「兄貴、お久しぶりでガス」
 世界一の大国サザンビーク王家の血を引き、なおかつ世界を救った勇者であり、トロデーン王国の至宝ミーティア姫の婚約者。それでいて心優しき好青年であるエイトのことをヤンガスは心の底より尊敬している。
 「兄貴はますますご立派になられたでがすな。」
 ヤンガスにますます立派になったと形容されたエイトは、ここ最近は王族としての自覚にも目覚めたのか本当に逞しくなっていた。それにいち早く気づいたのかヤンガスはうっすらと涙すら浮かべている。
 「そう言ってくれると嬉しいけれど、わざわざ遠くまで訪ねてきてくれた用事は別のことだろう?先に話しなよ。」
 各国の貴族たちとも会う機会が増えて王族としての貫禄も付いてきたエイトであったが、昔なじみの仲間に褒められ照れてしまうようで、照れ隠しに先を促した。
 しかし、先を促されたヤンガスのほうが今度は言いにくそうに俯いたりしながら、「あーうー」と意味のなさない言葉を発しはじめた。
 ヤンガスについてきていた女盗賊のゲルダもなぜか照れくさそうに、肘でヤンガスを小突いている様。
 エイトと隣に控えるミーティアは用件を感づいているだけに、顔を見合わせて笑いをかみ殺すのに必死であった。







 「ところで、お二人はどのようなご関係で?」
 他愛もない話はいろいろと盛り上がってはいるものの、肝心の話の入り口にも達せないというのに、小一時間が過ぎ去ろうとするころ、さすがに不憫になってたかミーティアが助け舟を出す。
 機転を利かせたその問いかけにヤンガスはさすがにここで言わなければ、最後まで言えないだろうと悟り、意を決したように口を開いた。
 「実はアッシら結婚しようと思ってるでがす。アッシらは年齢も年齢でげすし、職業も職業でがすのできちんとした式はできないでガスが、兄貴にだけはきちんとご報告したかったでがす」
 これ以上は自らの口では限界と思ったのか、傍らのゲルダを見やるものの頼みのゲルダは真っ赤な顔でそっぽを向いてしまっている。
 そんな二人を交互に見やっているうちにエイトはとうとう耐え切れなくなって噴出してしまった。
 いつもは物怖じもせずに言いたいことはポンポンと語るヤンガスと、怖いもの知らずの女盗賊ゲルダが揃っておどおどする様はそうめったにお目にかかれるものではない。
 「兄貴、いくら兄貴でもここは笑うところではないでガス」
 ヤンガスは小さな声でそう言い、ますます俯いてしまう。
 「ヤンガスさんの言うとおりよ。エイト。ここで笑っては失礼だわ。笑いはこらえなければならないわ。」
 明らかに笑いをかみ殺したかのようなミーティアの口調にヤンガスは「馬姫さんも何気に失礼でがすな」と呟いた。





 「ごめんごめん。悪気があったわけじゃなかったんだけど、あんまり面白くて」
 エイトは顔を引きつらせながら言ったが、これではまるでフォローになっていない。
 しかし、ヤンガスはそんなエイトを見て素直に良く笑うようになったと感じていた。尊敬する兄貴の良い意味での変化には喜ばしいことだった。
 「さて、そんなことを話してる場合じゃなくて。実はね、二人にオレらから渡したいものがあるんだよ。ね?」
 そう言って、茶目っ気たっぷりな顔でエイトはミーティアに同意を求める。ミーティアはそんなエイトにゆっくりと頷く。
 「ですが、その前に。もうそろそろお入りになられてください。」
 「やっとお呼びがかかったよ」とは赤い服に銀の長髪の男。「待ちくたびれて帰ろうかと思ったわ。」とはツインテールに胸の大きな美人。





 「ククール!ゼシカ!なんでこんなところにいるでガス!?」
 大きな身体を大げさにのけぞらせ、驚くヤンガスにククールはこれまた大げさに両手を広げ「参ったね。こりゃ」と呟いた。
 「ヤンガスとゲルダさんが来るって言うからエイトが総力挙げて旅の途中だった私たちを見つけて招いてくれたのよ。エイトにはあなたたちの用件なんてバレバレってわけよ」
 ゼシカの説明を苦笑いを浮かべながら黙って聞いていたエイトであったが、話を先に進めようと再び口を開く。
 「どうせなら、大勢でお祝いしたほうが良いだろ?で、これオレたち4人からのお祝い。お宝の匂いには目がないヤンガスとゲルダさんがいつ気づくがドキドキしてたんだけど、全く気づいてなかったみたいで助かったよ。」
 苦笑いを浮かべながらエイトが指差した部屋の隅には、不自然なくらいに違和感がある大きな布に包まったものがあった。エイトが言うようにこの二人が気づかないのが不思議なほどのものだった。顔を見合わせながらわけが分からないと言う顔をしているヤンガスとゲルダにくすくすと笑いがこぼれながらエイトとククールはそれに近づき、両端から丁寧に布をめくった。
 ゲルダはそれを見た瞬間、息が止まるかのような驚きを感じた。まさかそんなものがここにあるとは露ほどにも感じていなかったのだから。
 それは、ゲルダのために用意された真っ赤なバラをモチーフにしたウェディングドレスであった。





 「ヤンガスはゲルダさんのことバラのような人だって言ってただろう?だから、そんな感じでデザインしてみたんだけどどう?」と笑みを絶やさぬまま静かにたずねるエイト。
 「赤はやはりいい色だな」と冗談っぽく言うククールにゼシカは申し訳なさそうに「このバカリスマみたいな色でごめんなさい」と笑う。
 「どういう意味だよ?」とすかさず突っ込みを入れるククールと、それに反論しているゼシカは例のごとく小言の言い合いがはじまり、それを眺めていたゲルダはさすがにやっと我に帰りお腹を抱えて笑い出した。
 「あんたたち最高だ。ただのおぼっちゃまにお姫さんにお嬢さんにすかした野郎かと思ってたけど、驚かされたよ。いや・・・でもなんだ・・・その・・・・ありがとう。」
 このゲルダの言葉、前半は4人揃ってひどい言われようであったが、後半部分の照れてはいたけれど心底喜んでくれてると分かるようなお礼に言い方に皆、安どの表情とともに会心の笑顔になる。
 「アッシは今日ほど感動した日はないでがす。本当に感謝でガス」元より情にもろいヤンガスは、今にも感激の涙をあふれさせんばかりに声を詰まらせている。
 「さ、ここで男は退散しようよ。ミーティアとゼシカは着替え手伝ってあげてね」
 この調子ではいつまでたっても式を始められないと判断したエイトはせかせかと取り仕切ってククールと共に部屋を出て行った。ヤンガスもミーティアとゼシカに「よろしく頼むでガス」と言い残し、部屋を後にした。








 「・・・・・ねぇ。ここに遊びに来るって書いた手紙だけで、用件を分かったのってあのエイトなのかい?」
 強気な女盗賊ともあろうゲルダが、今はミーティアとゼシカにまるで着せ替え人形かのように扱われていたものの、先ほどからの疑問を口に出してみた。
 「そうですよ。筆不精のはずのヤンガスさんからのお手紙。そしてゲルダさんもいらっしゃると言うのを見て、ピンと来たそうです。」
 さも当然と言わんばかりに笑顔で言うミーティアの言葉を着替えの手伝いの手は止めずにゼシカが引き継ぐ。
 「エイトは仲間の面倒を良く見ていてくれるから、ちょっとした変化ですぐに分かったのだと思うわ。元来が気遣いしすぎるくらいのまじめ人間なんだろうけどね。」
 「・・・そうか。やっと分かったような気がするよ。ヤンガスがあの坊ちゃんを尊敬する気持ちが。」
 呟くように恐る恐る語るゲルダにミーティアとゼシカは顔を見合わせた後、ゼシカは笑いながら言う。
 「そうね。エイトは一見ただの人の良いお坊ちゃまにしか見えないもの。私だって、同じように思ったわ。あなただけじゃないわよ。ミーティア姫には悪いけど。」
 「今なら分かるよ。エイトの魅力ってもんが。初めて会ったときにはただただイライラしたもんだけどね。」
 女同士だからなのか、珍しくもポツリポツリとゲルダは本音を語っているようだった。
 「あっそうだ。始めてあったときと言えば、あの馬はお姫さんだったんだってね。知らぬこととはいえ申し訳ないことをしたよ。人間を売買するなんてやっちゃいけないことだった。」
 ゲルダは悪名高い女盗賊とはいえ、人を傷つけることはポリシーとしてやってはいけないと考えていた。戦闘能力があまり高くないと言うことも本人十分に理解したうえでのことでもあるが。
 今まで盗みに入った家も鼻にかけたような金持ちばかりであったのだ。決して弱者から物を盗むことのはしない。
 心底申し訳なさそうに語るゲルダに意外さを隠せないでいながらもミーティアは笑う。
 「知らなかったのだから当たり前です。それでも丁寧に毛並みを整えてくれ、ご飯も頂きました。ゲルダさんは優しい方だと、あのときから分かっておりました。こちらが感謝することで、ゲルダさんが謝ることではありませんよ。」
 ミーティア独特な穢れのない心の言葉に、「さすがはあの坊ちゃんが惚れた女だね」とにっこりとゲルダは微笑んだ。







 トントン。男性陣が控える部屋にノックの音が聞こえる。
 「さあ。花嫁の準備ができました。皆さんいらしてください。」
 「待ちくたびれたわい。はよ、行くぞ」
 扉の外から聞こえるミーティアの声に最初に反応したのはいつの間にか加わっていた、トロデ王であった。
 ヤンガスとは旅の間から、色々と口げんかをしていたものの祝福の席に加わりたいと忙しい公務の間を縫って、今日と言う日を空けていたのだ。







 「本当に綺麗だな。盗賊とはいえ、やはり女はみんな綺麗だな」
 と分かったような分からないような言葉を吐くククールを睨むゼシカもお世辞抜きで今日のゲルダは綺麗だと思った。
 好きな人と共にいる時が女は本当に綺麗になれる。まさにそれを証明しているようだった。



 「それにしても、なんじゃあのデレデレしたヤンガスの顔は」ぶつくさと呟くトロデ王にエイトはとりなすのに一苦労であった。
 「なんじゃい。チューはせんのか?」良いだけ酔いも回っているトロデは言いたい放題である。
 「チューのひとつくらい見せてくれたってばちあたんねぇぞ」トロデに同意したククールも二人に向かって茶々を入れる。
 そんな二人に助けをも求めるようにエイトを見たヤンガスであったが、当のエイトが満面の笑顔で拍手をしてるのを見て覚悟を決めた。
 ゲルダとて女である。結婚式での誓いのキスにあこがれたころもあった。ヤンガスが覚悟を決めたことを悟り、ゲルダはそっと目を瞑る。





 期待でしんと静まり返ったその部屋に、自分たちの幸せな未来を祝福してくれる仲間がいることに感謝をこめて、ヤンガスはバラの花のようなゲルダの赤く染まった綺麗な唇に、そっと触れるだけのキスをした。









++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 「6月19日の花嫁」と言う乃南アサ先生の小説が私は大好きです!
 しかも6月と言えばジューンブライド♪ということで6付き企画「花嫁」でした。
 だいぶ前から考えていた企画だったのですが、本来の予定ではヤンゲルではなくて主姫でした(^^ゞ
 ところが別で書いていた「未来へ」の進行状況が恐ろしく遅れてしまって、6月19い日に間に合う見込みがまるでなくなってしまったがために急遽(?)ヤンゲルにピンチヒッターを頼んだ次第です(^^ゞ
 主姫の結婚式は「未来へ」のラストに入れるか、別に書くかはまだ実は決めていないのですが、いずれはその話も・・・とは思っています。

 さて今回のハッピー(?)ウェディングなのですが、急遽のピンチヒッターの割には気に入った感じには仕上がりました。
 ただ、入れたいことが2つあったので、その要点変更が良く分からないと感じなくもない。。。
 ヤンゲルの結婚式は当然なのですが、ミーティアがさらわれた事件の時のゲルダとミーティアの話を入れてみたくて(^^ゞ
 ここ意外では、私の文才では入れれる話が見つからなかったんです(^^ゞ
 ミーティアのことはゲルダさんは絶対に大事にしてたと思うし、それをミーティアは恨んでなどいなかったと思ってますので。。。別解釈がある方にとっては申し訳ない気持ちですが、、、

 ただ実際問題、ヤンガスは尊敬する主人公より先に自分が結婚するのはどうか?などと思うのではないか?と言う思いも私の中では在ります。
 なので、その点でも少々葛藤のいる話でした。
 ちなみにこの時点で緒ククゼシは2人でマルチェロをい探す旅の途中であったと理解して下ればありがたいです。
 また私にとってのヤンゲルは本当に幸せになってほしいカップルです。もちろん主姫&ククゼシにも幸せに名なってほしいですけどね(笑





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Photo by.空色地図

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