「パパ、なにやってるの?」
 子供達がとても不思議そうに、一生懸命に作業をしている父親を見て言葉をかける。
 それを見た母親は苦笑いを浮かべるのだった。
 「パパとっても頑張ってるからしばらくあのままにしてあげてね」





 ここは、トロデーン領リーザス村の当主アルバート家の一室だ。
 ことの起こりは数週間前のトロデーンからやってきた使者の持ってきたトロデーン前国王トロデからの書簡だった。
 内容はトロデーン城で数年前から始まったハロウィンのお祭りを全領土に広げたいというものだった。
 トロデーンで行われるハロウィンのお祭りは元来アスカンタ地方の一部で行われていたもので、ちょうどそのお祭りの日がトロデーンが茨に包まれるという忌々しき出来事のあった日なのだ。
 ユーモラスのある当時の国王トロデがメインとなり、忌々しき呪いの日を忘れないように二度と悪を寄せ付けないように、そしてその年を無事に過ごせたことへの感謝の思いを込めて毎年盛大に行っている。
 もともと、トロデーン現国王陛下にハロウィンのお祭りのことを教えたのは、アスカンタ地方ドニ出身の現リーザス村当主のククールである。
 そのこともあって、トロデーンお祭り担当トロデは、リーザスでのお祭りに関してはククールに全てを一任することにしたらしい。



 しかし、ククールの苦労はその日から始まった。
 なにせ、元々トロデーン大陸にはハロウィンの習慣はない。トロデーン城ではこの大陸の先陣を切ってお祭りを盛り上げてはいたもののそれすらまだ数回の出来事なのだ。
 リーザスの村民達に祭りを盛り上げてもらうにも彼らにその知識がないため、なにを行って良いのかが分からないのだ。
 当主自ら企画書をつくり、各家庭にパンフレットを配り、お店にはポスターを貼ってもらうように頼んで歩いた。
 当主の頑張りとなんだか楽しそうなお祭りに、村民達もだんだん楽しみになってきているようだが、なんだかやることがめちゃくちゃなのだ。
 「いやいや、そうじゃない」が、ここ数日間のククールの口癖になっていた。
 そんなわけで今日も今日とて作業中のククールは、子供達と遊ぶ時間も惜しんでいたのだった。
 もっとも子供達は子供達同士でしっかりと遊んでいるので父親が最近遊んでくれなくても、あまり気にしていないというククールにとっては少しばかり寂しいことになっているのだが。
 父親が没頭している作業には興味津々のようではあるが―――





 「少し休憩にしたら?」
 ククールの妻であるゼシカが、作業中で大変散らかっている部屋にお茶とお茶菓子を持ってやってきた。
 「あぁ、なんだかやり始めたらとことんやっちまうのが俺の悪いくせだぜ。」
 ゼシカのほうを振り返りながら、両手を上に向けやれやれという表情を作る。呆れたようなふざけたようなやる気のなさそうな、その行動は彼の昔からの癖だ。
 実際は別に本気でやる気がないわけではなくて、照れ隠しであり、本心を隠すときのためのもの。
 ゼシカはその行動をククールが取るときの彼の本心くらい手に取るようにわかるので、くすりと笑うだけだ。

 「ねぇ。別にドニやトロデーンと全く同じようなお祭りにしなくても、リーザスはリーザス特有のお祭りにして行きたいって私は思うの。」
 人と同じということをあまり良しとしない、それぞれの個性を大事にするゼシカらしい提案にククールも少し考える。
 「ま、確かにな。そもそもトロデーンの祭り自体がドニとは違うわけだしな」
 昨年のお祭りにはククールとゼシカはトロデーンへ招待され見学してきている。
 ククールが昔、国王エイトと旅をしていた頃にちらりと話した内容から始まったトロデーンのハロウィンは驚くほどにドニのお祭りとは違った。
 アスカンタ地方では「聖人と殉教者を記念する日」の一環であるのだが、トロデーンでは呪い解放を祝うという意味での「悪霊退治」がメインとなっている。
 第1回開催時当時近衛隊長として祭りの企画を一任された現国王エイトが、実物のお祭りを見たことのないなりに必死に企画したお祭りであったのだろうが、本家アスカンタ地方のお祭りとのあまりの違いにククールは目を見張ったのだった。
 それでも民が皆、楽しそうに参加しているのを目のあたりにして、これはこれで面白いと思ったのも事実。
 ならば、たしかにゼシカのいうとおりリーザスはリーザスで、この村独特のものを用いて盛り上げても良いだろう。

 「それにトロデ王からもエイトからも細かい指示はきてないしね。」
 「トロデ王も型にはまったことが嫌いだしよ。大体エイトも最近、トロデ王に似て破天荒になってきてるしな。細かいことは任せるってことだろうよ。」
 「そうね。」
 本人達がいないのをいいことに夫婦揃って、王族に向かって言いたい放題である。
 ちなみにトロデーン国王エイトは、彼らから恭しく扱われることを非常に嫌い、公の席以外では国王と呼ばれることすら良しとしない。
 エイト国王曰くククールとゼシカにたいしては「王である前に仲間であり友人」なのだそうだ。
 もちろんククールとゼシカにとってもエイト国王のことはとても大事な友人であったがため素直にエイト国王の命令と言う名の嘆願は願ったりかなったりなもの。
 それにともない、前国王トロデのことも未だに「トロデ王」と呼んでいるのである。



 「さて、作業再開だ」
 うーん、と背伸びをしてお茶もお茶菓子も平らげたククールはまた作業台に向かう。
 「ところで、ゼシカ。リーザスの特徴といえば農業だ。収穫祭のような感じを兼ねるのも面白いと思うんだが、ほかになんか良い案あるか?」
 仮装や飾り付けの作り物の作業をやり始めたがために、後ろも振り返らずにククールは問う。
 先ほど、リーザスはリーザス独特のお祭りにしたいといったゼシカの提案を受け入れ、それなばらと面白い企画をやってみたくなったのだった。
 「収穫祭か。それいいわね。ほかは・・・」
 ククールの意見にことさら賛成で、そのほかの案を考え始める。やがて、ポンと手を打って良い事思いついた勢い込んで話し始める。
 「ドニやトロデーンがどちらかといえば大人のお祭りならばリーザスは子供メインのお祭りにしない?」
 リーザスは昔から子沢山の家庭が多く、とても賑やかな村なのだ。ならば、その子供の成長を祈るような子供メインのお祭りと言うのも悪くない。
 「子供か。そうだな。何かイベント大会でも開いて子供達に駄菓子とかわいい野菜のおもちゃでも配ったりするのも面白いかもな」
 彼の言葉に提案したほうのゼシカは意を得たりと言わんばかりに目を輝かす。妻となり母となった現在も昔からの好奇心をまったく失うことがないようだ。
 「じゃあ、私が子供のイベントとか企画してみるね」
 言うが早いか、ククールの返事も意見も聞かずに部屋を飛び出して行くゼシカだった。おそらく自室でさまざまなことを考えるつもりなのだ。



 当主夫婦の並々ならぬ努力と情熱の下、第1回リーザスハロウィン祭りは大成功を収め、数年後には子供達も一つの合言葉と共にとても張り切るお祭りになっていた。





 ―――Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ―――







++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 一昨年のハロウィン企画(楽しいお化け城)、昨年のハロウィン企画(トロデのハロウィン準備偏)から、微妙に繋がってます。
 今年のハロウィン企画は、トロデーン(主姫)じゃなくて、リーザス(ククゼシ)メインとなりましたが(笑)

 さてさて、本来のハロウィンは、古代ケルトの悪霊退治、古代ローマの収穫祭、キリスト教の万聖節の3つが由来しているといいます。
 数年前にちょっとした企画でハロウィンの由来とかの解説ページを作ったことがあるんですが、今回それそっくり再アップしました。詳しくはこちら

 そんなわけで、ドラクエ8のハロウィンのお祭りは完全に私の中でのイベントなんですが。。。一応、本来の由来に合わせる恰好で・・・
 マイエラや希望の丘などちょっと宗教チックなアスカンタは万聖節、茨の呪いが発端とさせてもらってるトロデーンに悪霊退治、畑部分が多く見られたリーザスに収穫祭を当てはめました。
 リーザスの収穫祭は結構、むりやりですけれど(^^ゞ
 ちなみにリーザスはポルクとマルクの印象が強く、子供が賑やかだな〜って思ってるので、「Trick or treat. 」もリーザスと言うことで。





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