~ドラゴンクエスト8〜エイト陛下(笑)戴冠式直後~



 「エイト陛下、ご戴冠まことにおめでとうございます。」
 国王としての戴冠式を終えて玉座に座る(正しくは座らされた)エイトに、トロデーンの大臣は恭しく頭を下げる。
 子供のときには怖かった思い出しかない大臣に、こうも丁寧に扱われると正直困ってしまうと言わんばかりにエイトは隣に座るミーティアに目配せして助けを求めてみるが、肝心のミーティアはくすくすといかにも楽しそうに微笑むばかりで、この場合役に立ちそうになかった。
 「・・・大臣様、お願いがございます。」
 ミーティアが助けてくれないことを悟ったエイトは、おずおずと大臣に話しかける。
 しかし、その口調は王が大臣にかける言葉ではなく、どちらが目上の者なのかさっぱりわからない。
 「なんでございましょうか?なんなりとお申し付けください。しかしエイト陛下、この場面は『大臣、命令だ』とおっしゃって下さい。私めに、敬語なぞあってはならぬことです。」
 大臣の返答は言葉遣いこそ丁寧ではあるが、少々語気が粗く有無を言う予知がない。
 「・・・はぁ・・・」
 付け入る隙がないと悟ったエイトは、がっくしと肩を落とし、終いにはため息まで出てくる始末であった。
 「で、どのようなご命令でございましょうか?」
 「・・・・・」
 「『敬語を使うのはおやめください』って、エイトは言いたかったのよね。」
 押し黙ってしまったエイトをさすがに不憫に思ったのか、ミーティアは苦笑い気味で助け舟を出す。
 「なんと!それはいけませんぞ。エイト陛下。国王となられた自覚をお持ちくださいませ。」
 間髪もいれずに返答する大臣に、エイトは心の中で『さっき、なんなりとって言ったのに』とつぶやくばかりで、既に反撃できする隙はまったくなかった。



 それでも、旅の最中でも見せた機転のよさはここでも発揮される。
 自分でも駄目、ミーティアでも駄目、それならば最後の手段は一つしかない。
 「陛下もなんとか言ってくださいませんか?どうも小さき頃、頻繁に怒られていた記憶が強く、大臣様に敬語を使われると虫唾が走るのでございます。」
 「たしかにそなたは、頻繁に大臣に怒られておったのぉ。そのほとんどが本来はミーティアが悪かったじゃろうが・・・」
 数年前を思い返し、苦笑い気味に答えるトロデにミーティアも同意する。
 「えぇ。。。ごめんね。エイト」
 「いやいや、それは別に良いんだけど」
 話がドンドンずれている。この調子じゃ、自分にとっての最後の手段も完全に空振りに終わる。
 「しかし、エイトも知っての通り、大臣はとっても堅物じゃからのぉ。慣れるしかあるまい。」
 なにか他に良い案はないか?と思案していると、トロデがその希望を見事に打ちくだく一言を発する。
 「そんな・・・陛下・・・お助けください。」
 これだけ発し、あとは絶句するしかないエイトであった。

 「ところでエイト。ワシ、もう『陛下』じゃないぞ。」
 国王の座をエイトに譲ったトロデは既に隠居の身。
 エイトは拗ねたようなトロデの言葉に、はっとなる。
 「・・・申し訳ございません。ついうっかり・・・殿下でございますね。」
 自分のことで精一杯で、すっかりと敬称を間違っていたことを悟って慌てて訂正する。
 ここ玉座の間でのたった数分のやり取りで、あっという間に心労が重なる感覚に陥る。
 「・・・と、言うかのぉ・・・『お義父上』と呼ばぬか?結婚式より既に1ヶ月たっておるぞ。息子に父と呼ばれるのを楽しみにしておったのに」




 ―――新米国王の目下の悩みは、大臣と義理の父だそうな―――


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