「次界に着いたら何がしたい?」
ヘッドロココが見張りを買って出ているある日の夜中。にこにこ顔のヤマト神帝が枕を並べるほかの6人に尋ねた。
7神帝が枕を並べるのは久しぶりだ。
新天地へ赴く為の選ばれし若神子とは言え、この7人はまだまだ子供だ。天聖界を旅立だったものの先が見えない次界への旅に皆少しばかりのホームシックにかかっていた。
おもむろに尋ねたかのようなヤマトであったが、皆と楽しい話をして少しでも寂しさを紛らわしたかったのであろう。
ヤマトの問いかけに目を輝かせながら最初に答えたのは一本釣神帝だった。
「次界って海あんのかな?無ければ釣り堀作りてぇな。」
その言葉に全員が一気に固まった。一本釣には次界だろうが天聖界だろうが、釣りにしか興味が無いらしい。
そんな一本釣に飽きれながらも次に答えたのは神帝男ジャックである。
「おいらは豆の木でいっぱいにしたい」
結局は男ジャックも思考そのものは一本釣と大差は無い。
それを境に皆が思い思いの夢を語りだす。
「美術館を作りたい」「薔薇の花畑が見たい」とは綺麗なもの好きな神帝ピーター。
「団子パフェを食べたいです」と些細な夢を語るのは牛若神帝。
「家を建てて静かに暮らしたい」などと妙に年寄りくさいことを言う神帝フッド。
ヤマトのたった一言から始まったこの会話は発展に発展を重ね、現実と夢がごちゃ混ぜになってきている。
いつも冷静なフッドはいくら自由の国次界といえども、全員の夢を全てかなえることは無理だと苦笑いだ。
しかしそこではたと気づく。今までの自分達の言葉にアリババ神帝だけがなにも答えていないのだ。
「アリババ神帝はなにがしたいのだ?」
アリババの夢が知りたいわけではなかったが、みんなの語る話に笑顔でうなづきながらも少し寂しそうな表情が気になって尋ねる。
「みんなと楽しく暮らせればそれでいいよ」満面の笑顔でそう語る。
「じじくさいよ〜!」と言うヤマトのセリフに全員が爆笑する。
でも確かにそれが一番の幸せ。
このときは思いも寄らなかったんだ。
全員が一緒に次界にたどり着くことが出来る。全員が次界で平和に暮らせることが出来ると信じて疑っていなかった。
「2本足って大変なんだな」
「「「「「「はぁ〜!?」」」」」」
めでたく7人が神帝になったその日の夜、アリババ神帝のぼやきにも似たつぶやきに全員が仲良く同時に素っ頓狂な声を出す。
「だってさ歩きにくいし、トイレだってしづらいし、そもそもなんで2本足はこのズボンってやつはかなきゃならないんだ?」
至極まじめな表情でぼやくアリババに皆なんと答えてよいものやら沈黙すること数十秒。
それもそのはずで、アリババ以外の6人は全員生まれたときから2本足なのだ。
歩きにくいなどと思ったことも、トイレがしづらいと思ったことも、ましてやなぜズボンをはかなきゃいけないかと疑問にすら思ったことがない。
「俺、今日5回も転んじゃったぜ。パワーアップしたのは嬉しいけど、これじゃ全然戦えないよ」
全員の沈黙にアリババのボヤキがエスカレートしていく。
ぶつぶつぶつぶつと拗ねるアリババに6人はアリババが困っていることだけは分かった。
それでも同意を求められれば6人のほうが困ってしまう。
「ぼくは4本足のほうが大変だと思ってたけど」
やっとの思いで口を挟んだヤマト神帝の言葉にアリババはこともあろうに「え〜!?」などと疑問を発する。
「ぼくたちは君と違って生まれたときから2本足だから大変だと思ったことはないよ。」と神帝ピーター。
一番の仲良しのピーターにまでそう言われてアリババも「だって歩けないもん」などと言いながらも一応の納得を見せる。
その日は徹夜で全員がアリババの歩行訓練に付き合うこととなる。
まるで赤ちゃん状態のアリババの表情は真剣でかわいかったとは全員口が裂けても言えやしなかったのはお約束。
「俺はもう大丈夫なんだ!皆のところに行かせてくれよ。頼むよ」
「駄目です。今の状態では激しい戦いを乗り切ることは不可能です」
天聖界の病室で毎日同じやり取りが聞こえる。
「皆と一緒にいたいんだ。どうせ死ぬなら皆のところで死にたいんだ。」
何度、頭を下げようと誰一人としてそのアリババ神帝の願いを受け入れることはなかった。
次界にたどり着いたアンドロココと神帝隊は悪魔軍の攻撃に苦戦している。
毎日届く次界のそんな状況に気の強いアリババが黙っていられるわけもなかった。
次界の天使軍は猫の手でも借りたいほどの状況なのである。
アリババは奇跡的な回復を見せている。
ヘッド化した他の神帝には到底敵わないがそれでも一般の天使に比べたらその戦力は絶大なものであることはスーパーゼウスもシャーマンカーンも良く分かっている。
それでも神帝隊は頑なにアリババを戦場によこすことを拒んでいたのだ。
今の神帝隊にはアリババだけが希望だったから―――
平和になった次界でアリババを初め全員で仲良く暮らすこと、それだけが神帝隊の希望。
もうアリババを苦しい戦いに巻き込みたくなかった。
「行ったか・・・」「うむ」
スーパーゼウスとシャーマンカーンの天聖界の2大ヘッドの呟きが暗闇に静かに響いた。
このままアリババを天聖界に置いておけば・・・まるで生きるしかばね・・・
次界の神帝隊の気持ちも、毎日毎日「次界に行きたい」と悲痛な表情で頼むアリババの気持ちも良く分かる。
どれが良い策なのかはさすがの2大ヘッドにも分からなかった。
それでも夜中に病室を黙って抜け出すアリババをとめることは出来なかった―――
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