「なんなのよ〜〜〜!あの馬鹿!」
 自室に入るなりゼシカは絶叫した。
 絶叫の先で想う人物な赤い貴公子・・・もといバカリスマである。
 トロデーン王女ミーティアの結婚式脱走騒ぎ以降、なぜかククールはこのリーザス村にとどまっている。

 ゼシカはこの村が好きだ。田舎で何もない村であるが、自分の生まれ育った村を嫌いになれるはずがない。
 あの旅が終り、あの旅で世界中を回ってやっと帰ってきた故郷に寄せる思いは本物だ。
 しかし、酒場もない、カジノもない、まして若い女性もそう多くはない村なのだ。ククールにとって魅力ある街とはお世辞にもいえないではないか。
 だから、ゼシカは少しばかり自惚れていた。彼がここにいてくれる理由は自分なのではないか、と。
 それが本当に自惚れであったとゼシカは先ほど知った。怒りとも悲しみとも思えぬ感情がこみ上げて絶叫と相成った。



 ククールは教会のシスターをなれた感じで口説いてた。シスターもまんざらでもなさそうで。
 それが悲しい。自分が悔しい。
 ゼシカは自分の気持ちには気づいている。ククールが好きだ。傍にいたい。愛おしい。
 心の底からそう想う。だけどそれは自分の一方通行なのだろうと、ククールが他の女性といるのを見るたびに感じるのだ。
 それなのに言わなくてはならないのに言えない言葉がある。



 ―――寂しいから、傍にいて―――



 たった一言なのに。意地っ張りな所為で言えない自分がゼシカは嫌になる。
 そんなことを考えていると頬にこぼれるものがある。そんな姿は誰にも見せられないけれども。





 トントントン。
 そんな物思いにふけっていたゼシカの自室の扉がノックされる音。
 慌てて涙を拭いて、扉を開けた先には一人のメイドがおどおどとした様子で立っている。
 「何か用?」
 ゼシカとこのメイドは最近仲良くなった。昔は彼女は自分のことを嫌っていたはずなのだが、旅から帰ってきてからは互いに相談事をしたりと、まるで姉妹のように接している。
 旅に出る前のゼシカは独りよがりな性格で、このメイド以外にも嫌われてると感じていた使用人はたくさんいたのだが、自分から心を開くと人と言うものは新たな一面を見せてくれる。

 「お願いがあるのですが、私と一緒にバレンタインのチョコ作ってもらえませんか?」
 このメイドは食事係だ。手先もとても器用で、チョコの一つや二つ自分ひとりでいくらでも作れるだろう。そうこの申し出は明らかにゼシカのため。
 意地っ張りで素直じゃないゼシカのために「自分が誘った」事にしてくれようとしているメイドの言葉に再び目頭が熱くなる。
 「うん。私もククールに作りたいって思ってたの。一緒に作ってもいい?」
 初めて心の内にあるククールへの想いを口に出すことが出来たようなそんな気がする。





 バレンタイン当日、シスター、宿屋の娘などリーザス村には決して多いとはいえない若い女性のほぼ全員がククールを囲む。
 手渡されるチョコレートを笑顔で受け取るククールを苦々しい気持ちでゼシカは眺める。
 それでも、他の女性は関係ない。自分が素直にならなければ、自分の気持ちをぶつけなければ。

 「よぉ。ゼシカはチョコくれねぇの?」
 チョコレートらしき包みを大量に抱えたククールがいつものからかうような笑顔と共にゼシカに話しかける。
 そんな言葉にゼシカは頬がカッと熱くなるのを感じる。
 素直にならなきゃ、頭の中ではキチンと分かっているのに分かっていたはずなのに、身体はそう簡単に行かず。
 後ろ手に隠していたチョコレートを思いっきりククールに投げつけた。



 後に残されたのは呆然としたククールと地面に落ちたチョコレート。
 綺麗にラッピングされ地面に落ちているチョコレートを拾い上げるククールの瞳は普段の彼からは想像できぬほど柔らかく優しいもの。
 自分はこれを待っていた。他の女性には悪いがこれがあれば他は必要ないとククールは思う。心の底からそう思うのだ。
 明らかに手作りです。と主張している綺麗な包装紙にククールは益々頬が緩むのを感じる。
 ゼシカがどういう気持ちでこれを作ってくれたのかはわからない。
 願わくば自分と同じ気持ちであることを祈るけれど、今はそれよりももらえたことが嬉しいのだ。
 今まで色んな女性からさまざまな高価なプレゼントももらってきたが、はじめて自分が惚れた女からもらったプレゼント。
 その事実だけでいい。
 捻くれものの自分には素直に「ありがとう」とは言えないけれど、いつも怒らせてばかりだけれども。





 その後一ヶ月、ククールは延々とお返しに何を送るか考えることとなる。









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 あはは・・・あは・・・
 ハロウィン・クリスマスが当日アップだったので今度こそはイベント前に〜!と張り切ったと言うのに・・・
 ふたを開ければ当日すら大幅に遅れてるし(^^ゞ
 いや〜〜〜〜〜〜ん!!!ごめんなさいごめんなさいm(_ _)m
 ハロウィン、クリスマスのリベンジに今回はせめて1週間くらい前アップを目指してたのに〜!!!むきっ〜。
 自分が嫌になります(^^ゞ

 と言うことでバレンタインククゼシです。
 全然、甘くないね(^^ゞ
 はじめからケンカしたまま終わる予定ではあったんだけど、2週間も期限に遅れておいて甘くない小説が出来上がって申し訳ないというか何と言うか(^^ゞ
 お気づきの方もいるかもですが、この話から昨年アップした「お返し」のへたれククールに続きます(笑)
 ヘタレククールへの続きであるがために、今回は甘さ0にしたかったのです(^^ゞ
 





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