呪いを解くとされる泉。パルミドの情報屋さんにそういうものがあると言う話をお父様やエイトは聞いたそうです。
 情報屋さんを信じていないわけでははありませんが、本当にそんなものがあるなどとはミーティアは信じられませんでした。
 今、森深くで見つけた、キラキラ輝くこの泉を目の前にしてもいまだ確信は持てません。



 お父様は大喜びで、ミーティアに「早く飲め」と言ってくださっておりますが、ミーティアはこの水を飲む決心が出来ません。
 この泉の水でミーティアが元の姿に戻ったら、この旅は終わりになってしまうのでしょう。
 この泉の水をトロデーンに持ち帰り、城のみんなの呪いを解いて全てが元通りになるのでしょうか?

 ごめんなさい、お父様。ごめんなさい、エイト。
 ミーティアはこの旅の終わりが来ることを望めないでいます。
 もちろんトロデーンの民を早く呪いから解放してあげなくてはいけないことも分かっていますし、一刻も早く解放してあげたいのです。
 でも、この旅が終わったらミーティアは・・・
 お父様は馬になってしまったミーティアの事を「不憫だ」と言ってくださっておりますが、ミーティアはむしろ嬉しいのです。
 だってエイトと一緒にいられるもの。エイトがいつも寄り添ってくれるもの。
 お父様、エイト、本当に不埒な考えでごめんなさい。





 ふと気が付くとエイトがミーティアの顔を覗き込んでくれてます。
 泉の水を飲む決心がつかずに立ち尽くすミーティアを心配してくれているのね。
 ミーティアはどこまでエイトに辛い思いをさせるのでしょうか。自分自身が嫌になります。
 エイトはミーティアやお父様、トロデーンのみんなのために、今までずっと過酷な旅を続けてくれていると言うのに、毎日毎日傷だらけになってまでミーティアやお父様を護ってくれていると言うのに。



 わがままな考えをしてしまって本当にごめんなさい。
 呪いが解けたらエイトは辛い旅をしなくても良くなるのですものね。
 そのためなら、エイトに辛い思いをさせなくて済むのなら喜んでこの泉の水を飲まなくては・・・
 意を決して、泉に向い屈もうとしたミーティアの背にエイトがそっと手を添えてくれた。
 ミーティアが馬の姿になってから、休むときにはエイトはいつもそうやって楽に座らせてくれようとしましたね。
 これが最後になるのかしら?
 エイトの手の優しい感触が大好きでした。人間に戻ったらたぶんもう二度と触ってくれないのだと思うとまた寂しさがこみ上げます。





 あっ、と思うまもなくミーティアの身体がキラキラ輝き始め、気が付いたときにはミーティアは人間の姿でした。
 嬉しそうに目を潤ませたお父様が抱きついてくださり、エイトは・・・
 「今まで姫に重たい荷物を引かせてしまい、あの日貴方を護れずに本当に申し訳ありませんでした」
 片膝をついて、地に頭が付きそうなくらい臣下の礼を最大限に尽くしながら搾り出すような言葉。
 「違います。荷物を引いたのはミーティアの意思です。それにエイトは今までずっとお父様とミーティアを護ってくれたじゃありませんか。本当にありがとう」
 ミーティアは知ってました。とても優しいあなたは自分を責め続けていることを、独りで全てを背負ってしまっていることを。
 ミーティアはずっとずっとずっと言いたかったの。
 違うと、エイトのせいではないと、あなたにとてもとても感謝していると。
 言葉を発せられるってすばらしいことですね。あなたに想いを伝えられるのですもの。
 ずっと馬でいたいなんて考えていてごめんなさい。ミーティアが馬でいることが、どれだけエイトの重荷になっているかと言うことを忘れていました。
 たとえもう二度と触れてもらえなくても、遠き地に嫁ぎ二度と貴方と言葉を交わせなくても、あなたの背負っているものが少しでも軽くなるならばミーティアは幸せなのですよね。





 ミーティアはなんて罪な人間なのでしょう。
 泉の効力はほんの数刻だけだったなんて。それがほんの少し嬉しかったなんて。
 またエイトの負担になってしまうのに。
 でもね、エイト。ミーティアは馬のままだけど、泉で夢であなたと会話できること嬉しいです。
 あなたが自分を責めるなら、ミーティアは何度だって言います。
 「あなたは悪くない。あなたに感謝している」と・・・
 だから、ミーティアにほんの少しだけ時間を下さい。





 ―――エイトから離れる覚悟が出来るまで、ほんの少し時間を下さい―――








++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ミーティアはエイトと旅するのも結構嬉しかったんじゃないかと思うのですよ。
 「早くトロデーンの呪いを解いて、エイトを過酷な旅から解放してあげたい」と「エイトととずっと一緒にいたい」をずっとずっと葛藤していたのではないかと・・・。

 一人称のSSは実は私あまり得意じゃないんですけど、これは結構勢いに任せて書き上げることが出来ました。
 自分の中でミーティア姫の心の中でキチンと定まっているからかもしれませんけれど(笑)

 ちなみに私は泉でミーティアに水を飲ませるときに主人公が姫の背に手を乗せて座らせてあげている所が微笑ましくて大好きなのです♪
 だからミーティアもそれが好きでいてくれたら嬉しいな〜♪とか思ってます(笑)

 そしてこれを書きながらふつふつと思っていたこと・・・
 これのエイトくんバージョンも書いてみたいな〜!とか(笑)




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