―――頼んだぞエイト!ワシに構うな!お前達は早く地上を目指せ!!必ずやワシに代わって法皇様の死の真相を・・・―――





 「ニノのおっさん!今、助けに行くでがす!!」
 「どうして、こんなときにゴンドラの鎖が切れるのよ!ニノ大司教を助けに行かなくちゃいけないのに!」
 「チクショー!どうにかならねぇのかよ」

 久しぶりに日の光にあたりながらも、口々に叫ぶのは地の底に置いてきてしまった大事な盟友のことばかり。
 そんな中、彼らのリーダーは一人、背を向けた。



 「駄目だよ。あそこは呪文も神鳥の魂も全く反応しない。今、戻ったら全員助からないんだ。ニノ大司教のためを思うなら、オレたちは戻るのではなくて進むんだ。」










 1ヶ月もの間、煉獄島というこの世の地獄とも言われる牢獄に閉じ込められていた。
 その地獄から脱出することが出来たものの、その犠牲は大きかった。共に牢獄に入れられ、脱出時の計画のほとんどを考えてくれた大事な大事な盟友ニノ大司教はここにはいない。
 4人を助けるために地の底に残ることを己の意志で決めたのはニノ大司教本人である。
 ヤンガス、ゼシカ、ククールの3人は地上に戻れたとき、すぐにでも救出に向かいたかったが、それを咎めて辞めさせたのはリーダーのエイトだった。
 地の底へ向かう唯一の道であるゴンドラは壊れてしまっていた。しかも牢獄には魔術でも施しているのか魔法の類は一切効力を発揮しない。
 戻ったところで、ニノの行為を無駄にするだけで状況は非常に厳しいことくらい冷静に考えれば分かりきっていた。

 現在はニノの思いに応えるため、マルチェロの暴走を止めるために聖地ゴルドへの航海中である。
 疲れているであろうと言うトロデ王の計らいで夕食後すぐに休ませてもらっていたが、ゼシカは眠れぬ夜を過ごしていた。
 ベットに横になっていては、ニノのことばかり考えてしまいかえって眠気が遠ざかっている気がして、諦めて仲間を起こさないようにそっと甲板へ向かうことにする。

 「ふう・・・・・」
 大きなため息とともに、星空を見上げそっと瞳を閉じた。目を開けたままだと涙がこぼれそうになるから。
 「・・・眠れないのか?まぁあんなことがあったんだし、当然と言えば当然だな」
 ゼシカは突如、背後から聞こえた声に驚いて振り向くと苦笑いとも皮肉な笑いともとれる微妙な笑顔のククールが立っていた。
 「・・・ごめん、起こしちゃった?」
 「・・・いや、俺も眠れなくてね。」
 そう答えるククールは両手を広げて、少しばかり呆れたような雰囲気でゼシカの隣までゆっくりと近づいていく。





 しばらくの沈黙が続いたが、先にそれを破りぽつりぽつりと話し始めたのはゼシカだった。
 「エイトの判断が正しかったことくらい分かってるわ。エイトを責めるつもりも、そんな権利もないわ。でも・・・どうしても・・・」
 「・・・そうだな。」
 その内容が何をさすかは語られなかったが、ククールにとってはゼシカの言いたいことぐらい手に取るように分かる。ゼシカが話し始めるのがもう少し遅ければ、むしろ自分から同じ話を振っていただろう。
 「冷静に考えれば、むしろエイトに感謝するべきだな。あそこでみんな揃って牢獄に戻っていたら、ニノ大司教の決断が水の泡だ。誰一人助からなかった。」
 そこで一度、言葉を切ったククールは隣のゼシカが黙って頷くのを横目で確認し、また口を開く。
 「だが、それでも・・・なんとか出来たんじゃないか?って後悔する気持ちはよく分かる。俺だって同じさ・・・」
 大きな瞳に涙を湛えながら、ゼシカは言葉もなく弱々しく頷く。
 「俺たちってさ、良く考えればいつも後一歩なんだよな。オディロ院長のときも、チェルスのときも、メディばあさんのときも、レティスの子供のときも・・・今回は正直またかよって思ったよ。世界を救わないととか勝手に思ってるけど、だからって犠牲多すぎだよな・・・・・けどなゼシカ・・・」
 海を見ながら話をしていたククールだったが、そこで身体を回転させまっすぐにゼシカの瞳を見つめてさらに言葉を続けた。
 「どんなに辛くても眼を背けたら負けだぜ。相手は暗黒神なんだ。心に一瞬でも隙を作ったらやられちまうんだ。泣くのは暗黒神をなんとかしてからにしようぜ。その時はオレが胸貸してやるからさ」
 それまでの真面目一辺倒の口ぶりから、最後だけはいつものふざけたような物言いに、ゼシカは条件反射的にキッとククールを睨みあげる。
 「ハニー、そんな怖い顔したら美人が台無しだぜ」



 ゼシカは思う。ククールはわざと自分を怒らせているのだと・・・
 自分の鬱憤やもやもやした気持ちを全部分かってくれた上で、納得のいかない気持ちに同意してくれた上で、それでも前へ進ませてくれようとしている。
 元気を出させるために、わざわざ怒らせてくれたのであろう。
 ククール自身、半分だけとは言え血の繋がった兄のことで余裕などないはずなのに、懸命にゼシカを元気付けようとしてくれている彼には感謝しても感謝しきれない。



 指先で小さなメラを作りつつ逃げ惑うククールを追いかけながら、こっそりと「ありがとう」とゼシカはつぶやいた。





 そして、日が昇る。

 「あいつ、死ぬのかな・・・」
 マルチェロの法皇就任式を前にして一瞬、弱気を見せたククールの背中を思いっきりゼシカはたたいた。
 「あんな、どこでも嫌味男なんて、殺されたって死にゃしないわよ」
 もちろん確証はなかったが、少しでもいつもの調子を取り戻してほしく、ついいつもの憎まれ口をたたいてしまうゼシカだったが、その言葉にククールはふっ、と小さく笑った。
 「全力で行くぜ」そんなつぶやきと共に・・・





 ―――もしものときは暗黒神をどうにかした後、一緒に泣いてあげるわ―――










++あとがきと言う名の言い訳。。。っていうか解説++
 煉獄島3部作(?)の3作目。いつから煉獄島3部作だったんだかねぇ・・・
 とにかく、ククゼシですね(^^ゞ

 書き出しは、前回更新の「彼らへ託す想い」と同じですが・・・
 ここら辺はマルチェロがらみでククールのほうが精神的にまいってるとは思いますが、ゼシカはゼシカでぐるぐるぐるぐるぐるぐる悩んでるはず。
 ククールとゼシカは、ケンカしながらも悩むときもぐるぐるぐるぐるするときも一緒にしているのが彼ららしいと思っています。





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