「すごく星が綺麗ね」
 「今日は七夕だし、晴れていて良かったんじゃねぇか?」





 ククールとゼシカの夫妻がリーザス村当主を譲り受けたのは数日前のこと。今は領主交代の報告と挨拶にトロデーンを訪問してきた帰り道である。
 本当はもっと早い時間に城を辞する予定であったのだが、友人でもある国王夫妻とつい昔話に花を咲かせてしまいすっかり夜もふけてしまった。
 民家は寝静まり、夜空には満天の幾重にも輝く綺麗な星空。





 「七夕?」
 ゼシカにとっては初めて聞く言葉だ。とても不思議そうにククールを見上げる。
 「知らねぇのか?おとぎ話なんだけどよ、ドニあたりじゃ有名な話だぜ。」
 アスカンタ地方には『願いの丘』の伝説があったり、代々の国王が争いを嫌うロマンチストであったため、おとぎ話や伝説の類も盛んなのかもしれない。



 「夜空に輝く天の川の東のほとりにベガと呼ばれる美しい姫がいたんだけどな、その姫さんは機織りの天才で5色に輝く機はその姫さんにしか折れなかった。だがベガは機織りに夢中で年頃になっても恋のひとつしたことがない。見かねた天帝と呼ばれる父親は川の西側のほとりに住む働き者の好青年アルタイルを娘に紹介した。」
 言葉を切ったククールは先を知りたくて知りたくて仕方がないといったふうなゼシカの瞳を見つけ苦笑いを浮かべる。
 彼女はいつも前向きだ。知らないことは何でも知りたい。それが自分を成長させると信じて疑っていないのだ。
 そんなゼシカの瞳に促されるがままククールは続ける。

 「ベガとアルタイルはたちまち恋に落ちた。だがな問題はそこからで、二人は恋に夢中になりすぎて仕事を全くしなくなっちまったのさ。今まで必死に働いていた二人だからな天帝も初めのうちは多めに見ていたんだけどよ、いつまでたってもいちゃこらしてた二人にさすがに怒って二人を引き離したんだ」
 ククールの話を聞くのに夢中になっていたゼシカはいつの間にやら足を止めて地面を見つめ俯いていたが小さな声で「かわいそう」とそう一言呟いた。
 涙声だった彼女のその瞳には涙がたまっているのだろう。
 ただのおとぎ話にそれほどまでに真剣になれるゼシカを羨ましいと思う反面美しいとククールは心から思う。

 「天帝は二人が心を入れ替えて真剣に働くならば年に一度だけ会わせてやると約束して、ベガを連れ戻したんだ。その年に一度を待ちわびながら二人は必死で働いた。その年に一度が今日だ。だけどな、その年に一度のその日に雨が降っちまうと川が氾濫して二人が会うことはかなわない。だから人は願うのさ。今日と言う日が晴れることをな。」
 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはゼシカだった。
 「好きな人に年に一度しか会えないなんて私だったら耐えられないわ。しかもせっかくの日に雨が降ったら会えないなんて辛すぎる」
 本格的に泣き出しそうな彼女に、ククールは悟られないように声を出さずに小さく笑う。




 「俺が傍にいてよかっただろ?」
 すっかり暗くなってしまった場を明るくしようと茶化すような口調。常のゼシカならば、キッと睨んでくるか、一発二発たたかれるところだ。
 だがそんなククールの予想を大きく裏切り、彼女はしおらしく小さく頷くのみで。
 百戦錬磨を自称するククールもさすがにこれにはやられた。落とされた。益々持って惚れ直す。





 「俺たちはずっと一緒にいようぜ」
 そう言うのがいっぱいいっぱいで、あとはただ手を握り合ってお互い無言で歩き続けるだけだった。









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 速攻過ぎるほど速攻の七夕ククゼシ(^^ゞ
 七夕当日になぜか降って沸いたネタです。
 短い上にただ七夕伝説を語ってるだけ・・・それでも珍しく(?)ラブラブ〜♪なククゼシです。

 織姫と彦星と表記しても良かったんですけど、なんとなくドラクエチックじゃないな〜と・・・ベガ(織姫)とアルタイル(彦星)という星の名前で伝説を語ってみました(笑)
 実際の七夕伝説は雨が降ってもかささぎの群れが橋を作って二人を会わせてくれるのですが、そこまで書く必要もないかな?と今回は省略(笑)




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