「エイト、悪い事は言わねぇから、今日のところは引き上げようぜ」
 「ククールの言うとおりよ。これ以上行ったら、みんなただじゃすまなくなるわ。」
 「兄貴戻りましょう。アッシが言うのもなんですが、ゲルダはあれでもキチンと世話してくれてるでガス」



 ヤンガスの故郷パルミドで馬に姿を変えられたミーティアがさらわれた。
 ヤンガスの昔馴染みの女盗賊ゲルダが買い取っていたと、居場所は分ったもののゲルダは「ビーナスの涙」と交換だと言い張った。
 その「ビーナスの涙」は剣士像の洞窟にある宝だと言う事でエイト一行は早速、この洞窟に入っていた。
 しかし、この洞窟はそう簡単には訪問者を受け付けないようであった。
 いたるところに仕掛けがあり、思うように進めない。挙げ句、魔物が強力で一行は体力の限界に陥ってしまった。
 特にエイトは先ほどのモンスターとの戦闘により肩口をパックリと切られ、出血も激しい。治してやろうにも回復アイテムも底を付き、魔力もほとんど残っていない状態である。
 もちろん皆、早くミーティアを取り返したいものの、今の状態では最深部までたどり着く事は不可能に等しい。



 「わかった。皆は先に帰っていて。オレ一人でもう少し行ってみる。」
 エイトは自分自身に無茶をする事は多々あるものの、集団行動を乱すような事を言うのは珍しい。
 それでも仲間達は今日のエイトを見ていると予想の範疇だったらしくククールなどは小さく舌打ちをする。
 普段なら慎重すぎるくらい慎重に事を運ぶエイト。宝箱一つ開けるにしても最善の注意を払っている。
 それが今日はどうだ。先を急ぐあまりなのだろうが、端から見たら怪しげに見える扉を開き飛び出してきた壁に押し出され落とし穴に落ちた事数回。方位も分らぬまま進み行き止まりだった事数回。明らかに焦って突っ込んでいるのである。
 それだけミーティア姫が大事なのだろうが、これでは逆効果だ。

 「我がままなのは分ってる。でもオレは行かなきゃならないんだ。お願いだから行かせて。みんなは良いから」
 エイトは、言い訳のような独り言のような言葉を発する。
 それを聞いたククールは仕方がないと再び舌打ちをしたかと思うと、エイトのみぞおちに拳を叩きつける。
 ククールより力も体力もあるエイトであるが、この出血状態では今まで意識を保って来れた事が不思議で、しかも不意打ちであったがためにあっけなく気を失った。
 ククールは男の割には華奢なエイトをいとも簡単に肩に担ぎ上げ「帰るぞ」と短く言い放った。
 兄貴第一主義のヤンガスも、ククールの行動にはいつも難癖つけるゼシカも今回ばかりはククールの行動が正しいと判断して素直に従う。





 「おぉぉ〜おぬしら待ちかねたぞ。で、どうじゃった?ビーナスの涙とやら手に入れたのか?」
 洞窟の外に出ると言葉どおり一見して待ちかねていたと分るような切羽詰った様子でトロデ王が話しかけてきた。
 「すまねえでがす。中は強い魔物がうじゃうじゃな上に、やたらめったら仕掛けが多くてとりあえず引き返してきたでがす。」
 パルミドに行こうと言い出したのはヤンガスである。しかもパルミドの町の事は良く分っていたヤンガスはこうなった責任は自分にあると感じ、さすがに心底申し訳なさそうに詫びた。
 「なんじゃと〜!!!こうしている間にワシのかわいい姫がどうなってしまうか」
 トロデ王も大事な一人娘が誘拐されたわけで、居ても経っても居れらないのか周りの状況判断も曖昧に皆にに食ってかかる。
 「王様の気持ちは分るけど、ゲルダさんって人はたぶん姫様を丁重に世話してると思うわ。それより今はエイトのほうが心配よ。」
 トロデ王の剣幕にもたじろぎもせずゼシカは言い、ククールもそれに同意する。
 「うん?エイト?どうしたのじゃ?」
 己の血でどす黒く染まった服に青白い顔で気を失ってるエイトに気付き、さすがのトロデ王もたじろいだ。
 「こんだけの怪我しておいて、まだ先に行くと強情はるんで、少々荒っぽいが一発お見舞いしてやったのさ。」
 そう言ったククールはトロデ王に一瞥し、ゼシカが言葉を引き継ぐ。
 「さっき私達に言ったセリフ、エイトにだけは言わないでね。エイトは帰りましょうって言った私達に一人で先に行くって言ったのよ。」
 最後のほうは涙声になっていた。
 「おっさん、アッシが全て悪いでがす。今更詫びたところでどうにならないでがすが。けど兄貴だけは責めねえでくだせえ。危険を顧みずに我を忘れて突っ込む兄貴は二度と見たくないでガス。」
 ヤンガスは言い終わると恥ずかしげもなく泣き崩れる。
 「・・・うぬ。すまんな。ワシも動揺しておってな。姫から離れて酒を飲んでいたわしも悪いのじゃ。」
 そんあ状況を見て、わがままなトロデ王もさすがに今の状況は深刻なものを感じ取ったのか皆に素直に謝る。



 洞窟の外で野宿する事が決定し、それぞれに火をおこすもの、食料を調達するもの、寝床の用意をするものとテキパキと作業は進んだが皆無言であった。
 そんな状況を最初に破って言葉を発したのはトロデ王だった。
 「皆疲れたであろう。エイトと火はワシが見ているから、皆休むといい。明日も頼むぞ」
 野宿の際の火の番は交代でしているが、もちろん今までトロデ王がその番に参加した事はない。
 トロデ王自身が火の番をするなどと言った事も当然ないが、仮に言っていたとしてもエイトが許すはずもなかった。一行の中で一番眠りが浅いのはエイトで交代のはずの火の番もエイトがすることが圧倒的に多かったので、こういうことはエイトの意見が通る。
 しかし、そんな王自らが火の番をすると言うのである。ヤンガスもゼシカもククールも驚きにぽかんとした顔をしている。
 「そんな顔をするでない。早く姫を取り返さなくてはならんのじゃ。疲れた身体のまま明日を迎えられたら困るだけじゃ。はよ寝れい!」
 そういうトロデ王に、3人は顔を見合わせながらも頷きあった。
 「じゃ王様よろしく頼むぜ」
 「なにか、あったらすぐ起こしてね。」
 「すまねえでがす」
 それぞれ短く一言、声をかけて寝床に向かった。





 皆も相当疲れていたのであろう。あっという間にすうすうと寝息が聞こえてくる。
 トロデ王は意識を失ったままのエイトの傍に来た。
 エイトは傷のせいで多少熱が出ていたものの、トロデ王が持っていた薬草のおかげで傷口はふさがっており顔色も多少良くなっていた。
 「・・・・・・う・・・んっ。・・・・・ひめ」眉間にしわを寄せエイトは寝言を発した。
 「おぬしは昔から変わらんのぉ。そんな怪我をしてまでミーティアを守ろうとしてくれるのじゃな。おぬしにも行きたい道があろうに。すまぬ」
 熱を冷ますために額に置いた濡れた布を取り替えてやりながらトロデ王は依然として意識の戻らぬままのエイトに詫びた。
 「ミーティアの事は心配じゃが、ヤンガスやゼシカが言うようにあの女盗賊を信じる事にしたぞ。だからおぬしはゆっくり休め。おぬしを失うようなマネはしたくないのじゃ」



―――ミーティアを無事取り戻したところで、エイトに何かあればミーティアが悲しむ。エイトよ。ミーティアの気持ち分ってやってくれ―――






++あとがきと言う名の言い訳・・・っていうか解説++

 ちょっと取り乱したエイトを書いてみたかったのです。
 姫がさらわれたときにはエイトは絶対に取り乱したと思うんです。
 実はこの小説の案は書いてる私自身が風邪引いて痛い頭で考えたので、なにやら知らぬ間にエイト君も痛い思いをさせてしまってました(笑)
 たまにはこういうのもありと言うことで(笑)

 ちなみにですが、私は小説の中ではルーラは使わないで書いています。
 あっという間に移動できてしまったら小説バランス崩れるんです。もちろん私の場合だけですが(^^ゞ
 本来はリレミトも使いたくないんですが、今回の話は仕方がないからリレミトを使ったと言う事になりそうです。
 正直嫌だったんで、リレミトと言う表記はしませんでしたが。。。





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