「なんだか明るい街だね」
 雪深い街オークニスにたどり着いた一行は、例のごとくトロデ王とミーティア姫を街の外に残し4人で用事を足していた。
 色とりどりの星や電球で飾り付けられている街にエイトとゼシカは瞳をきょろきょろさせて物珍しげに眺めている。
 「今日はクリスマスだからだろ。俺もここに来るまで忘れてたけどな」
 恥ずかしげもなく、街を眺める二人の行動が田舎者のように見えてククールは眉をひそめながら呟く。
 「クリスマス?」
 エイトもゼシカも初めて聞く言葉だ。耳慣れない言葉に疑問の言葉が見事なまでにはもってしまう。
 「なんだ。知らなねぇのか。神と生きとし生きるものの誕生を祝う教会を中心にイベントを行う日だ。神様の生まれた日といわれてる。もっとも生誕を祝うというのは名目で、カップルやら家族やらで酒飲んだりして騒ぐってのが目的みてぇなもんだけどな。」
 「へぇそうなんだ。」
 トロデーン大陸にはそのようなお祭りはない。初めて経験するクリスマスに感慨深げに改めて街をきょろきょろ眺める二人に説明したククールは、今度こそ盛大なため息をついて呆れた、2人を見ていると恥ずかしいことこの上ない。



 街を歩いていると、皆楽しそうであった。
 明らかにケーキが入っていそうな箱を嬉しそうに抱える子供。
 少しばかり高級そうなワインなどを持っている大人。
 おめかしして腕を組んでいるカップル。
 「みんな楽しそうね。ねぇ私達もたまにはパーティーでもやらない?息抜きも大切よ。」
 街の人々に触発されたのか、騒ぎたい衝動に駆られたようで、ゼシカが提案する。
 幸いなことに、ここ数日というもの戦い続きな上、野宿が続いていたがため、懐具合にも余裕があるのだ。そのことを思い出し、財布を管理しているエイトは一にも二にもなくゼシカの言葉に頷いて見せた。
 「どうせなら、綺麗な飾りとかも買って少し豪華にやろうか」





 「お〜お〜お〜。楽しいのぉ。」
 たくさんの荷物を抱えて戻ってきた4人に当初は目を丸くしていたトロデ王であったが、飾り付けがされていく馬車を眺めながら言葉通り楽しそうな声を出してぴょんぴょん飛び跳ねる。
 一見わがままに見えるトロデ王も、この旅の間、色々苦労してきている。久しぶりに見る心の底から笑っているトロデ王にエイトは微笑ましい気分だった。
 陛下に息抜きしてもらえるなら、こんなに嬉しいことはない。心の中で呟く。
 「この大きなリボンは姫に付けていただこうかと思い買ってまいりましたがよろしいでしょうか?」
 今は不本意ながら馬の姿のミーティア姫は言葉を発することは出来ない。しかしながら、エイトの言葉に彼の頬に鼻を擦り付ける。それがまさしく了承の合図であった。
 小さく礼をして、エイトはうやうやしくミーティアに綺麗なピンクのリボンを付けてあげている。
 フライングで飲み始めているククールは、つい先日、エイトに「姫さんに惚れてるんだろ?」と訪ねたことを思い出す。
あの時は慌てふためいて否定していたエイトであったが、今の微笑ましげな二人(1人と1頭)を眺めれば、どう見ても惚れあってるよな。彼がそういう結論を出すことは自然の道理であった。





 「陛下おつぎします」
 珍しく酒を飲み、少し酔っ払い気味でもトロデへの気遣いは忘れないらしい。そんなエイトの言葉にトロデも素直にグラスを差し出す。
 楽しかった。
 クリスマスと言うものが初めてのトロデーン大陸組はもちろんなのだが、小さな頃から親と別れ孤児であったククールやヤンガスにとっても楽しいクリスマスはこれが初めてなのだ。
 この旅は遊びなわけではない。それぞれが大事な者を救う旅、大事な者の敵討ちの旅。
 でもたまにはこんな日もあっていいなと誰もが思っていた。今もなお暗黒神に苦しめられているものには申し訳がなかったけれど。
 生きとし生きるものの生誕を祝うならば、こうして仲間達に会えたこともまた祝う日でもあろう。
 一人ではここまでこれなかっただろうから・・・



 宴もたけなわに入る頃、起きているのは仕えるトロデより先に寝るわけにはいかないと思っているのか非常に眠そうなエイトと、ちびちび酒を飲み交わしているトロデとククールの3人だけだった。
 ゼシカとヤンガスは久しぶりの酒に酔にすでに酔い潰れて馬車の中で毛布に包まり眠っていた。ミーティアも馬車の傍で上品に眠っている。
 「おいエイト。眠いならもう寝ろ。王様は俺がキチンと見ててやっから。」
 船をこぎかけたエイトを見ながらククールは苦笑い交じりに忠告する。
 「そうじゃな。はよう寝ろ。ワシのことは気にするな。ククールめに酒をつき合わせるでな。」
 さすがに耐え切れないと判断したのだろうか、エイトは素直にトロデの言葉に従う。
 「それでは申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます。」
 ふらふらした足取りで馬車に向かうエイトの耳にトロデ王がポツリと呟いた言葉が転がり込んだ。
 「トロデーンに帰ったら、このイベントは我が城でもやりたいのぉ」
 平和になったらぜひにも・・・そう思いながらエイトは眠りに落ちていった。





 その夜エイトは夢を見た。
 大きなピンクのリボンを身につけた人間の姿のミーティアが笑う。

 ―――エイト。生まれてきてくれてありがとう。ミーティアはあなたに出会えたことを神に感謝しますわ―――








 あれから数年。トロデの言葉通り、トロデーン大陸でもクリスマスが普及することとなっている。
 人々の幸せな笑顔こそがクリスマスの証。
 辛いことも悲しいこともたくさんあったけれど、今あなたが傍で笑ってくれていることに感謝します。


 生きとし生きるものすべてに聖なる夜を―――














++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ハロウィンに続きイベント当日アップになってしまったクリスマス話・・・
 とはいえ・・・出来上がってよかったってのが本音(笑)

 舞台は雪の街、オークニス。
 ドラマなんかを見ているとおあつらえ向きにクリスマスの夜に雪が降ったりロマンチックじゃないですか(笑)
 なのでおあつらえ向きにクリスマスの夜にオークニスにたどり着かせてみた・・・
 うんが・・・ここで大問題が発生するんだよ私の中で・・・
 北海道に長年住んでる私としてはクリスマスには雪があるのが当たり前!
 雪が降ろうと、積もろうと・・・ホワイトクリスマスだ〜!と言う感慨は皆無なんだよね・・・むしろ雪かきがめんどくさい(^^ゞ
 そんな私にはうまくホワイトクリスマスを表現することは出来なったようです・・・。
 ということで舞台をオークニスにした意味全くなくなってしまったよ〜!!!




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