ここ聖フラダイスは長い間、だれしもが夢見た次界。
 しかし理想どおりとは行かず、いまだ天使と悪魔が争っているのだ。
 人数的には天使も悪魔もほとんど同じだけの数なのだが、攻撃系の体質に生まれついたものが多い悪魔に比べ、天使にはあまり攻撃能力が高いものがいない。
 そんなことも手伝い必然的に、攻撃力の飛びぬけている神帝隊は交代制ではあったものの朝から晩まで悪魔軍の攻撃を最前線というか、ほぼ7人だけで戦う羽目となっている。





 そんな状況下、聖O男ジャックは先ほど戦闘から帰り、例外なくほとほと疲れていた。
 何をするにも億劫で、鎧だけ取り外し、さっさとベットにもぐりこんだ。
 その時だった。廊下でドタバタと激しい足音が聞こえる。
 せっかくの休憩時間だというのにどこのどいつだ!などとぶつぶつ考え・・・てる暇もなく、走ってきた勢いのままなのだろう。バタン!と自分の部屋の扉が勢い良く開いたのを見た。
 「男ジャック!寝てる場合じゃないぞ。起きろ」
 開いた扉から顔を出し、まさしく勢いのままに男ジャックの胸倉をつかんでベットから引きずりおろしたのは、聖Iアリババだった。
 「いや、寝てる場合だろ。」だの、「廊下を走るな」だの、「扉は丁寧に開けろ」だの、言いたい事は山ほどあるのに、アリババの必死の形相、でも嬉しそうに笑う顔に一言たりとも反論が出来なかったりする。



 「で、なんなんだよ?」
 「えへへへへ〜。何だと思う?」
 思いっきり休憩を邪魔しているというのに、悪びれもせずアリババは笑う。
 なぜかアリババはいつも元気だった。彼とて最前線で戦ってるというのに。しかもパワーアップしたとは言え療養明けだと言う事実に変わりはなく体力的に不安があると言うのにだ。現に一番身長も低く、体つきも華奢なのだ。
 「・・・実はね・・・」
 まだもったいぶるアリババに、そろそろイライラも頂点に達しそうな男ジャック。
 さすがにこれ以上焦らすのは自分の立場が危ういと感じ取ったのか、開いたままの扉に向かい、その扉の影にいた人物を「じゃ〜ん」などとおどけながら招きいれた。

 「メリー天使。やっぱり来たのか。」
 男ジャックの驚く顔が見たかったアリババは、この彼のセリフに戸惑った。
 「知ってたのか?」
 「知ってたと言うか、こいつだと思ってたからな。おいらのフェロー天使は・・・」
 今、次界には神帝隊をサポートするためにそれぞれの聖源で加護を受けた天使がやってきている最中だった。
 すでに聖幻源出身のファントム王、聖界源出身の大帝ワールド、聖豊源出身のライプ帝、聖霊源出身の聖スピリット、聖動源出身のフレックス仙人がやってきている。
 各聖源からやってきた天使と神帝との縁を考えると自分の聖源で加護を受けた天使は結構簡単に予測がつくと言うものだ。
 そう言いたげな男ジャックの瞳を見て、アリババも納得した。自分とて、誰が来るかの見当はついているのだから。



 「ちぇ。仕方ないか。ま〜いいや。とりあえずごゆっくり。」
 少しばかりつまらなそうな表情になったアリババは、あっさりと部屋を出て行こうとする。
 「何が、ごゆっくりなんだ!?」
 「え!?アリババ様、えっと・・・」
 男ジャックとメリー天使から同時に声がかかるが、思いっきり無視してアリババはそのまま部屋を後にした。





 天聖界でアリババは療養中に実は何度もメリー天使とは会っている。
 天聖界一の歌姫である彼女は、癒しの歌が一番の得意歌だった。
 うまい具合に身体が治らず、リハビリもうまくいかず、イライラしているアリババを見かねてスーパーゼウスが彼女を何度も呼んでいたのだ。
 だから知っていた。彼女と男ジャックが幼馴染だと言うことを。彼女は幼馴染と言う関係以上の気持ちを男ジャックに持っているということを。
 男ジャックとてまんざらでもないことは、メリー天使のことを彼に話したときにピンときた。
 だから、アリババは彼女がここに来てくれたことが非常に嬉しかった。
 大事な仲間と、どん底の気分だった自分を精一杯慰めてくれた恩人の再会がとても・・・





 「えっと・・・男ジャック。休憩中だったのにごめんなさい。」
 残された部屋でしばらく唖然としていた二人だったが、先に口を開いたのはメリー天使だった。
 「・・・別にお前が謝ることじゃねぇだろ。どっちかつーと謝るのはアリババの奴だろ。あいつの行動は無茶苦茶だからな。」
 そうやって悪態をつきながら笑う男ジャックは、久しぶりに会うメリー天使にとっても記憶の中の彼そのままだった。
 最後に会ったのは、まだ彼が天使男ジャックと呼ばれていた時代。
 何度かのパワーアップで今は姿かたちは変わってしまっているが内面は全く変わっていない。
 そっけないのも、悪態をつくのも、口調がきついのも・・・きつい口調の裏側に隠された優しさも本当に何一つ変わっていない。



 「ねぇ男ジャック。私、歌うわ。歌うしか出来ないけれど、精一杯歌うわ。男ジャックや他の神帝様、天聖軍のために歌うわ。」
 「・・・そうだな」
 メリー天使の確固たる決意の言葉に男ジャックは静かに頷いた。
 できることなら純真な心を持つ彼女に悲惨な戦場を見てほしくはないのであるが、彼女がいれば天聖軍の士気が上がることは間違いあるまい。
 「さぁ子守唄を歌うわ。あなたは身体を休めて」
 彼女のにこやかな笑みに「おいらはガキかよ」などとぶつぶつ言いながらも男ジャックは再びベットに横になった。疲れているのは事実なのだから・・・






 いつかこいつに喜びの歌を歌わせてやりてぇな。そんなことを考えながら眠りに落ちていくのであった。








―――あとがき―――

 男ジャックとメリー天使。大人なカップルだと思います。
 と言うか、当人同士は公に付き合ってるとかは思ってないと思うけど、端から見たら熟年夫婦(笑)みたいなのが私の理想(笑)
 当サイトで初めてアリババ以外が主役話(笑)
 本当言うとアリババ一切出演なしで書きたかった。当初アリババのところはヤマトで考えてたんですけど・・・(^^ゞ
 ヤマトとメリー天使が以前から知り合いだったというエピソードが全然思いつかなくて、結局アリババ出演決定(笑)

 いくら次界が平和になっても男ジャックや神帝がいない世界ではメリー天使は「喜びの歌」は歌えないんだろうな・・・
 どうにか・・・虹突入は避けられなかったのだろうか・・・(何度も言ってるけど口惜しい・・・)


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