「あれ?ピーター。どうしたんだ?」



 次界へ向けて天聖界を旅立ったヘッドロココと神帝たち。夜は交代で見張りをする。
 本日の見張り役アリババ神帝は、ふらっとした足取りで、なにか沈み込んでいるかのような神帝ピーターを見つけて、思わず声をかけた。
 「見張りお疲れさん。なんか目が覚めちゃったから散歩でもしようかと思って」
 「ふーん。なんか嫌なことでもあったのか?」
 人一倍勘が鋭く、それでいて少しばかりおせっかいで、さらに言うなら思考よりも先に行動が常の無鉄砲なアリババらしく、ずけずけと尋ねる。
 「あはは。ちょっと怖い夢を見ちゃってね」
 あまりにも遠慮のない問いかけに苦笑いしながらピーターは答える。
 「怖い夢?眠れなくなるくらい怖い夢か。・・・・・うーーーん。」
 アリババは自らのひざの上にひじをつき、手で顎を押さえながら少しばかり考え込む。
 「じゃあさ。今度怖い夢見たら俺を呼べよ」
 しばらくの後、彼はふと、にっこり笑って宣言した。
 「は?」
 「実は俺って夢コントロールの達人なんだぜ」
 なにを言われているのかさっぱり分からずに素っ頓狂な声を出したピーターにさらにさらに満面の笑みで握りこぶしまで作ってアリババは応じた。

 聖夢源出身の者の中には他人の夢に入り、その夢をコントロールできる者がたまにいるらしい。
 夢の若神子として生まれた彼は、その特性が人一番強い。
 「だから聖夢源を出てオアシスの里で修行してたんだ」
 聖夢源で見る夢は正夢になるがため、夢のコントロールの修行は聖夢源ではしてはいけない決まりらしい。
 言われてみるとごもっともな話である。
 好きなように夢をコントロールされて、正夢にされてはたまったものではない。



 「ふ〜〜〜ん。じゃあ今度怖い夢を見たら、君を呼んでみようかな」
 ピーターのそんな言葉にアリババは再び笑みを浮かべ頷き、今度は興味本位・・・と言うか興味深々でピーターに詰め寄って尋ねる。
 「ところで、怖い夢ってどんな夢なんだ?」

 「自分が死んじゃう夢」
 アリババにつられうっすら笑みを浮かべていたピーターは、ふと視線を落とし辛そうにポツリとつぶやいた。
 いきなり深刻な内容に、小首をかしげ不思議そうにしているアリババを眺めながらピーターは言葉を続けた。
 「最近、強力な悪魔が次々と襲ってくるからかな?なんか不安になっちゃってるのかもしれない」
 まだ不思議そうな顔をしているアリババを見て、この無邪気で無鉄砲なお子様には通じない話だったかと苦笑いがこみ上げる。
 「不安だと思うから不安なんじゃないか?」
 当然と言えば当然なのだが、あっさりと言い返されピーターはあやうくひっくり返りそうになる。
 「・・・君にはナイーブとかセンチメンタルなんて言葉は無縁なんだね」
 なんとなく馬鹿にされたような気がして、思いっきり頬を膨らませて拗ねるアリババが妙に可笑しくてピーターは涙さえ浮かべながらケタケタと笑い出す。
 そんな様子にアリババは眉間にしわを寄せ、明らかに抗議の瞳を向けてくる。





 「でもさ。これだけは約束して。もし僕が旅の途中で死んじゃっても・・・僕のこと忘れないでね」
 大笑いが収まったピーターは静かに綺麗に薄く笑って、未だふくれっつらなアリババに頼む。





 「やだよ。」
 短くきっぱりとアリババに言い切られ、今度こそピーターはずっこけた。
 若神子だったころ、ヘッドロココ、当時の聖フェニックスたちと別行動していた時でさえ共に行動していた彼のことは、他の誰よりも心許せる親友だと思っていた。
 だけど、それは自分の一方通行だったのかと、少し寂しく、かなり落ち込みピーターは本気で泣きそうな気分となる。



 「死ななきゃいいじゃん。なんでそんなこと考えるんだ?」
 アリババは本気で怒っているかのようにピーターを睨みつける。
 「死んだって覚えててなんかやらない。全員で・・・ロココ様とみんなと8人で次界にたどり着けばそれでいいだろ」
 最後のほうは叫ぶように、そう宣言したアリババは、今度は照れてしまったのか真っ赤になってそっぽを向いた。





 ピーターは目を点にしながらも、アリババの言葉を反復し、その言葉の意味を考える。
 そこで、ようやく気づいた。確かに死ななければいいんだ。全員で次界に行って、楽しい世界を築ければそれでよい。
 「ごめんね。君の言うとおりだ」
 そっぽを向いたままなアリババの背中にそう答えた。
 心を軽くしてくれてありがとう。照れ屋なアリババの癖が移ったのか、恥ずかしくてその言葉は言えなかったけれど―――










 ねぇアリババ。あの夜から君のおかげで僕は怖い夢を見なくなった。
 だけど、また怖い夢を見る。
 「怖い夢を見たら俺を呼べばいい」って君は言ってくれたじゃない。
 何度も何度も君を呼んだのに、君は来てくれない。
 うそつき。

 「全員で次界に行こう」って君が言ったんじゃないか。「死ななきゃいいんだ」って言ったのは君だよ。
 うそつき。うそつき。アリババの大うそつき。
 そう言って、君を思いっきりののしってやりたい。
 だけど・・・その君は今はいない。

 死んだって覚えててなんてくれないんだよね?僕だって、君が死んだって覚えててなんかやらない。





 ―――だけど、だけど・・・君を忘れられないよ。―――










―――あとがき―――

 書きたかったのは無邪気なアリババ(笑)
 若神子から魔穴に落ちるまでのアリババは、誰よりも無邪気で誰よりも無鉄砲で誰よりもまっすぐな心で、良い子ちゃんだったと思う。
 不安や心配よりも希望が先にたっている子だったと・・・
 その無鉄砲さが「1回目の死(アニメ版)」の最大の原因なんだろうけど(^^ゞ
 ま〜それは置いておいて(?)そんな無邪気なアリババとは逆に、ナイーブで繊細で・・・ってのがピーターなんじゃないかな?と・・・
 そんな感じから・・・またしても相手役(?)はピーターとなる(苦笑)

 ところで、この話、当初はアリババの無邪気さとピーターの繊細さ・・・それを出しただけの話になる予定だったのですが・・・
 「オチがない」と気付く(笑)
 そのおかげでアリババ魔穴落ち後のピーターの心の叫びが入ることに・・・なったは良いけど、そのせいでとんでもなく暗い話となるのであった(T_T)
 ま〜それで、話自体はまとめることができたわけで、自分自身納得はしてるんだけども(笑)

 それと「夢コントロールの達人」はオリジナルですのであしからず(^^ゞ


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