「うわ!なんか白いもんが降ってるぞ。」
 朝早く、騎神アリババのそんな慌てたような驚愕を含む声で魯迅フッドは飛び起きた。
 外ではピーター神子が見張りをしているはずで悪魔が襲ってきているのだとしたら彼が心配だった。
 「どうしたのだ?アリババ。何か起きたのか?」仕度もそぞろでアリババのほうに駆け出す。
 「フッド。大変なんだ。空から白いものが落ちてきている。ピーターのところへ俺行ってくる。」
 不安そうに揺れるアリババの瞳とその彼が見ている外を交互に眺めてフッドはあまりなことに笑い出した。
 いつも冷静なフッドがケタケタと腹を抱えて笑っている事実にまずアリババは驚いた。それと同時に自分が外のピーターを心配しているというのに何を思ったか笑っているフッドに怒りすら感じる。
 しかし、そんな彼の気持ちを知ってか知らずかフッドは笑いを抑えることすらしない。

 「アリババ。そう心配することではない。この白いのは雪だ。前にピーターも言っていただろう。気温が低くなると雨が雪と言うものに変わるのだ。ピーターはお前と違って寒い地域の出身だ。これくらいの雪なら慣れたものであろう。」
 笑いすぎておなかが痛くなったのであろうか。お腹をさすりながら、フッドは不思議そうな顔をしているアリババに説明した。
 「・・・へ!?雪?へぇぇぇ〜。これが雪って奴なのか。初めて見た。キレーなんだな。」
 先ほどまでの不安げな瞳はどこへやら。その瞳は今度はキラキラと興味深く光る。
 アリババにとって雪は初めての経験だ。それもそのはずで彼が生まれた聖夢源はいつも温暖な地域、育ったオアシスの里は常に熱帯地域なのだから。
 3人旅が始まった直後、それぞれの故郷の話で盛り上がったことがある。ピーターの故郷、聖幻源は年中綺麗なものに満ち溢れていて、雪もその中の一つなのだそうだ。そんな話をしたときからアリババは雪を見たくて仕方がなかったのだ。
 「なぁ。雪って触ってもいいのか?」
 興味深々で訪ねてくるアリババにフッドは苦笑いを浮かべながら「大丈夫だ」と頷いて見せた。



 「ふ〜。やはり雪が降っているだけあって寒いな。」
 ピーターは見張り。アリババは雪遊び。共に冷え切って帰ってくるであろうと思い、フッドは火をおこしておいてやるかと立ち上がる。

 「なぁフッド。そういえばさ、ピーターの誕生日って雪が降る頃って言ってたよな?それっていつだった?」
 雪遊びをしながら以前に3人で話をしたときのことを思い出したようで早々に帰ってきたアリババが問う。そういえば、確かにピーターは言っていた。雪が降る頃が自分の誕生日なのだと・・・
 「・・・うん?そういえば今日ではないか。たしか」
 記憶を探りながら、フッドは結論を思い出して呟く。
 「それマジ?俺何にも用意してないぞ。」
 おろおろし始めるアリババに「私もだ。過ぎていなかっただけマシだ」と事もなげにいけしゃあしゃあと答えるフッドであった。



 「やっぱ寒い日は辛いカレーだよな。」
 るんるんとそう呟くアリババにフッドは心の中で一つ突っ込みを入れる。
 (お前は寒くなくてもカレーだろう)
 今からじゃプレゼントは無理と判断したフッドとアリババは、自慢の料理を振舞うことに決めたのはいいのだが、なにせアリババ。カレーしか作れないのだ。
 「誕生日だしスペシャル辛いのにするぞ」





 食事の仕度も終わりかけたとき、遠くから足音が聞こえてくる。
 「ただいま〜。雪が降ってるとやっぱり寒いね。」
 「お疲れ。お前でもやはり寒いと感じるか。火もおきているし食事も出来ている。とりあえず暖を取れ」
 やっと見張りから帰ってきたピーターにフッドが声をかける。その傍の食卓には既に食事が並んでいる。
 頷くピーターの横。フッドとアリババがなにか顔を見合わせ・・・「「誕生日おめでとう」」と見事にはもった。
 「時間がなくて何も出来なかったけど、とりあえず今日のメニューはスペシャルカレーだぜ」
 「私はスペシャル炒飯と肉まんだ。」
 満足げな二人を交互に眺めながらピーターはそういえば今日は自分の誕生日だった事を思い出す。
 しかし、カレーと炒飯と言う組み合わせはどう考えてもおかしい。もっともカレーしか作れないアリババと、炒飯かラーメンか中華まんしか作れないフッドの組合せなので仕方がないところではあるのだが・・・

 「ありがとう。まさかこんなお祝いしてくれると思ってなかったから嬉しいよ」
 苦笑いを浮かべながらも 自分すら忘れていた誕生日を二人が覚えていてくれたことは、とても嬉しいと素直に感謝のセリフ。
 故郷の聖幻源を滅ぼされてからと言うもの、誰かに誕生日を祝ってもらえるなど夢にも思っていなかったから。
 「じゃ、早速頂こうかな」にっこりと今度は綺麗に微笑んで。多少の組み合わせの悪さはその気持ちが嬉しかったので、封印することに決めた。



 「味どうだ?まずいのか?」
 一口、口に含んで固まっているピーターに少し不安そうにアリババは尋ねる。自分が味見したときは最高の味に仕上がったと思ったんだけど・・・
 「・・・まずいって言うか・・・辛すぎるよ、これ。」そう呟くピーターは、よく見ればうっすら涙目である。
 「・・・お前、辛いの苦手なのか?ごめん・・・誕生日だし、寒いし、だからスペシャル辛いのにしようと思ったんだ」
 途端にしゅんとなって落ち込むアリババを見かねて、結局、全て食したピーターは1日中舌がひりひりしていたのだが、それは作った彼には内緒にされたのだった。










 「・・・今年も雪が降ってきたな」
 デュークは窓の外を眺めながらポツリと呟く。その瞳は窓の外に向いてはいるものの、まるで遠くを眺めているようで。それは全世界を恐怖に貶めている魔界君主とは到底思えぬほどの穏やかなもの。
 「どうしたのさ?デューク様らしくもなく、ずいぶんとほのぼのしたこと言うね。」
 となりで大人しく本を眺めていたバンプは物珍しげに問いかける。
 なにせ破壊活動にしか興味がなく、自分以外は何者も信じていないような、世界は自分のために回ってると思っているような、そんなデュークである。バンプでなくても疑問に思うところであろう。
 「久々にカレーでも作るか。辛くするから貴様が食えるかどうかは知らんがな」
 ぞんざいな態度でそう言って、さっさと部屋を出て行くデュークをバンプは驚きに目を見開いて見送った。

 覚えててくれたんだ。もう何千年も前、辛くて辛くて口から火を吐き出しそうになるほどのカレーを作ってくれたあの日を。
 クライシス化してまで、ここに来たのも間違いじゃなかったんだね。昔の君もキチンと生きている。



 ―――僕もバンパイアも君を一人にさせないためにここに来た。君の今の言葉が最高のプレゼントだよ。アリババ―――



 その夜、バンプの食卓に出たカレーはとっても甘いカレーだったらしい・・・









―――あとがき―――

 いつもお世話になっているピーターLOVE緋月ゆきさまのお誕生日記念にお捧げしますです・・・勝手にお名前出してすいません>緋月さん
 お誕生日当日アップは初めから決めてはいたものの企画自体はすでにお正月の頃から(笑)なのに結局切羽詰って前日に書いてる自分は駄目駄目人間です(爆)
 こんなことでいいのか?2006年の結みるくと言う人間が疑われますですね・・・
 しかも・・・この話、ピーターよりもアリババとフッドがでしゃばってるよ(笑)
 って言うか、なんでこんなにピーターさんがひどい目にあわなければなんないんでしょ(爆)全ての責任はアリババとフッド(つ〜か私か・・・)

 ちなみに「ピーターの誕生日が雪が降る頃」は当然ながらオリジナルです。カレンダー神帝では9月なのにね(^^ゞ
 というか、カレンダー神帝でピーターが9月と言うのは私的にはあまりピンときません(苦笑)
 ヤマト、牛若、ダンジャック、一本釣はビンゴ!とか思うんだけど・・・ピーター9月の理由はもしや「芸術の秋」でしょうか?
 それ以外で9月とピーターを無理やり(?)関連付けるなら9月の誕生石サファイアの中でも希少価値な「スターサファイア」か?(考えすぎかな)
 これを言ってしまうと「スタールビー」のほうがよっぽどピーターっぽいんだけど(^^ゞしかもルビーの7月は七夕あるし(笑)

 アリババ⇒アラジン⇒砂漠⇒インド⇒カレー。フッド⇒中国⇒炒飯、中華まん、ラーメン。と言うことで(どう言う事だ!?)
 私設定では、アリババは辛いもの好きさん。でもピーターはちょっぴり苦手。だって星の王子さま(甘いカレー)だもん(笑)
 それとラストで最大のマイ設定を炸裂させてしまったね・・・私の中ではピーターとフッドは「わざと」クライシス化しています(笑)
 ちなみにデュークも魔洗礼は受けているものの、あくまで自分の「意思」の元だと思ってます。ゴーストとデュークの決定的な違いがここであってくれるとうれしい・・・かも・・・悪魔での登場は正直もう勘弁してほしいけど(^^ゞ


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