「・・・うっ・・・ん・・・?」
 マルチェロは悪夢に苛まれ目を覚ましたのだが、見慣れぬ部屋に戸惑いを隠せないでいた。
 「まあ。目を覚まされたのですね。ここは海辺の教会。浜に打ち上げられていたのをうちの修道士が見つけここに連れてきたのです。3日も目を覚まさないので心配しておりました。ご加減いかがですか?」
 そのシスターの言葉に俯いていたものの、ようやく記憶がよみがえってきたマルチェロはどう話すべきか迷い口を閉ざす。
 「なにも言いたくなければそれで構いません。しかし、あなたがここに流れ着いたのも神のご加護です。なにかあればなんなりとお申し付けください。」
 着ていたものや、怪我の状態、なにやり浜に打ち上げられていたと言う状況からするに曰くがあろうことを察しシスターはやわらかく微笑む。
 一言も発さぬマルチェロに一人で考えたいこともあろうと気を遣い、シスターは静かに部屋を出て行った。



 マルチェロは今まで金と名誉そして絶対的な権力だけを求め誰をも信じずに生きてきた。それが全てであった。
 聖地ゴルドが崩壊し、信じていたものを全て失ったとき、このまま死んでしまおうと考えた。しかし、いざ崖の下に放り出され死に直面したときに死にたくないと自らも驚く感情が湧き上がり、必死に岩にしがみ付いた。それでも傷つき体力の限界を超えていた身体は思うように動かず駄目だと思った瞬間ククールに助けられた。
 よりによって今まで忌み嫌い、見下してきた腹違いの弟に助けられたのだ。
 一握りしか残っていなかった最後のプライドで虚勢を張り逃げるようにククールの元を去った後、この教会に流れついたようだった。
 自分は何のために生きてきたのか?自分は何のために生まれてきたのか?そう考えながらマルチェロは再び眠りに付いた。










 マルチェロが海辺の教会に流れ付き数ヶ月のときが経っていた。
 教会の人たちは何も聞かず、行くあてがないのならずっとここにいればいいとまで言ってくれている。
 相変らず暗く、自らのことは語らなかったが、それでも助けてくれたうえ、暖かい言葉をかけてくれる、この教会の面々には感謝の念を抱くようになっていた。
 この気持ちの変化にはマルチェロ自身が一番驚いていた。他人を押しやってでも駆け上がったきた修道院時代には感謝などは考えられないような感情なのだ。
 それと共に今までの人生をも考えさせられる。
 なりふり構わず生きてきた自分は一体なんだったのだろうか。そしてその結果がこれだ。あれほど必死に手に入れたかったものの価値すら分からなくなっていた。





 そしてククールのこと・・・・・。
 あいつは、初めて会った時の優しかった自分が忘れられないと言った。10年以上もの間、修道院で忌み嫌われて生きてきたと言うのに、たった数分のことが忘れられないと言う。

 いや・・・分かっていたさ。ククールは言葉ではいつも反論していたが、心の奥底ではそう憎まれていないと言うことを気づいていながらマルチェロは気づかぬ振りをしてきた。
 小さな頃ならともかく、ある程度年を重ねた頃ならククールなら女のところにでも上がり込めば修道院を出ての生活だってできたであろう。それをしなかったあいつはなんだかんだと言いながらも結局は修道院にいたかったのだろう。
 そうしなかった原因が自分であると言えば自惚れかも知れないが、少なからずの理由ではあるような気がした。



 今、冷静に考えるとククールには落ち度がない。
 生まれてきたことはもちろん、修道院に来た事とて、あの近辺には身寄りのない子供が住めるところは修道院しかないのだから当たり前のことである。母をなくしたときに修道院へと行った自分とさしたる違いはないのだ。
 「ククールさえ生まれなければ・・・」と死ぬ間際までうわ言のように語っていた母に洗脳されていたのかもしれない。
 屋敷を追い出されてからと言うもの、母はククールと父親、そしてククールの母を恨むことしかしていなかったと記憶している。
 精神的にも体力的にも追い込まれ、ぽっくりとあの世へ行ってしまった訳なのだが、今にして思えば母も不憫な心の持ち主だったのだろう。

 神に仕える身でありながら、罪亡き子供を恨み憎しみ続けたことへの天罰が下ったのだろうか。



 もし初めてククールに会ったときに・・・ククールと言う名を聞いた後も優しくしてやれていれば今はどんなだったのだろう、とマルチェロは思う。
 ククールと仲のよい兄弟である自分を想像し、あまりの違和感にふっと鼻で笑った。




 ―――ありえぬ事だ―――




 ククールが仲間と共に暗黒神を倒したと言う噂は、この教会にも届いている。
 その後、どうしているかは分からないところだが、相変らず自由奔放に女のところにでも転がり込んでいることであろう。
 もう二度と会うこともないであろうが、万一会うことがあれば嫌味の一つも言っている自分を想像し苦笑いがこみ上げる。





 それでも、心の中ではククールに幸あることをマルチェロは祈らずにはいられなかった。









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ククールはマルチェロさんを探しています。いつかはあわせてあげるつもりです。
 そのとき、マルチェロさんはどんな反応するのかな???(笑)
 マルチェロさんも根は悪い人じゃないんだと思うんです。
 プライドもなにも全てを失ったマルチェロさんはククールを恨み続ける理由はないと・・・そんな感じからこの話ができました。
 
 と言うか、久しぶりの更新がこんな短い話で申し訳ないです(^^ゞ





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