―――





 ガサッ・・・一人物思いにふけっていたアリババの近くの木陰で物音がする。
 警戒しながらもそこに向かって歩を進めるアリババの目には、傷ついて息も絶え絶えな悪魔ヘッドの姿が飛び込んできた。
 「・・・ワンダーマリア?」
 以前の気高さは今はない。あまりのその姿に衝撃を受けてしばらく呆然としていたものの傷ついている者をそのままにしておくことは出来ない。
 駆け寄って「大丈夫か?」と一言声をかけてみればうっすらと開いた瞳で自嘲気味な笑みを浮かべた。
 「アリババ神帝か?ことごとくお前とは縁があるな。私の最後を目にするのもお前なのか。もう悔いは止めを刺せ。」
 ワンダーマリアとスーパーデビルが仲たがいしているのは天使軍も知ってはいた。
 それでもこれほどまでの深手を負わせるなんてひどすぎる。
 「何言ってんだよ?やったのはスーパーデビルか?仲間なのに」まるで自分のことのように憤慨するアリババにマリアは不思議そうな瞳を向ける。
 「なぜお前が怒るんだ?お前にとって私がいなくなることは喜ぶべきことだろう」
 そういわれてアリババは困ったように少し考えて口を開いた。
 「でも傷ついてる奴に刃を向けるなんて出来るわけないぜ」



 「・・・ごめんな。俺にみんなみたいな力があれば傷治してやること出来るのに」
 自らの服を破き包帯代わりにしながらワンダーマリアの傷の手当てをしていたアリババが実に悲しそうな寂しそうな瞳ですまなそうに口を開いた。
 ヘッド化した他の6神帝は理力が強いため、その理力を分け与えれば簡単な傷なら治すことが出来るのだ。
 一人パワーアップから置いて行かれ、元々少ない理力も今は費えてしまっている。
 本当に自分は誰の役にも立てやしないと心の中でつぶやく。
 「なぜお前が謝るのだ?お前を傷つけパワーアップの遅れを取らせたのはこの私だろう」
 そんなマリアの不思議そうな、それでいて呆れた様な物言いに、アリババは「そう言われればそうかも」などと薄く笑って見せた。



 それまでアリババにおとなしく傷の手当てをさせていたワンダーマリアが6聖球ソードに手を伸ばし、その中から一つ聖球を取り外した。
 「礼と侘びにお前に返そう」
 自分の師匠でもある聖夢源の源首、桃源如来が守っていたはずの夢の聖球を差し出され、アリババは驚きに目を見張る。
 「だけど・・・これがなければお前は・・・死ぬつもりなのか?」
 恐る恐るつぶやく様に声を出すアリババにマリアは鼻で笑う。
 「借りを作りたくないだけだ。私の気が変わらぬうちに黙って受け取るが良い」
 言いながら呆けたままのアリババの手に聖球を預けた。
 「・・・悪魔化されたことは正直許せない。だけど・・・だけど殺さないでいてくれたことには少し感謝してるんだ。」








 「ちくしょう。これじゃキリがないぜ」
 戦場に戻った男ジャックはあまりの数の悪魔の大群に悪態をついている。
 その時、西の果てアリババを置いてきた辺りからインディコブルーの爆炎と共にドーンと言う爆音が響く。
 言わずもがなで大慌ての男ジャックと神帝隊の目には浮かび上がってくる白い大きな翼を持つ天使が映る。
 その翼の天使は神帝隊に向かってニッコリ微笑み、そのまま戦場に飛び出した。
 溢れんばかりの理力を全身にまとい、傷ついた天使にはその理力を分け与え、突然のことに動揺する悪魔軍には隙すら与えず攻撃している。



 「お前達。」
 白い翼の天使の圧倒的な強さと暖かい理力にあっけに取られていた神帝隊に突然声がかかる。
 「おまえはワンダーマリア!!!」
 とっさのことに6神帝はそれぞれの武器を構えて臨戦態勢に入るものの、肝心のワンダーマリアからは敵意も殺気も感じなかった。
 「そう身構えるな。私はお前達に聖球を返しに来ただけだ。」
 今までのマリアからは考えられぬほどの静かな物言いと申し出に神帝たちは互いに顔を見合わせる。
 「ふん。アリババと同じ反応だな。仲の良いことだ」

 「てめぇ、アリババになんかしたのか?」食って掛かる男ジャック。
 「何かも何もあそこで大暴れしているではないか」
 いかにも可笑しそうに笑うマリアの指差す方向には大きな白い翼の天使とその天使の強さにとりあえず撤退を始めた悪魔軍が見える。
 「・・・・・あれってアリババ?」
 「そんなことは後から本人に確かめろ。」
 ワンダーマリアはそっけなく返事をして神帝隊に早く受け取れとばかりに6聖球ソードをリーダーであるヤマトの前に差し出した。





 「待てってば!」
 マリアの態度にどう反応して良いものか戸惑っていた6人に背を向けようとしたマリアに、いつのまにか戻ってきていた白い翼の天使、聖Iアリババが制止の言葉を大声でかけた。
 「俺らと一緒に戦おうぜ。もう、お前は敵じゃないんだろ?」
 声のトーンは落ちたものの、まっすぐなひたすらにまっすぐな戸惑いの無い瞳で、そう問いかけられアリアは苦笑いを浮かべながら考える。
 確かにもう敵ではない。自分はもう神帝を襲うことはしないのだから。だからと言って味方ではないだろう。
 今までの行いを考えればそれは当然で、敵でなければ味方と言う単純思考な坊ちゃんにはまいる。

 「だから・・・俺はお前を憎んでないって。むしろ殺さないでいてくれたことは感謝してるんだってば。パワーアップできたのだってお前のおかげなんだぜ」
 勘の鋭いアリババはマリアの表情から考えていることを正確に読み取ったようだ。
 そこまで言って、照れてしまい真っ赤になって俯きながらもマリアの腕をつかみ、意地でも離さないつもりのようだった。



 「お前は寂しかったんだろ?仮にもお前のパワーを身体に注がれてる俺にはわかるんだ。隠したって無駄だ。一人が寂しいのは俺も良く分かる。」








―――あとがき―――

 長くなってきたんでとりあえず前編です。

 とりあえず(?)アリババが先頭きって虹神帝へのパワーアップ完了です(笑)
 一人だけパワーアップから遅れてたんだからこれくらいの先陣いいよね(笑)
 後編で他の6人もパワーアップ予定です。

 ちなみにマリアって、たぶん寂しかったんではないかな?と思います。
 アリババやヘラへの愛情(?)と執着(?)はその裏返しではないかと(^^ゞ
 殺すことだって出来たはずなのに(笑)
 うちのアリババ君はそういうマリアの心情を正確に読み取っているのだと思います。
 もちろん(?)最後にマリアを改心させるのはロココ様のお心でしょうけれど(笑)

 ちなみにヘッド化した神帝が傷を治せるってのは(たぶん)オリジナルなんですが、アニメでも理力を分け与えるシーンって結構あるじゃないですか。
 そこらへんから、神帝たちならヘッド化すればロココ様みたいに傷治してあげることも可能かな?なんて(^^ゞ


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