―――頼んだぞエイト!ワシに構うな!お前達は早く地上を目指せ!!必ずやワシに代わって法皇様の死の真相を・・・―――





 「ニノのおっさん!今、助けに行くでがす!!」
 「どうして、こんなときにゴンドラの鎖が切れるのよ!ニノ大司教を助けに行かなくちゃいけないのに!」
 「チクショー!どうにかならねぇのかよ」

 久しぶりに日の光にあたりながらも、口々に叫ぶのは地の底に置いてきてしまった大事な盟友のことばかり。
 そんな中、彼らのリーダーは一人、背を向けた。



 「駄目だよ。あそこは呪文も神鳥の魂も全く反応しない。今、戻ったら全員助からないんだ。ニノ大司教のためを思うなら、オレたちは戻るのではなくて進むんだ。」










 彼らと共に生活・・・いや生活とはとても言えない、ただ生きているだけの行為だったかもしれぬが・・・
 とにかく、この煉獄島で1ヶ月もの間、彼らと共におると彼らから今までには感じたこものないようなオーラを感じられた。
 もしかしたら今まで己の欲のためだけに生きていたおかげで、見えるものも見えなくなっていただけかも知れぬが、たとえそうであったとしても彼らに何かを託したいと、そう思うのだ。


 元山賊のヤンガスという小太りな男。
 身なりはけして誉めることはできないが、その実、人情味溢れる男だということを今のワシは分かっておる。
 彼にとってもワシらの様な人間にとってもお互いに毛嫌いするようなタイプだろう。事実、彼ははじめはワシに近づくことはなかった。
 しかし数日前に彼はワシにこう言った。
 「ニノのおっさんは本当は良い人だったでがすな。よく知りもしないでアッシはおっさんに近づこうとしてなかったでがすよ。面目ねぇ。」
 実際、ワシは彼が言ってくれたような良い人ではない。しかし、ワシを少しでも認めてくれ、非を素直に謝るその姿勢には深い感銘を受けた。


 上品さも兼ね備えているゼシカというリーザス村の当主の娘。
 それだけを聞くならば以前のワシのような欲にまみれたような人間でもおかしくなかろうに、その実、感情豊かなまっすぐな女性だった。
 この1ヶ月の間に、煉獄棟にいた囚人が何人も死んだ。
 彼女はその度に泣き、危篤の囚人たちだけでも外に出してあげてと何度も何度も看守たちに頼んでおった。
 彼女は大事な兄を亡くしたそうだが、それが人の命の重さをしっかり分かる素晴らしき女性に成長させたのであろうか。
 若くして亡くなったと言う彼女の兄上のご冥福は祈りたいと思うが、兄上の命は無駄などではなかったことが彼女を見ているとよく分かる。


 あのマルチェロの腹違いの弟だというククール。
 今時の言葉で言うならイケメンと言うやつなのであろう。整った顔に手足が長くすらりとした長身の男。
 マルチェロの弟というだけでワシは警戒心を持っておったが、そんなことを思ってしまった自分が恥ずかしい。
 はっきりとは言わないがククール自身もマルチェロには幼き頃より苦労していたのだろう。
 そして、これはワシの思い込みやもしれぬが、彼は兄と仲良くしたかったのではなかろうか。
 兄を恨みたくても恨みきれない・・・そんな気持ちが見え隠れする。
 どのような結果になっても、彼に兄の所業を見届けさせてやりたいと思う。


 そして彼らのリーダーのエイトと言う、まだ年端も行かぬ少年。
 他の3人のように感情を前面に押し出すわけではない。
 正直な所、何を考えているのかは分からん。口数が多いわけでもない。
 顔立ちなどからはじめは彼らのリーダーであることが信じられなかった。しかし今ならよく分かる。
 ふと発する一言は非常に的を得ている。
 世が世なら彼は大物になったであろう気がする。
 大物と言ってももちろんワシらのような欲や俗にまみれたものではなく、亡き法王様のような慈悲の心と大国の賢王のような瞬時の判断力を持ち合わせているのではなかろうか。





 煉獄島脱出計画を決行したものの、地上に向かうゴンドラ操作のために誰か一人がここに残らねばならぬと分かったとき、ワシはここに残ることを選んだ。
 彼らのためならワシの命は惜しくない・・・そこまで言い切ることは正直できんが、彼らなら亡き法王様の理想とする世界を築いていってくれるのではないかとそんな夢を見させてくれる。
 驚く彼らを尻目にワシがさっさと外側からゴンドラの鍵をかけたとき、ヤンガスやゼシカそしてククールは「みんなで逃げよう」と言ってくれたが、それは理想であって現実は不可能。
 感情として心の底から叫んでくれたヤンガスやゼシカ、ククールには本当に感謝している。たった1ヶ月の付き合いであったワシのために、そこまで必死になってくれたことは生まれて初めて仲間が出来たような気がして嬉しかった。
 しかし、エイトだけは違った。現実を、己の使命をしっかりと理解しておったのだろう。真一文字に結んだ唇を噛みながら瞬きもぜずにワシを見ておった。
 だんだん見えなくなっていくエイトの口は「ありがとう。いつか報告できる日を」そう動いたような気がした。






 「う・・・う〜ん・・・」
 感傷に浸っていたワシの耳に、野太い男のうめき声が聞こえる。
 脱出計画時に気絶させた看守どもがどうやら目覚めたらしい。ワシの力では屈強な男2人を相手になぞできぬことは火を見るより明らかで死を覚悟した。

 その時、ドーンという大きな音とともにものすごい風と砂煙が舞い地響きが起きた。
 何が起こったのか瞬時には分からなかったが、どうやらエイトたちをを乗せたのを最後にゴンドラをつるしていた鎖が切れて真っ逆さまにここまで落ちて来たらしい。
 古い鎖であった上、通常1人しか乗らないゴンドラに4人も同時に乗ったからなのかもしれない。

 そしてふと気が付くと看守どもは落ちて来たゴンドラの下敷きになっていた。
 慌ててゴンドラの残骸をよけてやったものの、看守たちはそれぞれ即死であった模様で既に事切れていた。
 タイミングが良いのか悪いのか、運が良いのか悪いのか・・・・・

 看守どもとて命の重さには変わりあるまい。
 しかし、紙一重の差で助かったワシは神に生きることを許されたのだろうか・・・・・
 その答えも、今後のワシの身の振り方も分からぬが、もうしばらくここで時を過ごしてみよう。





 ―――神よ。心からあなたに祈ります。エイトたちの活躍をどうかお見守りください―――









++あとがきと言う名の言い訳。。。っていうか解説++
初登場時は金満欲まみれのニノ大司教。
煉獄島で過ごす間にエイト達にとって切っても切れない「盟友」になったのではないかと思います。
ドラクエ8は泣きながらプレーするシーンが多いのですが、煉獄島脱出時のニノの言動は1,2を争うほどの涙涙のシーンでした。
エンディングで無事な姿を見ることが出来て、すごくすごく嬉しかったです。
そんなニノ大司教からのエイト達への気持ちを表してみたいなぁと思ったのです。





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Photo by.Abundant Shine

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